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五十 天授教


 一日だけ英介は地下施設から外に出た。

どうしても天授教の話を聞いて見たかった。


外出の許可を取り非常用エレベーターに乗り、ホールに出て階段で地上に出た。


門の右側のドアから出て門衛にタクシーを呼んで貰った。


運転手に行き先を(天授教 東東京支部 ○○地区)とパンフレットに書かれて

あった住所を伝えた。


知っているか不安だったが「はい」と承知した。


直ぐに分ったので聞いて見ると、最近そこに客を乗せて行くことが多いと

運転手は話した。


天授教に着くと、鉄骨で造られた簡易な建物で入口の廻りに大勢の人が

行き来していた。


受付を済ませ案内されて大きな部屋に入ると、百人程待機していた。それぞれ

十人ずつ分かれて他の部屋に行った。


そして、一人ずつ面接した。


面接したのは眼鏡を掛けた中年の小太りの女性だった。


自分では地区長と紹介した。入信したいがその前に話しを聞きたいと話した。


「まず、条件があります。地下施設と海底マンションに入居予定の人には

遠慮して頂いています」


「地下施設のメンテナンス員で入っているのですが駄目ですか?」


「だめです」言い切られた。


「何故ですか? 理由を教えて下さい」


「天授教の真理は天からの災害は甘んじて受けます。逆らってはいけません。

地下施設と海底マンションは其の点で教義に違反しています」


「でも災害が起こるなど分からないのでは? それに私は災害ではなく普段の

生活を無事に過ごしたいだけです」


「教祖様は2026年四月に災害が来ると、十年前に予言されました。

その為に天授教を起こしたのです。天授教はその災害の為に出来たのです。

もし普段の平穏が欲しいなら、これを買って下さい」

奥の部屋から金色に塗られた観音像を持ってきた。


「二万円です。めざしの頭も信心からと言います。大切なのは心構えです」


二十センチ程の高さの観音像で俯き加減の頭と半眼の上品な顔立ちだった。


「分かりました」英介は観音像を買って帰った。


何故か、その像に惹きつけられるものを感じた。


二月になると、地下施設に政治家や官僚の家族が続々と入って来た。


毎日二千人近くの人が入って来てエレベーターは休む事もなく上下していた。


息子から東京の他の地下施設に入ったと連絡があった。


娘達の事が気になったので長女に連絡した。長女の旦那は大手メーカーの地方工場

の工場長で地下施設に入居は決まっていた。 

次女の旦那も地下施設の工事監督をしていて入れるようだった。

三女は房総沖の海底マンションが当たったらしい。

だから、皆大丈夫だと言われて安心した。


子供達は生活が出来る範囲の荷物は施設に運んだが行くか? 行かないかは? 

入居の期日のぎりぎりまで考えると話していた。


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