五 巨大マンション
英介は極小タイプの1Kのプランを終了していた。
間口八メートル×長さ八メートルの大きさのユニットでプランするように
指示されていた。
ユニット一個で1Kが二プラン入った。
次は極小タイプの2DKでユニットを一個使用したプランだった。
大きく豪華になるほどユニットの数が増えて行った。
数日が過ぎて極小タイプのプランが終了したので業者Aに連絡した。
翌日の朝早く業者Aがやって来たのでプリントアウトしたA3の用紙を渡した。
業者Aは狭い応接セットの椅子に座って用紙を受け取りテーブルの上に置いた。
そして、自分が持ってきたA2判の製本(図面)を開いて隠すように製本と
プランを見比べていた。
後ろから覗くと平面図を見ているようだった。
その図面にはユニットが無数にあった。
十字型をした建物で中心部分が建物のコアと呼ばれる部分でエレベーター、階段、
PS(設備用のパイプのスペース)、DS(空調用ダクト)などが配置してあった。
寸法が表示してあり縦横共二百メートルの大きさだった。
それに四方向に長方形の建物が繋がり十字型に見えていた。
長方形は二百×百五十メートルの大きさで上に北棟、下の南棟、左右に西棟と
東棟と表示してあり住居棟のようだった。
英介は驚いて聞いた。
「これは平面図でしょう? 凄い大きさのマンションだけど本当に建てるのか?
前にもうコンクリートは打設したと言っていたが?」
「平面図だよ。一階当たり二千世帯入れるようだ。コンクリート? あれは俺の
勘違いでまだ打っていない」と業者Aは覗かれていると気が付いて渋々答えた。
「何階建か?」
「五十階だ」
「え! 十万世帯?」
「あっ、違うユニットの数が一階当たり二千個なので五十階で十万ユニットに
なるから、人口にすると十五万人以上かな?」
「本当にこんな大きいものを建てるのか? しかも行政だから公共の建物だろ?」
「いや、まだ計画の段階だ。県営住宅でもっと小さくなるかも知れない」
これ以上は話したくないようで業者Aはプランを持って帰って行った。
英介は後二つ疑問があったが、これ以上聞くと仕事が無くなるようで
質問はしなかった。
一つの疑問は公共の建物の設計は規模が大きくなければ、入札制度で地元の
設計事務所に発注する。
大きいと公募して偉い建築家先生が設計する。でもそんな情報は県、市の
ホームページには載っていなかった。
極秘物件か? と思ったが計画と言う言葉に惑わされてしまった。
平面の全てがコンクリート製の壁で囲われていて、厚い処では二メートル以上
もあり柱のサイズと変わらないと分かり柱の無い事は納得出来た。
あと一つの疑問は専門的なことでコンクリート構造は強度的に七・八階の建物
までが限界で五十階は考えられない。
普通は鉄骨構造となる。コンクリートは剛性が強く高層になると風や小地震の
揺れでヒビが入りやすくなる。
鉄骨は粘性があり耐えられる。建築設計関係では常識だった。
あと考えられるのは地下に作る事だったが環境、ライフライン、工事費を考える
とあり得ないと思った。