四十八 クリスマスの飲み会
2024年も十二月になっていた。英治は円華の事務所に何回も連絡していたが
依前と同じでスケジュールが一杯だった。
クリスマスには一緒に飲みたいと考えてしつこく連絡した。
暫くすると事務所から連絡があった。
二十四日が空いていて、出席者はいつもの女優Sと若い男優で場所は前と
同じだった。
ただ海底マンションのカタログを持ってきて欲しいと頼まれたので承諾した。
英治は男優の事をネットで調べた。
まだ若く実績は無いが、円華の友達の女優Sと交際しているとの噂があった。
英治は出席者が四人だけで、女優Sと男優の2人はカップルで円華が俺と二人で
話をしたいからと勝手に思い込んだ。
実際は円華と女優Sは同じ事務所に所属していた。
海底マンションの話が気にいった女優Sが知り合いの男優に話したら男優は興味
を持ち話が聞きたいと円華に頼みこんだのが実情だった。
英治はカタログを持って時間ギリギリに着いた。
すでに三人は来ていて、円華が男優にゲーム会社の社長さんと紹介してくれたが
名前を言ってくれないのは不服だった。
男優は早速カタログを見ていた。
「これはリニアですね。凄いですね。日本全国どこでも直ぐ行ける。僕はリニア
のファンで興味があるので良く分かります。無人運転でコンピュータが制御して
いる。抽選では無く、特別価格で買ったと聞きましたが高かったでしょう?
聞いてきた。
英治は男優が以外と詳しいなと思い答えた。
「八億円くらいだった」
「やはり高額ですね。僕の兄貴夫婦がこの抽選が当たって、3LDKを五千万で
買ったらしいが、基本的に避難施設で二年間分の食料代として大人六百万、子供
三百万を払えば支給すると言われたそうです」
「家族で千八百万になるので支給は要らない事にしたら、自分で調達するように
なるが良いですか? と聞かれたので自分で調達とは? と聞いたら店舗で
買うか、レストランで食べるかと言われたらしい」
「当り前の事なので、それで十分だと伝えたらしい。すると災害が長引くと
食料が足りなくなることが考えられて二年間の支給の方が確実だと言われたが
断わってそうです」
英治は契約内容を思い出した。
「二年間の食料の支給とリニアの乗り放題は含まれていて、あと店舗での買い物
とか食事、映画など施設の中では無料になっている」
「やっぱりそうだ価格の差ですね。社長さんは最寄りの地上の出入口に車を預ける
契約も付いていますか?」
「付いています。駐車場も車庫になっていて一カ月に一回メンテナンスしてくれる
らしいけど、それも含まれている」
「凄い。車は何に乗っているのですか?」
「欧州のスポーツカーで価格が億に近かった」
男優は以外と詳しくて、持ちあげてくれるので英治は気分が良くなった。
「さっき、避難施設と言っていましたが、この前に評論家の人が話したように
地震と核の災害が起き避難するためですか?」円華が聞いた。
「そうです。地震と核より身を守る施設です。入居日が決められているので、
その後に災害が起こる可能性が高いと思う」言いながら英治は円華の顔を見た。
円華は不安そうな顔をしていたので、良い機会と思い話そうとした。
「確かに避難施設に近いと思いますが、政府と地方の行政が作っている地下施設
と比べると違いが分かります」男優は話した。
「えー 何処が?」英治は不安に思い尋ねた。
「地下に繋がる海底リニアの断面図で、地下に入ってからホームに入る前に
遮断プレートが三枚見える。緊急の時に遮断する装置だと思う。それに
食料倉庫が海底マンションンの施設に無いらしい。急遽、地下のリニアの駅間
に作っているらしい。それを考えると第一に地下施設の安全を考えているよう
に見えます」
「良く知っているね。何処で聞いた?」女優Sが聞いた。
「知り合いにゼネコンの現場監督がいて教えてくれる。海底マンションと
海底リニアに不具合が起きたら降りる仕組みになっている。要するに壊れて
海水が入ってきたら、全国のリニアが使用不能となり、海に近い地下施設も
水没する。それも考えて駅間にもその装置を設置したらしい」
「現場監督さんがどんな災害か知っていると思うけど?」円華が不安そうに聞いた。
「僕も聞いたが、超極秘で国民点数の発表の後に政府が公表するらしい」
益々円華は不安になっているようだった。
男優と女優Sはカタログを見ながら何かを話していたので、今がチャンスと
英治は円華に話しかけた。
「良かったら海底マンションに来ませんか? 災害が心配なら、災害が収まる
まで住んでみますか?」英治が円華の顔を覗きこむように見て話した。
細い目から出ている意思を感じた円華は、これは明らかに告白だと気が付いた。
「すみません。事務所とも話し合わないといけないので、直ぐに返事は無理です」
「良いですよ。申請の都合もあるので来年の一月中までに返事を下さい」
「分かりました」円華は俯いて小さい声で答えた。
それは明らかに嫌がっていると観察力ある人なら分かるが、
英治にはその細やかさが無かった。




