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八十二 時代の後退


 地上では藻と台風の被害でライフラインが停止した。

地下施設も海底マンションも時間の問題だった。


英治は大分前から藻には気が付いていた。海底が見えるガラスに内側から藻が

びっしり付着していた。


子供の頃に暫く置いてあったコップの中に、緑色の藻があるのを見て何処から

来るのか? また生命力に興味を持った。


英治は大学を中退したが、生物学部で藻の研究に少し携わった。高い温度が続く

と藻が繁殖することは分かっていた。


テレビが点かなく不審に思い。リモコンを分解したら基盤に薄く藻が付いていた。


今まで経験したことがなく取り除いてもテレビ本体にも付着していて無駄と感じた。


まだ電気が供給され照明が付いている内に海底マンションから脱出しようと決めた。


必要な荷物を持ってリニアのホームに行ったが、もちろんリニアは動いていな

く誰も居なかった。軌道の横の歩道を歩いた。


マンションから陸地に向かって勾配が付いて登りになっていて所々が

階段になっていた。

透明な壁は所々に藻が付き外は漆黒の闇だった。


十キロ程の距離を二時間掛けて地上への階段室の入口に着いた。


時間を掛けて、地上まで百メートル程の階段を上がった。地上階に辿りついたら

息が切れていた。


ドアを開けて外に出ると、眩い光に溢れ台風一過の清々しい空気を感じた。


でも道路上には倒された樹木や海藻が転がり色々なものが散乱していた。


廻りの山の針葉樹は殆ど倒されていた。


歩き出そうとしたら後から声が掛かった。後を振り向くと一人の警護兵が肩から

銃をさげて立っていた。


良く見ると初老のおじさんだった。


「お兄さんは海底マンションから来たのかい? まだマンションには大勢の人が

残っているのか?」


「そうだけど、多分殆ど残っていると思う」


「マンションの事務局と連絡が取れないが、何か問題があったのか分かりますか?」


「藻が発生して電子機器が使えない状態になった。携帯電話はもちろん通じない。

これからも使えないと思う」


「困ったな。大分前に地下施設から電気がもうすぐ止まるからと連絡があった。

換気装置も停まり、空気の強制入れ替えが出来なくなる。二・三日位は持つと

思うが避難するように連絡しなければならない。お兄さんが戻って避難するように

言ってくれないか?」


「いやだよ、往復するのに五時間もかかる。それに階段の上り下りも大変だ。

俺にはそんな体力もないし、おじさんが行けば?」


「いや俺も体力もなく、ここで待機していなければならない」


「他の警護の人は?」


「台風が去ったので、この廻りの偵察と被害の状況を調べに行っている」


英治は一つだけ方法があると気が付いた。


「おじさん、事務局には何時も何で連絡している?」


「普段は携帯で連絡している」


「携帯はもう使えない。他には?」


「固定電話がある。確か線で繋がっていると聞いたことがある」

それを聞いて二人は警護室に戻った。


そのまま電話しても繋がらなかった。


まだ、マンション側の受話器が、藻に侵入されていないことを願い警護室の受話器

を分解して藻を取り除いた。


そして、組立て連絡したら事務局に繋がった。用件は連絡出来た。


「お兄さんはこれから何処へ行く?」


「故郷にお袋が居るから帰える」


「それは良い。まだ台風が来るからこれを持って行け」とヘルメットを渡された。


「おじさんは歳に見えるが何故、警護兵になった?」


「俺は空調会社の社員だった。身内がいないので、この海底マンションの

メンテナンス要員にされた。知っていると思うがリニアのホームが暴徒に

占拠された時に警護兵の半分以上戦死して、人数調整のため警護兵士にされた」


「知っている。あの時は皆これで最後と覚悟した。話は違うがおじさんその銃は

新しいタイプのマシンガン?」


「そうだよ」


「もう、その銃は使えないと思う。少し半導体を使っているようだから?」


「え、そんなー」と言って、上に向けて引き金を引いたが弾は出なかった。


「そらな、暴発するから安全装置を掛けて置いた方が良い。使えるのは回転式の

銃だけだが、その内薬莢の中にも藻が入り使えなくなる」


おじさんは慌てて安全装置を掛けた。


「あんたは良い人だ。だから本当の事を言わせてもらう。今となってはどうでも

良い事だがその金髪の頭は似合わないから止めた方が良い。黒い髪の方が印象は

良いと思う」


今まで、誰からも言われたことがなかった。


金があるゲームソフトの社長で、ちやほやされるだけで誰も本音を

言ってくれなかった。


確かに言われて警護室のガラス窓に写っている自分の姿を見ると似合っていない。


取巻きに似合っていると言われ勘違いしていた。金を持っているだけで

優位だと思っていた。


金とコネで有名女優と飲食ができて八億円で豪華なマンションを買ったが、

円華のように金にも地位にもなびかない女優がいることも知った。


金が全てと思って来たが間違っていたと分かってきた。


八億で買ったマンションにも未練はなかった。


金と地位を失ったことで気持ちがすっきりして、円華への恨み、

妬みは嘘のように消えた。


英治はこれから先藻が収まるまではアナログの生活になると確信した。


そして、一人暮らしの母と暮らすために故郷に帰って行った。


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