三十七 豪華な買い物
ゲームソフト会社の社長の金作は自分の名前が嫌だった。
父親が五十歳の時に産まれた遅い子で、将来お金で苦労しないように金を作る
と言う意味で父親が付けた。
一昔も二昔も前の名前で小学校では(かねごん)とあだ名を付けられ
何時もからかわれた。
家は製麺所を経営していて割と裕福だった。
成績は普通で碌に勉強しないで推薦で二流の東京の私立大学に入った。
しかし、目的があって進学をした訳ではないので遊び廻ることも多く当り前の
ように学校に行く事も少なくなった。そして、留年する可能性も出てきた。
もとよりゲームが好きで学生の仲間とゲームソフトの会社らしきものを
立ち上げていた。
留年が決まったので大学は辞めてしまった。父親は当初は怒ったが諦めて
好きにさせた。ゲームの会社を軌道に乗せようと頑張った。
学生の仲間は抜けて卒業と共に企業に就職して行った。
良い時と悪い時が交互に波のように続いて十年程経った。そして、会社が少し
軌道に乗って来た時に一人の若者を雇った。
その若者が優秀だった。ヒット作を立て続きに出して会社は大きくなった。
従業員も二十人程になり彼を副社長にして企画、販売を任せた。自分は企画等の
承認とか簡単な仕事に廻った。営業と称して有名人との接触を試みていた。
今年で金作は三十五歳になったがまだ独身だった。それはどう見ても女性に
もてる容姿では無かったが、女性に対しては理想が高いのが原因だった。
身長は百六十センチ程で高くなく太ってはいないがポッチャリ体形だった。
顔も卵形で額が広く禿げあがっているように見えた。
眉毛と目は細く、少し吊りあがっていた。
鼻は高かったが大きかった。自分の顔に少しコンプレックスもあり、髪の毛を
金髪に染めていた。それが少し雰囲気を変えていて本人は変に自信を持った。
今までの貯蓄は十億を超えていた。それが又自信になり何でも出来ると勘違い
をしていた。父親が亡くなると、早速、英治と名前を変えた。
英治は女優やタレントの出席する合コンに度々出掛けたが、有名な女優はおろか
知らないタレントばかりだった。
IT関係の社長が参加すると聞いて集まって来るのは金目当ての人間が多かった。
英治は女優の円華のファンだった。なんとか近づく機会が無いか探っていた。
英冶の処にも行政から封書が届いた。(貴方の点数は⑤で合計二百点です)
と書かれてあった。英治も他人と同じで気にしていなかった。
ある時、テレビのニュースで海底のマンションの放送を見て販売会社に連絡した。
予約の電話が多く五億以下は売り切れで東京湾沖は完売と言われた。
東京に近い処は他に無いか? と聞くと相模湾沖があるが八億と言われた。
そこまで売れている状況を見てつい契約してしまった。
暫くすると契約書類が送られてきた。
契約書と振込関係の書類、マンションの間取図、備品の一覧表、機器の取扱説明書、
イラスト風のマンションの断面図が入っていた。
断面図は地上から海底まで表示され、海底マンションは二十五階建で底部に近い
二十三階部に印が付いていた。
そこが英治の住居だった。価格が高いほど海底に近かった。
一階が最上部で其処から海上に向けて避難用のエレベーターと空調用ダクト
が設置してあった。
途中に円形の展望所がせり出ていて、魚の群れを観賞出来ると説明してあった。
海底の二十五階部分から陸に向けてリニアと通路が出来ていて地中に入って
暫く行くとホールがあった。そこが海底リニアの終点だった。
その奥にエレベーターが数機あり地上まで出られた。
エレベーターの停止階の最初に本線のリニアの駅があり、その次に駐車場の
出入口があった。そして地上より五メートル程下に警備、整備用員宿舎と
書かれている停止階があり最後は地上だった。
何の為に警備、設備と英治は思ったが、通路とエレベーターと並行して
マンションの空調用のダクトが通っていて地上部に排気、吸気口があり規模が
大きいので整備が必要だと注意書きにあった。
マンションの間取図は普通の3LDKと変わりがなかったが海底とか海底リニアの駅など夢のような状況に自分は特別だと思い違いをしても可笑しくなかった。
ただ、入居時期が2025年の二月~三月中にとなっていた。
その時は手荷物だけにして下さい。大きな荷物の引越日は2024年中で
こちらから指定しますと書かれてあった。
マンションの完成は2023年十二月で、リニアは2025年七月だった。
入居しても暫くはリニアを利用出来なかった。
英治は契約書に必要な事項を記入し送り返した。そして指定された銀行に
お金を振り込んだ。
まだ二億以上も残っていて会社も順調で満足していた。




