四 祐介の場合
東京の1Kのアパートに住む祐介の処にも行政から封書が届いた。
(貴方の国民点数は四十です)と書かれてあったが全く興味が無いのでそのまま
ゴミ箱に捨てた。
祐介は地方出身者で子供の頃から地方の広告のモデルをしていた。
高校生になると背も高く容姿も良かったのでモデルか俳優になると決めていた。
高校を卒業すると東京の芸能事務所に所属したが仕事が少なかった。
暫くは、親よりの仕送りで生活をしていたが、二年後に子供向けの戦隊物の
オーデションに応募した。
スタイルの良さで採用されて事務所と両親も喜んだ。
戦隊の五人いる隊員の一人で目立たない役柄だったが一定の収入があり生活は
安定した。
毎回コスチュームを着ていて顔を出す機会はほとんどなくて夏は暑くて閉口した。
戦隊物では人気があり長寿番組でコスチュームを変えて五年も続いた。
今日は最後の撮影で軽い打ち上げをしてアパートに帰って来た。
五年の間の活動は戦隊の撮影が主で他はデパートの戦隊ショーでの実演と
握手会だった。
子供と一緒に若い母親がたくさん押しかけて来て主役を見つけると名前を呼んで
騒いでいた。
祐介と他の二人はマスクを付けたままと指示された。
若い母親に注目されている戦隊の主役だと朝の情報番組で紹介されて映画の主演俳優
になった者も何人かいた。
祐介も一度は昼間のドラマで脇役の仕事をしたが演技が下手で直ぐ降ろされた。
祐介の芸能事務所は弱小で祐介に演技指導を教える余裕もなく自分で身に付ける
しかなかった。
しかし、祐介の役は台詞も少なくあっても短い台詞で体を使っての戦闘シーンが
主だった。
本当に俳優になりたい気持ちがあるなら自分でもっと努力するだろう。
劇団に入団するとか色々な方法で、でも祐介は其処まで考えていなかった。
子供の頃からモデルをして、その延長で芸能事務所に入り自然に俳優に成れると
思っていた。
しかし、この七年間で有名な俳優になるのは大変なことと分かったがまだ機会が
あると考えていた。
その日以来、事務所からの仕事の連絡は暫くなかった。事務所に入った時から暇な
時はゲームをしていた。
女の子が銃や剣を持ってモンスターや悪人と戦うゲームを好んでやっていた。
祐介には彼女がいた。祐介より二歳年下の23歳で女優志望だった。
祐介とは違い劇団に所属して練習を重ねていた。
小柄で可愛い女性で二人は男女の関係があった。
名前は円華と言いやはり地方出身者だった。
二人が知り合ったのは戦隊物の撮影だった。
円華がヒロインの友達の役で出演した時に祐介に一目惚れをしてそこから交際が
始まった。
でも円華はテレビドラマや映画の脇役も多く祐介とは一か月に一度会えれば
良い方だった。