七 耐火服の仕事
祐介のところにも行政から封書が届いた。
(貴方の点数は合計五十です)祐介はまた、ゴミ箱に捨てた。
芸能事務所より久しぶりに連絡が来た。
もう一カ月以上も連絡がなかったので焦っていた。
芸能関係の仕事でなくても良いか? と聞かれた。
生活費もなくなりかけていたので良いですと返事をした。
仕事の内容は国内の少し有名な繊維メーカーが耐火服の製作を始める。
耐火服を着て色々な条件でのデーターを集めるため耐火服を着る人を
探しているらしい。
年齢は二十歳~三十歳の健康な男性を募集していた。
此処だけの話だがコスチュームのスーツや着ぐるみの仕事をしていた人間だと
データーが有利になるらしい。
それで戦隊ものをやっていた祐介に話が来たらしい。
他に何も無いので引き受けた。
一応面接があるようで決められた日にメーカーの工場がある関東の町に出かけた。
祐介のアパートより電車を乗り継いで都会の雑踏を抜けて五十分位で着いた。
工場の入口で守衛に名前を告げると(来訪者)のカードを渡されて首に掛けた。
入口近くの事務所棟の二階の小会議室に入ると、すでに九人の面接者らしき人が
椅子に座っていた。
祐介が座ったのは最後の椅子だった。
何人か後を向き祐介を見て来た。その中には戦隊もので一緒だった男がいた。
彼もマスクの取れないヒーローだった。
暫くすると、入口から背広を着た事務員らしい二人の男が入って来た。
上司らしき男は面接者の前に座った。部下は皆に書類を配り上司の横に座った。
それを確認すると上司が話を始めた。
「今日は面接と言うことで来て貰いましたが皆さまは全員合格です。今から仕事の
内容と報酬についてお話します。質問は話が終了したらお願いします。我が社は
耐火服の製作、販売を始めることになりました。ご存じの通り高い外気温度から体
を守る服で試作品から製作して、それを皆さまに着て貰い様々な温度や時間で
データーを取らせて貰います。完成は4年後でそれまでが契約期間になりますが、
進捗状況で短くなる事もあります。皆さまには週に一度ほど午前十時から
午後四時まで仕事をして貰います。報酬は月四十万で交通費も負担します。
昼食もご希望の方にはお出しします。事務所を介している方は事務所を
解約して個人で契約してもよろしいです。机の上に契約書があるので納得した方は
署名をしてください。では質問のある方お願いします」
「耐火服の使用用途は? 消防とかF1レーサー用ですか?」
「違います。消防とかF1レーサー用はもうあります。行政からの依頼で使用用途
は極秘に成っています。行政が要求する性能で製作するものです」
「四年は長いので体調を壊したりした時には解約はできますか?」
「できます。ただ極秘事項なので四年間は実験の内容は他言しないでください。
もし他言した場合の罰則は契約書に書かれています。製作を依頼されているのは
何社かありますので解約しなくても秘密にしてください」
祐介は事務所で引かれても十分生活していける金額で満足していた。そして週に
一度行けば良くて他の仕事も出来ると思い質問する奴の気が知れなかった。
気になり契約書の罰則事項を見た。
実験内容(防火服の素材、形状、部位について温度、時間、環境、条件)について
他言して弊社に損害が発生した時の金額の全てを弁償することと書かれてあった。
大変な金額になるだろうと思ったが余り気にしなかった。
最後に体のサイズを測り今日の予定は終了した。
アパートに帰り仕事が見つかった事を円華に伝えようと携帯に連絡した。
一カ月ぶりだった。仕事が決まった事は喜んでくれたが、声が何時ものように
弾んでいなかった。
又会いたいと言うと映画の準ヒロイン役が決まり、明日から地方で撮影が始まる
ので暫く会えないと言われた。
分かったと祐介は携帯を切った。
彼女は確実に女優の道を駆け上がっていると思えた。
撮影は半年程掛かるそうで、祐介はその間は彼女の為に連絡は止めようと思った。
元々彼女の方からの交際なので未練はそんなに無かった。