表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋が叶うチョコレート  作者: 上条ソフィ
恋が叶うチョコレート
10/54

10

翌朝。

日が伸びてきたとはいえ、まだ朝は薄暗い。あともうちょっとウトウトしていたい、と和葉が寝返りを打つと、佐々本の家から大きな音が鳴り響いてきた。


「ケケケケケケケ」

「ケケケケケケケ」

「ケケケケケケケ」

「ケケケケケケケ」

「ケケケケケケケ」



和葉はびっくりして起き上がった。


「えっなに!?佐々本さん!?」


笑い声は何重にも響いているようだ。和葉はパジャマのままコートを羽織って佐々本の家へ向かった。


「佐々本さん、佐々本さん、大丈夫ですか?」


ドアを遠慮がちにノックする。


和葉!こっちだ!というくーちゃんの声がして、ドアがばんと開いた。

びっくりした和葉だが、失礼しますーとそっと中に入ると、佐々本がベッドで苦しそうに悶えていた。佐々本の体には、顔、腕、脚、スウェットから覗いたお腹にまで、例の顔が大量に浮かび上がり、その一つ一つが笑っているようだ。


うわあ、これは…さすがに気持ち悪い。


「佐々本さん、大丈夫ですか?痛い?」

動揺を押し殺し、和葉は投げ捨てられた布団を避けてベッドに近づくと、佐々本の目を覗き込んだ。


わっ、目の中にまで顔がある。佐々本さん見えてるのかな?


後ろからくーちゃんが和葉、と話しかける。

「タイムリミットだ。」

「タイムリミット?」

「こいつの呪い。今日本格始動するようになってんだよ。日付けが変わって朝までもったからがんばったほうだな。」

「呪い!タイムリミットなんてあるの!?だったらもっと真剣に考えたのに!」


佐々本さんがいつも笑ってたから、なんとなく大丈夫なんじゃないかって思ってた。まだ時間はあるんじゃないかって。もしかして痛いのずっと我慢してたのかな。なんでもっと真剣に話を聞いてあげなかったんだろう。


和葉は悔しげに唇を噛む。


…ごはんに夢中だったからですね、私たちの話題はほとんどごはんだったからなあ。


和葉は遠い目になる。


「あー、タイムリミットのこと言うのも禁止事項に入ってたからな。」

くーちゃんが和葉の肩に乗った。


佐々本はぐぐぐぐと苦しそうだ。息が乱れ、汗が額から流れている。

和葉は佐々本の手を握って声をかけた。

「佐々本さん!」

「…和葉?出ていけ!危ないから!」

佐々本が顔が浮かんだ目を和葉の方に向けて叫んだ。


…和葉?なんて呼ばれたの初めて…胸がぎゅっとする。いや、それどころじゃなくて。


「でも!私が解けるんでしょう?」

「解きたいか?和葉。こいつの家はな、魔女一家でやっかいだぞ。しかもこいつヘタレ呪われ野郎だぞ。」

くーちゃんが和葉の肩でやれやれと肩をすくめた。

「おい!」

這いつくばりながら佐々本が抗議する。

「ヘタレじゃないよ!佐々本さんは優しいもん。いい人だと思う!」

「魔女は執念深くてすぐ呪うし、突拍子のないことをしだすぞ。」

やめとけやめとけ、とくーちゃんが短い手をひらひらさせる。

「でも佐々本さんは魔女じゃないでしょう?」

「コイツにもその資質は受け継がれてるし、コイツの子供を産んだら魔女が生まれるかも知れないぞ。」

「こっこども!?そっそれは考えてなかったけど。いや、今それどころじゃ。」

和葉は顔を赤らめる。

「和葉と俺の子供なら可愛いに決まってるだろ!」

目が見えていない佐々本は明後日の方向を見ながら叫んだ。

「佐々本さん!」

和葉は恥ずかしくて火を吹きそうだ。


「うーーーーーん…」

くーちゃんがビミョーな顔をする。

ギリギリ合格ラインかな、とつぶやいたくーちゃんはため息をつくと、

「和葉、チョコ持ってこい。寝室に隠してるだろ。」

「もーくーちゃん!またお菓子漁ったでしょ!」


イケメンから買ったチョコレートは食器棚から寝室に移した。佐々本と一緒に料理をするようになってから、目につくところにチョコレートがあるのがちょっと恥ずかしかったからだ。


「チョコどうするの?」

「いいから!」

和葉は急いで家に帰ると、寝室からチョコレートを持ってきた。


「口に放り込め。」

くーちゃんが腕を組んで言った。

「え?佐々本さんの?」

「あーん、だ。」

「えええ。でも佐々本さんチョコ食べないでしょ?」


『ケケケケケケケ』という笑い声は相変わらず続いている。


「早くしないと飲み込まれるぞ、顔に。」

分かった、と和葉は佐々本の肩を叩く。

「佐々本さん、起きて、佐々本さん。」

ベッドにうずくまっていた佐々本だが、和葉の声に反応してのろのろと顔を上げる。

和葉は佐々本の頭を支えると、

「あ、あーん…」

と佐々本の口にチョコレートを押し入れた。


はっ恥ずかしい…


唇に溶けたチョコが少しついているのが妙に生々しい。


もぐもぐ、ごっくん。


佐々本がチョコレートを飲み込むと、だんだんと笑い声は小さくなり、身体中に出ていた顔も薄くなってきた。佐々本が呼吸を落ち着かせる頃には、何事もなかったかのように収まった。

「よかった!治ったんだね!」

和葉はほっと息をはいた。

佐々本の目にも力が戻ってくる。よかったよかった、と和葉が立ち上がろうとしたたころで、和葉は自分の体がふっと浮かんだのを感じた。


え?え?


目の前には佐々本の顔、チラリと横を見ればシーツが目に入り、起きあがろうとしても体が動かない。


え?え?ええ?


和葉の手首は佐々本の手に掴まれ、ベッドに押し倒されている。和葉がびっくりして佐々本を見ようとすると、鼻が触れそうな位置に佐々本の顔があった。潤んだ目、熱い吐息、掴まれた手首。身体はぴったりとくっついている。


えええええ!?ちょっと!


驚きすぎて声も出ない和葉に、佐々本の顔がもっと近づいてくる。


「和葉、かずは、す…」


スパーーーーン!


佐々本の頭に何かがぶつかり、そのまま壁にぶつかった。


「ぐえっ」

「えっ?」


くーちゃんがビジネスバッグで佐々本の頭を殴ったらしい。佐々本は壁にぶつかったまま、くたりとしている。

バカが、くーちゃんはビジネスバッグを投げ捨てながら言った。

「佐々本さん大丈夫?」

「大丈夫だ、気を失ってるだけだから。」

「えええ。」


結構いい音したよね?


一応佐々本の脈を取ってみた和葉だが、

「それより、いいのか、仕事は?」

というくーちゃんの声にはっとして、急いで家に戻った。


くーちゃんあとよろしくね!とお願いはしておいたから大丈夫…だと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ