五十二 海底マンションへの入居
二月に英治は海底マンションに欧州のスポーツカーで向かった。
久しぶりに乗ったが十二気筒の高い金属音が気持ちを高揚させていた。
相模湾沖マンション駐車場の看板が見えて来て矢印に沿って進んで行くとゲートの
前に高級外車が並んで待っていた。
ゲートで監視員に送られてきた証明書を見せると通してくれた。
円を描くように地下へ続く道を降りて行くと広い駐車スペースがあった。
指定された番号の駐車場のガレージに車を入れた。
ガレージから出るとシャッターがセンサーによるのか? 自動で降りて来た。
エレベーターの方向に歩いて行くと手前に事務所があった。
部屋番号を知らせて車の鍵を渡した。ここは地下十五メートルと男性事務員が
教えてくれた。
エレベーターに乗ると停止階が上から地上、警備員室、駐車場、リニア駅、
海底リニア駅となっていた。
他にも同乗者もいたが、皆、海底リニア駅で降りた。
エレベーターの停止階の表示でリニア本線と海底リニアは直接繋がっていない
と分かった。
三両編成で無人の流線型の車両が音もなく入って来た。
シューと音と共に車両が沈んでドアが開いた。乗客は五割程度で心配なく座れた。
子供連れの若い夫婦や年配の夫婦などで客は皆裕福そうだった。車両は全員が
乗車した事を確認したようでドアを閉め浮き上がり、音も無く走り出した。
ホームを出るとマンションに向かって緩やかな下りの傾斜があるので海底の闇の
中に向かって吸い込まれて行くようだった。
軌道の横には手摺があって歩道が並行して造られていた。
其処を歩く事はその時は考えられなかった。
ガラスの空洞の中で車両の光りが漏れるが外は漆黒の闇で不気味さが感じられた。
未知の世界に来ていると勘違いするような雰囲気だった。
間もなく前方に光が見えてきた。海底マンションのリニアのホームで明るく
輝いていて廻りが暗くて惑星に向かっている列車のように思えた。
車両はマンションの中心部近くに停まった。改札はなく、皆正面の
エレベーターに向かった。
正面のエレベーターは八機あった。
マンションは円形で、外周廻りが高価な3LDKから4LDKで、英治が購入した
物件もそこにあった。
カードで鍵を開けて中にはいったが間取りは普通だった。
海底が照明に照らされ居間から見えて綺麗だった。それを見ていると前に飲み会
で円華が無駄と言った事を思い出した。あの女優、酷い目に会えばと思っていた。
この頃になると、円華の事務所の社長とか役員は仕事を部下に任せて長期休暇
を取っていた。
それは社会の全般がそうだった。ただ経営者・役員・上司がいなくても世の中は
廻っていたが実情は通常の六・七割だった。
その為、円華も芸能界の仕事は少なくなっていた。英治の会社も同様だった。
英治は暇になったのでリニア本線に乗ろうと地上へのエレベーター昇降口に
行って見たが、リニアの駅は緊急用でまだ乗れないとエレベーター
は停止しなかった。
海底リニアは駐車場と地上に行くだけと分かり、事務局に確認したがまだ工事が
終了していないと旨くかわされた。




