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電車を乗り継ぎ、たどり着いたのはとある地方の街。田舎というほどでもなく、都市というほどでもないこの街に、魔女の家はある。外観は普通の一軒家だ。庭付きなのは都市部でない特権。瑞樹は見た目はどこにでもありそうなゲートを開けた。
ゲートを通ると、瑞樹は空気が変わるのを感じた。濃厚な森の匂いがする。この匂いを嗅ぐたびに、瑞樹はああ実家に帰って来たなと思う。瑞樹の実家は、この世界と魔女の里を繋ぐ鎖のような立ち位置にあるのだ。
ガキの時は、友達の家に遊びにいったら母ちゃんが魔女鍋煮てなくてびっくりしたもんなー、あれはカルチャーショックってやつだった。
魔女は火と水を操る。水を熱しながら少しづつ念を込めていく。念を込めて、いろんな材料を混ぜて、それを煮詰めるとあらゆるポーションができ上がるのだ。だから人がイメージする魔女は常に何かを煮ている。
幼い頃、瑞樹は母に『水にえーいって願いを込めちゃダメなの?』と聞いたが、『あら、お砂糖だってお湯のほうがたくさん溶けるじゃない』と母は笑った。まあそういうものかなと思っている。
「ただいまー。」
瑞樹は荷物を置いてリビングに入った。
おおーっと。これはこれは。
案の定、姉はキレキレだった。魔力は見えない瑞樹だが、姉の放つ静電気みたいなパチパチしたものは肌で感じる。
「遅かったじゃない。どこで道草食ってるのかと思ったわ。」
と綺麗な笑顔で微笑まれたが、あははと笑うしかない。
「瑞樹、おかえりなさい。」
母はそんな姉に動じず、のんびりとお茶をしている。
「瑞樹ーおかえりー。」
とキッチンから声をかけるのは父だ。夕食の下準備をしているのだろう。
それからは姉のおもちゃにされ、パシリにされ、もう酒を飲むしかないと飲んだくれた瑞樹は、あれ、こんなに酔うの早かったか、年だからか、それとも疲れが溜まってるからか、来年こそお隣さんに声をかけるぞと思いながら眠りについた。
酔っ払っている間に、姉にうっかりお隣さんのことを話したり、風邪のときに食べ物を持って来てくれたのが胸キュンだった、と話したことは瑞樹は覚えていない。
『大丈夫よ、お姉様が協力してあげるから。』と慈悲深い顔で微笑まれた時に、『うん、お願い。』と素直に頷いたことも。
 




