5、大嫌いなお姉様
「何しに来たの?」
姉妹だからとメイドが気を使って、中に入れてしまったようです。
「何しに来たのは、ないんじゃない? 私達は姉妹なんだから、妹に会いに来ても何の問題もないでしょ?」
嘘つき……この人は、私を妹だなんて思ってません。8歳の時、私はお姉様に殺されかけました。
殺すつもりはなかったのだろうけど、自分さえ助かればいいと、溺れていた私を置き去りにしました。
あの日、お姉様が足を滑らせて湖に落ちてしまいました。溺れていたお姉様を助けようと手を差し出し、その手を掴んだお姉様は、桟橋に掴まる事が出来たのですが、お姉様は私の手を引っ張り、湖に私も落下したのです。
必死にもがいてお姉様に助けを求めたけど、お姉様はそのまま桟橋をつたって陸に上がりました。そしてそのまま、私は置き去りにされたのです。
もがけばもがくほど息が苦しくなって、もうダメだと思った瞬間、私の手を掴んで引き上げてくれた人がいました。それが、エルビン様です。
「言い直します。何の用でここに来たの?」
お姉様が何の用もなく、ただここに来たとは思えません。何か魂胆があるはずです。
「冷たいわね。容姿だけじゃなく、性格までブサイクなんて、救いようがないわ」
お姉様のように容姿端麗で何でも出来ても、心がない人間にはなりたくありません。
いきなり現れて勝手に邸に入り、勝手にソファーで寛ぐ姿は、とても褒められたものではありません。エルビン様が帰宅する前に、追い出さなくてはなりません。
「お姉様、用がないなら帰ってください」
出来ることなら、二度とお姉様には会いたくありません。エルビン様との幸せがつまっているこの邸に、足を踏み入れて欲しくないのです!
「あら、用ならあるわ。エルビン様に呼ばれたのよ」
な……にを言っているのですか!?
エルビン様が、お姉様を呼ぶはずありません!
私がお姉様を嫌っている事も知っているし、そもそもお姉様なんかにどんな用があるというのですか!?
「嘘をつかないで! エルビン様は、お仕事に行ってるわ! お姉様を呼ぶはずない!」
「俺が呼んだんだ」
お姉様を追い返す事に気を取られていて、エルビン様が帰っていらした事に気づきませんでした。
エルビン様はゆっくりと、ソファーに座るお姉様に近づいて行きました。
「エルビン様、あの……」
「アナベル、すまないがお茶を頼む。
良く来てくれました。書斎に行きましょう」
私の顔を見ることなく、お茶を頼んで来ました。そしてそのまま、お姉様と一緒に書斎に入って行きました。
結婚して初めて、お帰りなさいのキスが出来ませんでした。それに、エルビン様は私と目を合わせてくれませんでした。
「お茶をお持ちしました。」
メイドではなく、自分でお茶を運んで来ました。理由はもちろん、どんな話をしているのか気になるからです。
「入りなさい」
中から返事が聞こえ、ゆっくりドアを開けて中に入ります。ソファーに足を組んで座るお姉様が目に入りました。
私は、あまり書斎に入った事がありません。お仕事の邪魔になるからという理由はありますが、エルビン様が書斎にいる時は、なるべく入らないようにと言われていたからです。
その書斎に、お姉様がいる……
「どうぞ」
お茶の入ったカップをゆっくりとテーブルに置きました。その間、2人は黙ったままです。
話を聞くことは、出来そうにありません。
お茶を出し終えると、
「下がりなさい」
と、すぐに言われてしまいました。
仕方がないので、書斎から出ました。
お姉様に、どんな話があるのでしょうか……胸がザワつく……
幸せだった日々が、この日を境に崩れ去って行きました。