四十四 英介の帰郷
一カ月程経ち、英介は最後に武内に挨拶して故郷に戻った。
家に帰って長女に連絡すると直ぐにやって来て貯まっていた封書、はがきを
渡されたが緊急な物はなかった。
また、一年程経ったら二年間東京に行くことを話した。
「体は大丈夫なの? 病院は通っているの?」
「大丈夫だ、病院は月に一回なので通わせて貰っていた」
「あー そうだ、麻雀の仲間の人がお父さんが急にいなくなったと私の処に
電話を掛けて来たので事情を説明した。東京へ行くと話してなかったの?
心配しているから連絡してやってね」話して帰って行った。
英介は自分にとって重要でもなく彼らにとっても私が東京に行く事など関係
ないと思い連絡はしなかった。優先順位だった。
次に業者Aに連絡した。忙しいようでリニアの駅の工事を今年に完成させる
予定で残業しているとの話だった。
また一年後に東京に行くと話すと前に依頼した店舗と工場のレイアウトを
早めにして欲しいと言われた。
承諾すると次の日にやって来た。
「どうだった? 東京の地下施設は? もう終わったの?」
「大きいよ、規模はここの倍以上はある。リニアの駅の工事はまだ続いている
が本体は終わった」
「うちもリニアで苦労している。最初は駅だけだった、でも駅と駅の中間に
食料倉庫を作る話が出て追加工事になった。それが原因で工事が遅れた」
「食料倉庫は施設本体にあった筈だが? しかも二年間分も入ると聞いていたが?」
「それが、海底マンション用の食料倉庫らしい。設計の段階で計画してなかった
らしい。設計ミスだな、それで海底マンションと地下施設を間接的に
リニアで繋げた」
「間接的に? テレビで前に見た時の説明では、リニアで地下施設と
繋がっていたが?」
「直接は繋がっていない。エレベーターを介して行けるようになっている。
最初は直接繋ぐ計画だったが、もしも海底マンション、リニアが破壊されたら
海水が入って来てリニアが浸水してしまうからと変更になった」と説明して業者
は店舗のプランの資料を置いて帰っていった。
期限は半年以内だったので気は楽だった。
そして、同僚に連絡した。やはり、リニアの工事で忙しいようだった。
英介は今年一杯だけ名前を貸してくれるように頼まれ承諾した。
業者Aと同僚は2025年の三月中に、地下施設に入れる資格があり迷っている
ようだった。それは前に言っていた特典だった。
それ以来は、国民点数の封書も来なくなったようだ英介も同じだった。
国民点数制⑧と⑨が発表された。これが最後の項目だった。
⑧は疾病関係で、現在闘病中の疾病でリストがあり、マイナス十~百点の間だった。
⑨は最近三日間の食事の種類と量を提出することであった。
暫くして、長女に言われたので麻雀仲間に連絡した。
早速麻雀をやりたいと言われ次の日に出かけて行った。歩いて行ける距離だった。
三人はもう行政から封書が届いていないのに国民点数の事を話題にしていた。
英介は国から切り捨てられたのに、まだそんな話をするのかと感じていた。
避難用の地下施設などマスコミは取り上げてないが東京では噂が広まりほとんど
の人が知っている事だったが、田舎ではそれほど広まっていないのかと感じた。
また、一年も東京で暮らしていたのに、誰も、その話には触れて来なかった。
穿った見方をすれば(東京)と言う言葉に、劣等感を感じているのだと思った。
英介は三人に天授教の事を聞いてみた。
テレビで見て知っているが興味が無くこの辺で入信している人は居ないそうだ。
保守的で困っている訳でもなく危機感も不安もない三人には関係ない話し
だったが、三人こそ日本のおじさんの見本みたいなものだった。
正月は神社に初詣、葬式は寺で行い。神様、仏様が一緒に居る。それに
クリスマス、誕生日など外国の神様もいる。信仰心の薄い民族だと思う。
例えばキリスト教は物心ついた子供の頃から信仰してその子の人格形成の
基本となる。
英介は黒岩の件や爆薬など日常では考えられない経験をしたので天授教に少し
興味を持ったが自分で其処に訪ねて行く勇気が無かった。
しかし、宗教は必要と考えるようになってきた。




