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恋が叶うチョコレート  作者: 上条ソフィ
ギブミーチョコレート
15/54

4

忙しい。

くそ忙しい。


『いやー師走は師匠も走るって言うからね。はっはっは。』と言う上司の戯言を拾えないほど忙しい。


瑞樹はプレゼン資料をひたすら作っていた。あれから数日で風邪は治ったが、仕事が忙しすぎてお隣さんにはお礼に行けないでいる。かろうじて『隣の佐々本です。大変お世話になりました。お礼はまた後日させてください。』というメモをお隣さんのポストに残しておいたのだが…


…連絡先を書いとくべきだった。すぐに会えると思ったんだよ。なにせ隣だし。最近は終電近くに帰ってるからな。さすがにその時間に訪問するのはダメだろう。それにしても…


「…おい、このデータ古いやつだろう?」

「あれ?そうだったか?悪い、直しといて。」

隣に座る同僚がパソコンから目を離さずに言った。

「おい!このデータ直したら他のも直さないとだろう!」


「あっ、ついでにそこも直しといてー」

「俺のやつもついでにー」

「私の資料もー。」

他のデスクからも声がする。

「はあ!?自分でやれよ!」

と言いつつ、瑞樹はデータの修正に取り掛かった。同僚と軽口を叩く時間も惜しいのだ。


上司も『すまないね、病み上がりに。』とすまなそうに言っているが、目が笑っていない。わかる、わかるよ、この厄介な案件をどうにかしてから年を越したいんだよな。


ひたすらデータの修正をしていた瑞樹だが、ぷつっと集中力が切れたのを感じて背伸びをする。


なんか飲むか。


自販機に行こうと思って席を立つと、グッと手首を掴まれる。

「…どこに行くの?」

先輩の中川さんが、引っ詰めた髪から流れ落ちた長い髪を鬱陶しそうに払いながら顔を上げた。

「あー…ちょっとコーヒーでも飲もうかと。」

「私の分も。お願い。」

中川さんはブラウスの胸元に手を入れると、中から千円札を取り出して言った。


…今、服に手ぇ突っ込んでなかったか?え、下着の中から…?


瑞樹は折り畳まれた千円札と中川さんの胸元を交互に見ていたが、『なにか問題でも?』と中川さんが片眉を上げたのを見て、千円札を受け取ってそそくさとその場を離れた。


かんっぜんに集中力切れたな。外のコンビニ行くか。


瑞樹は階段を降りると、ビルの外を歩き出した。しばらくぼーっと歩いていた瑞樹だったが、目の端になにかが写った気がして横を向いた。


お隣さんだ!この辺で働いてるのかな。


瑞樹は道路の向かい側を歩いているお隣さんを見つけてぱっと目が覚めた。が、彼女の隣を歩く背の高い男性を見かけて胃がもやもやする。


仕事関係の人…だよな。彼氏かな。いや、まだ働いている時間だし。でも距離近くね?あんな楽しそうな笑顔。初めて見た。

…今日は絶対に早く帰ろう。それで、もう一度ちゃんとに礼を言って、食事に誘うんだ。あそこのイタリアンがいいかな。


そう決意して職場に戻った瑞樹だったが、結局その日も終電ぎりぎりの帰宅だった。



「年末は帰ってくるわよね?」

電話に出て開口一番そう言ったのは姉の真里である。

「いや、今年はいいかなって。遠いし。」

終電間近は電車の本数も少なくなってくる。瑞樹は寒いホームで電車を待ちながら、姉に返事をする。

「帰ってくるわよね?私にママとパパと3人で年末年始を過ごせなんて言わないわよね?」


やばい、声がキレそうだ。これは気をつけないとめんどくさいことになるぞ、と思ったのは長年の経験からだ。


姉は最近離婚したばかりである。本来なら旦那と初のラブラブ年末年始だったはずなのに、実家に出戻った姉は、当然というか、控えめに言っても荒れている。

年末年始はゆっくり過ごして、お隣さんと、やあ、偶然ですね。この前はありがとうございました、なんて言いながらあわよくば飯に行ったり初詣なんて行っちゃったりなんて考えていたのだが。瑞樹は自分の計画、というか妄想がガラガラと崩れていくのを感じた。


一応実家に帰る前にお隣さんを訪ねたが、留守だった。年末年始なので実家に帰っているのかもしれない。

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