43、アンダーソン公爵家との決着 後編
「お嬢様! お逃げ下さい!」
執事はリンダがいる部屋のドアを、バンッと乱暴に開けて飛び込んで来た!
「どうしたの? 何かあったの?」
もうすぐ王妃になれると思い、リンダは優雅にお茶を飲んでいた。
「タジガナルが裏切りました! 旦那様も、アンダーソン公爵の一族も、皆捕らえられています!」
「どうして……?
分かったわ。オーウェンは? オーウェンはどこにいるの?」
「俺なら、ここにいます」
執事が乱暴に開けたドアに寄りかかるエルビン。
「オーウェン! この前、一緒に逃げようと言ってくれたわよね? 逃げましょう! 私、オーウェンと一緒に行くわ!」
エルビンに駆け寄るリンダ。
「はあ? 何で俺が、お前と逃げなきゃならない? お前は逃がさない!」
エルビンはリンダの腕を掴んだ!
「貴様! お嬢様に何を!?」
エルビンに掴みかかろうとする執事。
「ストップ! それ以上近付いたら、リンダの腕が折れるかもしれないな」
リンダの腕を掴んだ手に力を入れると、執事はその場から動くことが出来なくなった。
「……っ! オーウェン……どうして?」
「俺の名は、オーウェンじゃない。エルビン・バディスト、アナベルの元夫だ」
「ア……ナベル!?」
「俺の愛するアナベルに、お前は何をしようとした? 殺すつもりだったよな? 俺はお前を、絶対に許さない!」
リンダはエルビンに、本気で好意を持っていた。そのエルビンが、愛するアナベルと言ったことにショックを受けているようだ。
その後すぐに兵士達が来て、リンダと執事は捕らえられた。
こうして、アンダーソン公爵家の企みは未遂に終わったのだった。
反逆を企てたアンダーソン公爵とその一族は、斬首された後、晒し首の刑に処されることが決まった。
そして、刑が執行される時……
「オーウェン……オーウェンはどこ? オーウェンに会いたい……オーウェン……愛し……」
首が斬り落とされる瞬間まで、リンダはずっとエルビンを探していた。その場に、エルビンが姿を現すことはなかった。
エルビンが、一緒に逃げようと言った時に逃げていれば、こんなことにはならなかった。愛よりも、欲を選んだ結果だった。
アンダーソン公爵の一族が全ていなくなり、ドラナルドには平穏が戻っていた。
「まさか、あなたがこの国にいるとは思ってもみませんでした。ですが、情報は助かりました」
ルークはエルビンが住んでいる小さな家を訪れていた。
「俺は生涯、アナベル様を想い続けると決めています。アナベル様が危険だと判断し、行動に出たまでです」
「しゃくですが、あなたには感謝している。あなたの情報のおかげで、国民に被害が出なくてすみました。
侯爵家を捨てて来たのでしょう? 城で働くつもりはありませんか?」
エルビンはフッと鼻で笑う。
「ルーク様もお人好しですね。妻の元夫を、妻のそばにいさせるおつもりですか?
俺は今のままで十分です。アナベル様に会うつもりはありません。俺を見たら、つらい過去を思い出してしまうから……
アナベル様が幸せなら、俺も幸せです。たまに遠くからお姿を見ることだけは、許してください。それから、俺のことは決してアナベル様には言わないでいただきたい」
「あなたのような方がどうして……
いいえ、過ぎたことですね。では、私はこれで失礼します」
ルークはエルビンに背を向け去って行く。その背中を見ながら、アナベルの夫がルークで良かったと心底思ったのだった。