十八 黒岩の嘘と借金
一週間後に祐介はメーカーの実験室にいた。
今回から酸素ボンベを背負い実験した。
実験員とは親しくなり色々な話をするようになった。
「御社には大国からの研修員がいると聞いたのですが?」
「うちの会社には居ません。会長が少し右よりで大国を毛嫌いしているから、
誰から聞いたのですか?」
実験員は少し驚いた顔で聞いた。
祐介は以外な答えに動揺して「近所の知り合いから」と話してまずかったと思った。
「それと最近ですが新しく耐火服のメーカーがこの計画に参入したらしい。その
メーカーは大国資本で社員は皆大国人なので其処と間違えたのではありませんか?」
「そうかも知れない」祐介は安心して答えた。
家に帰って黒岩に連絡しようと思ったが、何かの思い違いをしたと考えて次の
飲み会で聞けば良いと連絡をするのは止めた。
黒岩から又飲み会の連絡が入った。
前回と同じ居酒屋で個室に入ると黒岩一人だけだった。
「メーカーの人に聞いたけど大国の研修員はいないと言っていた。何かの
間違いだろう?」と祐介は尋ねた。
「御免、嘘だった。ヒロさんは他のメーカーの社員で俺を引き抜きに来た」
「他のメーカーとは大国資本の?」
「そうだ、今の倍の報酬を貰えるので行こうと思っている」
「えー 今のメーカーを辞めると四年間隔離になるのは分かっているだろう?」
「行方をくらまそうと思う。大国資本の工場には共同宿舎があり其処に入れば
分からなくなる」
「止めた方が良い今の報酬で十分じゃないか?」
「実は借金がある。戦隊の時からで将来は俳優と勘違いしブランド物を買い、
派手な女の子と付き合い、高利な町金融に金を借り首が廻らなくなった。
そんな時、大国のメーカーから連絡があった。俺の事を調べていたらしい。
借金は準備金と言うことで肩代わりしてくれる。祐介もその気があれば
紹介するが?」
「借金はいくらある?」
「1000万近くある。月の利子だけで今の月の報酬を上回る。
もうどうしようもない!」と黒岩は諦めるように話した。
「俺は今のメーカーでやって行くけど前回にヒロさんが居たのは?」
「御免、祐介の実験内容を聴きにきたけど、たいした情報じゃないと言っていた」
「たいした情報でなくてもメーカーに知られたら不味い」
と祐介は怒ったが暫く考えて話した。
「前回と今日の事はお互いに忘れよう。と言うより無かったことにしよう。
そしてもう連絡するのも終わりにしよう」
黒岩は済まなそうに承知して頷いた。
居酒屋から帰る途中で、とんでもない男と関わったと後悔した。