二十 菊池への疑惑
国民点数制が又発表になった。最初の発表から一年程経っていた。
今度は税金の納税額⑤だった。今年の所得税額で一万が一点で、百万以上は全て
百点で年金受給者はマイナスになった。
マスコミなどで年金受給者への冷遇とか、今まで払って来た税金は無駄か?
などと騒いでいたが国民点数の目的が不明なので段々興味は薄れていった。
英介に(貴方の点数は合計百十五点です)と封書がきた。
安い年金受給でマイナス五点か? と思った。
現場通いは嫌になると思っていたが英介は今の生活に満足していた。
現場事務所に行き施工図を描き用意された昼食の弁当を食べて定時に帰って来る。
そんなに難しくなく悩むこともなく、毎日同じペースで仕事をする。
歳のせいもあるがそれで充実していると思えて来た。
今考えると若い時からそんな感じだった。
誰かの下で働き期待にこたえて満足する性格で社長とかリーダーには向いて
いなかった。
英介は歳をとってから気がついた。自分は情熱が無いと何かに夢中に成っての
めり込む事もなく。リスクを恐れて今一歩踏み出せずにいた事を、それで
事務所を開設しても軌道に乗れず貯蓄もなく今の状況になった。
しかし、どこかで仕事がないのは田舎の所為だとも思っていた。
今日も現場事務所で施工図を描いていると、総監督の菊池と佐野と、もう一人
の施工図描きの男が午後から出掛けて行った。
行く先は同じで他の現場事務所の会議室だった。そして今日は戻らないらしい。
もう1人の現場監督で名前は高橋と言う男が話しかけて来た。
普段は滅多に話などはしていなかったが、三人が居ない時を見計らって
話かけて来たらしい。
「二週間に一回だけ決まった曜日にあの三人は集まって会議をしているらしい」
何かを疑っている言い方だった。
「工事の打ち合わせでは?」と英介は興味無さそうに答えた。
「そうじゃないと思う。工事なら俺とか英介さんも誘われるでしょう? 上部の
会議なら施工図描きは必要無いでしょう」
英介は急に変なことを言われ言葉に詰まった。
「あの施工図描きは余り話さないが、名前を聞いたらアキラと言った。おかしく
無いですか?」
「そうだね、可笑しい。普通は名字と名前の両方を言う」
「たまに佐野氏と話す処を聞いた事があるが、日本人では無いと思う?」
「菊池さんか佐野さんに聞いたら?」
「前に聞いたけど日本人で喋ることに障害があると聞いた。どう見ても障害では
無く。日本語が旨く喋れない外人だと思うが?」
「仕事ができれば外人でもいいじゃない?」
「そうだけど外人だと入管法とかビザとかで違反すると工事が一時中止になり
面倒になる。話が変わるが佐野さんはうちの会社の社員だがその前は菊池さん
と同じゼネコンにいた。そしてこの工事が始まって一年程でゼネコンを辞めて
うちの会社に入った。しかも、菊池さんに頭を下げられて、うちの社長は社員
を雇う余裕がないのでと断ると、籍だけで良いから工事が終われば籍を抜くと
言われて渋々承知したらしい」
「給料は支払わなくて良いのか?」
「要らないようで社長も気になって他の業者に聞いたら北、南、西棟の監督も
同じだったらしい」
「じゃー、その九人は会議室で何を相談している?」
「分からない、社長が行政の担当に聞いたら国の通達で菊池のゼネコンの現場監督
は各行政の工事現場で一人と決められているらしい。それで名義を借りたらしい。
各業者の社長は焦ったが、もう遅くこのまま黙って進むことに決めたらしい」
「国の通達で一人と決められたのには何か理由があったのか?」
「菊池のゼネコンは大分前に大国で大規模な工事を幾つも施工したが地元の
有力者と癒着して賄賂の金を作るために手抜き工事を行った。それが大国の
政府に見つかり多額な賠償保障や工事のやり直しを要求された。それで負債
が大きくなって倒産寸前になり大国の資本が入ったようだ。
それも仕組まれていたようで日本政府が警戒したらしい」
「如何して警戒するの? 建物の情報などすぐ漏れるだろう? 他に理由は?」
英介は納得できなかったた。
「理由は良く分からないが業者の社長達は工事額が大きくて円が大国に大量に
流れることを警戒した。と結論づけたらしい」
「菊池さんは流暢な日本語を話しているが東北出身と聞いた。訛りも無く
佐野さんも九州で訛りが無いが変だとは思わないか?」と高橋に話したが高橋も
三十代で訛りは六十歳を超えた年寄りだけで今の人は訛りが無いと話した。
英介は世代の違いで自分が古い人間と感じた。
訛り以外で流暢な日本語のイントネーションの微妙な違いに気が付いていたが
話さなかった。
それと、定時に成りかけていたので話が長くなって家に帰るのが遅くなるの
が嫌だった。
それに、三十分も遅くなり帰りのラッシュに巻き込まれるのも嫌だった。
英介は彼らが大国の人間だと思い始めていたが、それが大きな意味のある事
とは思わなかった。




