三十四 おじさんの警護
同じ日の朝、祐介は上官に呼ばれた。
「警護の仕事を頼みたい。期間は一カ月で終わると思うが、黒岩の件で狙われている
日本人がいる。その男のアパートの隣に住み込んで、夜だけ警護して欲しい」
「夜は一緒にいるということですか?」
「いや、自分の部屋で待機して非常用のボタンが押されたら
駆けつけてくれれば良い」
「それだと間に合わない可能性もありますが?」
「調査部の話だと狙われる可能性は低いが、万が一を考えての警護だそうだ」
「昼間はアパートで寝ていて良いのですか?」
「駄目だ、警護していると悟られては益々狙われる。会社員の振りで午前中に
出勤する振りをして午後か夜に帰って来る。遅くても十時までに戻って来ること。
昼間は何をしていても良い。一回だけ、朝出かける時に顔を合わせて顔を覚えて
貰う。あとは挨拶程度で話はしない事」と本人と息子の写真を渡された。
午前中に祐介はアパートに行き大家に部屋の鍵と隣室の予備の鍵を渡して貰い、
隣の部屋に入りボタンのケースとメモを置いて来た。
現場から帰って来た英介は恐る恐る部屋に入った。テーブルの上に何かが置いて
あった。メモとその上に丸いボタンが付いた小さいケースが置いてあった。
メモには(夜、危険を感じたらボタンを押してください。夜は隣にいますが
会っても挨拶程度でお願いします。大家さんに入れて貰いました。このメモは
分からないように処分してください。期間は一ヶ月間です)と書かれてあり、
英介は安心してガスレンジでメモを燃やした。
次の日の朝、祐介は隣が出掛ける気配を感じて同じタイミングで玄関を出た。
そして、見ると隣もこっちを見てきた。
「お早うございます」と挨拶をしてきたので、お早うございますと笑顔で返した。
祐介の笑顔で何か話しかけて来そうなので口の前で手を小さく振ったら隣は
察しが付いたようでそのまま出掛けて行った。
取合えず確認はして貰ったが、警護の相手が歳を取っていたので驚いた。
自分の父親と同じ位だった。
祐介の父親は地方の会社の役員をしていた。
祐介が上京して仕事が無い時も余裕で仕送りをしてくれたが、祐介が二十五歳の
時に会社が倒産してその心労で体を壊してしまった。
その時から祐介は少ないけど実家に仕送りした。
自衛隊用の耐火服の実験契約の時に事務所を介さない方が報酬は多いので
芸能事務所を辞めた。
そして、報酬の多い自衛隊の警護隊員になった。
祐介はそのまま都心に向かった。




