五十九 秘密の通路と女優
英介は武内に呼ばれた。秘密の通路から女性が二名この施設に入って来るので
迎えに行って欲しいと頼まれた。
秘密の通路の存在は極秘なので知っている者しか入れなかった。英介にその仕事が
廻って来るのは通路の施工図を描いたので仕方のない事だった。
五十階の東、南、西、北の住居エリアの先端部の外壁沿いに、倉庫が何か所もあり、
その中の一か所の倉庫の中に秘密の通路の入口があった。
迎えに行く通路は4か所の中で一番短く4キロほどだった。
五十階の住居エリアは警護とメンテナンス員用なので昼間は人影がなかった。
倉庫の鍵を開けて中に入ると奥に一人用の小さいドアがあった。鍵を開け中に
入ると縦横三メートル程のコンクリート製の通路があった。それを出入口に
向かって歩いて行くと、センサーで前方の照明が点き、後方の照明が消えた。
それを繰り返しながら五十分位歩いて出入口に着いた。
入口の外には監視カメラが付いている。中のモニターには二人の若い女性が
写っていた。円華と女優Sだった。
英介は他に人がいないか確認してドアを開けた。
ドアから鞄を持った女性二人が入って来た。
英介は急いでドアを閉めた。見覚えのある顔だった。
「女優さんですね?」
円華はそうですと答え二人の名前を教えた。
有名な女優だから施設に入るのが、何かの理由で遅れたと思い尋ねたら選ばれて
いなかったと言われて驚いた。
三人は英介を先頭に施設に向かった。
「おじさんは兵士ですか?」女優Sが聞いてきた。
「いや違います。私はメンテナンスの人間です」
「では何故、銃を持っているのですか?」
「警護隊の人数が少ないので、両方の仕事をしています」
「メンテって何のメンテ?」
「建築です」
「建築って、おじさんがこの施設を設計したの?」
「違いますよ、私は工事からなので」
「おじさんは一級建築士?」
「そうですけど」
「凄い、私達の業界では縁がないけど、へえー」
「免許持っていても貧乏人の年寄りです」
「そんなー 嘘でしょう?」
「昔から建築設計の仕事とか免許を持っていると凄いとか儲けているとか
言われるけどそんな事はありません。一部の人だけです」
二人の声は狭い空間なので響いていた。
円華は首相の発表を聞いた時はパニックになったけれど運命を受け入れ
その時まで普通に生きて行くと決めた。胆の座った性格だったが女優Sは
今まで苦労していない環境だったのでこの状況は厳しく精神状態が
異常になりかけていた。
円華は二人の会話を聞いて女優Sが少し元気になったと安心したが自分達だけが
助かるために地下施設に入ることに後ろめたさを感じていた。
暫く歩くとドアがあり倉庫に出て、人が居ないのを確認して通路に出て
英介はカードを渡した。
「あそこのエレベーターに乗って四十三階に行って下さい。カードに書かれて
ある番号の部屋に入って下さい。暫くすると事務局から連絡があり色々
質問されると思いますので答えて下さい」説明して行こうした。
「おじさん。下まで来て案内してくれないの?」女優Sが聞いた。
「武装して住居エリアにいくのは住民に恐怖感を与えるので、緊急時以外は
禁止されています。エレベーターを降りたら案内板があるから参考にして下さい」
英介はメンテ室に戻り円華達はエレベーターに乗った。
英介は女性と話をしたのは久しぶりだった。
しかも有名女優で少し有頂天になっていた。
建築のメンテナンス要員は四百名で其のうち二百名が塀、門などの外部専門だった。
英介も外部専門で五十名程のチームのリーダーだった。リーダーと言っても
年齢が多いだけで決められたものだった。




