五十一 断わりの電話
英治は二月になっても円華から返事がないので事務所に連絡した。
事務員は円華から断わるようにと言われていたが、事務員は社長に政府の
発表直前まで返事をしないように指示されていた。
社長と役員は地下施設への入居は既に決まっていた。
そして、円華と女優の事を考えて返事を遅らせていた。
「一月中に返事をくれる約束だった。こちらから連絡しなければ黙っている
つもりだったのか!」英治は怒っていた。
「すみません。もう少し待って下さい」と事務員は謝った。
英治はその後、何回も連絡したが毎回とも同じ回答で円華への感情が憎さに
変わって行った。
ある時、事務員が受話器を持って困っているのを見掛けた円華が尋ねた。
事務員は受話器を押えて「例のゲームの社長さんで、返事はと聞かれ
困っています」
「断わって下さいと前にお願いしましたね?」
「すみません。社長から返事を少し待って貰えと言われていましたので」
「分かりました。私が代わります」
「円華です」本人が出て英治は憎悪が増した。
「何時まで待たせる? 馬鹿にしているのか!」
「すみません。断わりの電話を入れるように事務の者に頼んでいたのですが、
手違いがあって、連絡出来なかったようです。決して馬鹿にしているような
ことは有りません」冷静な円華の受け答えに英治は少し落ち着いた。
「返事は断わると言う事だな?」
「はいそうです」
英治はそう言われて受話器をガシャンと切った。
それ以来、英治からの連絡は暫く無く事務員はほっとした。




