三十八 黒岩のニュース
一カ月後に、祐介は警護の仕事が終わりメーカーの工場の宿舎に戻っていた。
朝から上官に呼ばれた。
「どうだった警護の方は? 何か変わった事は無かったか?」
「何も有りませんでした。普通のおじさんで同じ時間に帰って来てコンビニの
弁当を食べて夜十時には寝ていました」
「そうか多分、何もないと思っていた。少しは、息抜きが出来たか?」
「はい。すみません。昼間に都心の風俗に行っていました」
「遊べる時は遊ぶ、それで良い。新しい仕事の依頼がある。首相に継ぐNO2
の政治家佐藤氏の警護を頼みたい。前にも警護したことがあると思うが?
本人からの依頼だ」
「えっ、一回しか警護はしていませんが? それに話をした事もありませんが?」
「佐藤氏は人を見る目は優れている。祐介君の行動、素振りを見てこの青年は
欲がない。その分、何か目的を与えてやれば頑張るタイプだと言われた」
祐介は真面目だと思われていて嫌だったが「分かりました」と答えた。
「期間は一年で延長もある。交代制で日曜日は休みになっている。日程表は後
で渡すから宜しく頼む」
祐介は自分の部屋に戻って来た。ソファーに座ると、直ぐテレビを点けた。
それは習慣になっていた。
朝の情報番組に円華が出ていた。最近よく情報番組に出ていた。映画の紹介だった。
円華主演で共演は有名俳優達が並んでいた。
祐介は円華が目標を達成したことを心の中で祝福した。
祐介も自分に合っている仕事が見つかり目標も出来て羨んだり妬んだりの
気持ちは起きなかった。
映画の紹介も終わり円華達が退出した後、画面に女性キャスターが写りニュース
を発表した。
(三か月前に身元不明の遺体が発見された事件で身元が判明しました。名前は
黒岩○男で年齢は二十七歳で地方出身者でした。二年程前に派手にお金を使い
女性達と遊んでいたとの情報がありました。その後、行方不明になり殺害された
と警察は発表しました)それから、画面上に写真が映し出された。
(これは黒岩さんが三年前に戦隊で俳優をしていた時の集合写真です)と画面に
写した。その写真を見て祐介は驚いた。
黒岩と円華がはっきりと顔が写っていて他はぼかしが入っていた。
(一緒に移っているのは女優の円華さんでまだ有名になる前に戦隊物の
ヒロインの友達として、出演した時の写真で、警察の提供です。それから、
黒岩氏と交遊していたと思われる女性が殺害されていて警察はその関連性を
調査しているとのことです。容疑者については、まだ手掛かりが無いようです)
と話した。
祐介は有名になるとプライベートは関係なくなってしまうと感じ、円華も色々な
情報番組に出てその件の質問を受けるだろう。それ位の代償は覚悟していると
思い。何時ものゲームを始めた。
黒岩の身元は警察には知らせない極秘事項のはずだが何故ニュースになったのか?
黒岩と接触していた女性が殺害された件の凶器も気になったのでゲームを止めて
上官の部屋を訪ねた。
祐介は上官に女性の死因について聞いた。
「確か二人殺害されていて刃物によるものだった。さすが祐介君は鋭い。情報は
政府の調査部から警察に伝えたらしい」
「刃物を使ったのは私が狙われた時と同じです。大国の仕業ですか?」
「多分そうだと思うが? 女性達は男達からお金を巻き上げていた事もあり
断定できない。調査部は黒岩がかなりの女性と遊んでいてこれ以上被害が
広がるのを恐れて警察に情報を渡した。そして、マスコミに発表させた。
これで黒岩と接触した女性達は警察に駆込んで来るだろう」
上官は丁度良かったと警護の日程表を祐介に渡した。
英治も黒岩のニュースを見ていた。写真と名前から気が付いた。よく会員制
のバーで見かけた。何時も派手な女性が一緒だった。
一度だけ話をした事があった。少し前まで芸能人をしていたと話したので
女優の円華は知り合いか? と聞いた。
以前にドラマで一緒に共演したと言っていたが黒岩をテレビで見た事がなかった。
英治は芸能界に興味があり、女優、女性タレントの事や男優、男性タレントは
大方知っていた。このような嘘を言い自慢する輩だとその時は聞き流した。
しかし、ニュースの写真を見て本当だと感じた。顔が分からないのは
コスチュームのせいだと思った。
円華もその件の対応に忙しかった。情報番組に出れば必ず聞かれた。
その時は一度だけ共演し話した事はあるが挨拶程度と答えた。
それは本当だったが一部の週刊誌は付き合っていたと書かれ、酷い週刊誌では有名
になり邪魔になったので、ある組織に暗殺を依頼したとか好き勝手に書いていた。
円華は精神的に少し不安になり酒の量も増えて行った。
そして、俳優・歌手・芸人・著名人などの飲み会に出かける事が多くなっていた。




