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恋が叶うチョコレート  作者: 上条ソフィ
ギブミーチョコレート
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2

出張は長引いた。1日か2日でカタがつくと思っていたが、なんとか形になってこっちに戻ってこれたのは数週間が過ぎてからだった。瑞樹はやっと帰ってこれた安心感から、やれやれ、とビールを飲んで寝たのだが…


…風邪ひいた。

やべえ。

咳が止まらない。


確かに昨日の夜は少し疲れてはいた。だから早めに寝たのだが…

…体調が悪い時って、やばいと思った時はもう手遅れだったりするからなー。風邪なんてひくの久しぶりすぎてこの感覚すっかり忘れてた。


上司に連絡を取り、病院に行ってこいと言われたので従う。病院に行って検査してすげー待ってやっと呼ばれたと思ったら、案の定『風邪ですね』と言われた。


うん、分かってた。ですよね。


瑞樹は一週間分の薬をもらって、ふらふらと家に帰ってそのままベッドにダイブした。家に食うものはあるんだろうかという思いが一瞬頭を横切ったが、咳をしてるし、頭も働かないし、コンビニに寄る気力もなく、そのまま家に帰ったのだ。


それから数時間寝て、腹が減ったと思いキッチンに向かった瑞樹は、冷蔵庫の前で項垂れた。食べられるものがなにも見つからない。


うそだろ、いや、なんにもないってことはないだろうが。

働かない頭で冷蔵庫を漁った瑞樹だが、かろうじてこれはいけるんじゃないかと思ったのは、ケチャップとマヨネーズ。

ビーフ オア チキン? ならぬ、ケチャップ オア マヨネーズ? だ。

飛行機の中で客室乗務員にケチャップとマヨネーズを差し出された幻覚を見た瑞樹は、とりあえず寝るかと、すごすごとベッドに戻った。


ゲホっ。ゲホゲホゲホ

やべえ、咳が酷くなってきた。熱?わからん。一人暮らしのヤローの家に体温計なんてないんですよ。

ゲホゲホゲホ、ゲホゲホゲホ。

頭が割れるんじゃないかというほど咳をした瑞樹は、

「腹減った…」

と呟いた。しんとした部屋に声が響く。ああ、一人だな、と実感する。


こんなときに『あなた、おかゆを作りましたよ』なんて言ってくれる人がいたら…それがお隣さんみたいに可愛い子だったら…

瑞樹はベッドに横になりながら、エプロン姿のお隣さんを想像する。お玉を持ったお隣さんがにこっと笑ったところで、その顔が姉の顔にすり替わる。『あんた、風邪ひくなんて体調管理がなってないんじゃないの?』と鼻で笑われたところで…


ピンポーン


瑞樹は目を覚ました。寝落ちしていたらしい。


お隣さんかな?とちらと頭によぎるが、まさかと思って打ち消す。のろのろと起き上がって、「…はい」と返事をする。


声が全然出ねえな。


瑞樹はひりひりする喉を押さえた。


「あのっ夜分遅くに申し訳ありません。隣の清水と申します。具合が悪そうだったので食べ物を持ってきたのですがっ。手作りではなくて、市販のものです!」


…ついに俺は幻聴まで聴こえるようになったか。夢にまで見たお隣さんが、お宅訪問…?


くらりと後ろによろめきそうになった瑞樹だが、「やっ…」というお隣さんの声を聞いて、反射的に

「…ありがとうございます。」

と早口で言った。

「えっあっおかゆと!飲み物が入ってます!紙袋をドアの前に置いておきますので。もしいらなかったらそのまま置いておいてください。明日回収します!」

という声が聞こえたと思ったら、ぱたぱた、バタン、という音がした。お隣さんは家に帰ったらしい。


…まじでお隣さんだった。夢か。現実か。


ドアを恐る恐る開けると、動物の絵が描かれたファンシーな紙袋に食べ物が入っていた。おかゆとスポーツドリンクの粉がちらりと見えた。


…天使か。お隣さんは天使だったのか。


震える手で紙袋を持ち上げて家に戻ると、瑞樹は冷たい床の上に膝をついて中を覗く。


「ゼリーだ!果実ごろごろゼリーだな!俺ゼリー食うぞ!」

どこからともなく現れた黒い塊が、ゼリーを引っ張り出そうとした。

「やんねーよ!」

瑞樹はしゃがれた声で叫ぶと、黒い塊をしっしっと払い退けた。


この黒い塊、いや、悪魔は、姉の使い魔だ。こいつは神出鬼没で、基本的には俺には関わらない。いつもは俺のことは空気以下の扱いをするが、気まぐれにやって来ては、訳のわからないことをして消えていく。


名前は姉がつけたものがあるが、名前を呼べるのは使役している姉だけ。だから俺は悪魔と呼ぶ。一代限りで魔女と契約する悪魔は多いが、こいつのように代々引き継ぐのは珍しいらしい。


悪魔は土地や生き物のエネルギーを糧にして生きている。特に人間の負の感情がなによりのご馳走という悪趣味な奴らだ。姉の真里の使い魔のこいつは、魔女の恨みの念を糧に生きている…はずなんだが…


なぜかこいつは最近、甘いものを食べるようになった。真里が与えるわけがない。悪魔は何も摂取しなくても数百年単位で生き延びるしぶといモノだ。なのに今はちょくちょく家に顔を出しては、甘いものを出せと要求してきやがる。どこで覚えてきたんだ。…勝手に人の家とかから盗ってきてないよな!?いや、俺の管轄ではない。監督責任は使役してる真里だ。真里のところへ帰れ。

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