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三十二 地下施設の入居者


 英介は何時ものように工場より出る送迎バスで工事現場に通っていた。

施工図も順調に進み工程通りに工事は進んでいる。


英介にとって驚くことが分かった。総監督の渡辺は首相の甥で日本では五本の

指に入るゼネコンの役員だとか、武内は準ゼネコンの御曹司で経験を積む為に

この現場にいることを武内より聞いた。


もっと驚いたのは、英介もプランニングをしたことのある豪華な5LDKの

ほとんどは入居者が決まっていて政治家、高級官僚だった。豪華の2LDK

も入居者が決まっていたのでリストを見せてもらったが知っている女優の

名前も所々に書かれていた。全て政治家の紹介だそうだ。


英介はこんな処まで政治家の力が及ぶのかと感じた。


「豪華の5LDKの価格は高いでしょうね? やはり政治家はお金が

ありますからね」


「政治家や官僚など国の役人は優先的に入れるけど、これは緊急避難の場所

で全て無料です」


「無料ですか、緊急避難をするとはどんな災害ですか? 武内さんも予約して

あるのですか?」


「この前、話した有事のことです。初めは首都直下型地震に対応と言う話だったが、

そのうち、核装備をしたら核シェルターだと言われた。私にもはっきり分からない。

私も普通の3LDKを予約している。英介さんもどうですか? 

家族はいるのですか?」


「あー 有事、前に聞きましたね。子供は皆独立して今は私1人です」


「1Kが空いているのでどうですか? メンテナンス用と申請すれば許可が

もらえると思います」


「メンテナンス用とは?」


「実は上層階にある1Kは、警備隊とメンテナンスを依頼する人の為で、英介さんは

建物の状況を詳しく知っている。建物に何かあったら対応して貰える」


「地方に家があるのですが、それでも良いのですか?」


「取合えず予約しておいて、一年以内にキャンセルも出来るから、それまでに

決めれば良いです。私も入居担当の1人で、私が申請しておきます」


「すみません、お願いします」英介は地震でも核でも、その時は間に合わなく

意味が無いと思ったが無料と言われてお願いしてしまった。


 送迎バスに乗り工場に着いて、何時ものようにコンビニで弁当を買って

アパートに帰って来た。


メンテナンス用の1Kを予約するための印鑑を捜していた時にチャイムが鳴った。


「すいません」とインターホンから中年の女性の声が聞こえた。


「はい」と返事をした。


「すこし、お話しても宜しいですか?」


「何の話ですか?」


「天授教の者ですが、少しお話をお願いしたいのですが?」


「宗教には興味がありませんので」


「分かりました。名刺とパンフレットを置いて行きますから見て下さい」

と帰って行った。


宗教の勧誘だがいやに素直に帰って行った。


以外に思いドアの郵便受けからパンフレットを取った。


A4用紙の二枚折で、表紙の部分に教祖らしき男の上半身の写真があった。

白装束の白髪交じりで、英介と同じ年頃に見えた。


題目は天から授かるものは全て受け入れる。


つまり、天から授かるものとは自然災害や地震で、それは神からの試練なので

逆らわず受け入れる。そして神の導きに従う。との内容だった。


最近、発足した新興宗教で、全国の主要都市に支部があり何処かのテレビ局で

特集していた事を思い出した。


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