23、王太子妃
1年間の王妃教育を終えた私は、この国のガーディー公爵夫妻の養子になる事になりました。
私は全てを話し、自ら養子になる事を望みました。両親との縁を切り、何よりお姉様との縁を切らなくてはなりません。家族だからという理由で、この国の人に迷惑をかけてしまいそうで怖かったのです。
「本当にこれで良かったの? ご両親と縁を切るなんて……」
バルコニーで考え込んでいた私に、王妃様は心配してくれたようで、話しかけて来てくれました。
「王妃様……
これで良かったと思います。両親は、私の事よりも伯爵家の方が大切ですし、お姉様を訴えようとした私を許さないと思います」
「そう……本当に、つらい目にあってきたのね」
王妃様はそっと抱きしめてくださいました。
「これからは、私があなたの母よ。それに、ガーディー公爵夫妻はとても優しい方達だから、なにかあったらいつでも相談しなさい。もちろん、私達にもね」
すごくあたたかいです。
「母上、それは俺の役目です!」
そこにルーク様が現れ、私と王妃様を引き離しました。
「まあ、なんて心の狭い子なのかしら。我が息子ながら、情けない」
「ルーク様、情けないですよ!」
「2人して……」
「邪魔者は退散するわ」
王妃様は悪戯っぽく笑い、自室に戻って行きました。
「君の両親に書類を届けたら、サインをしてくれたそうだ。この事を内密にする事も了承してくれた。その知らせを聞いて、養子縁組の書類を提出した」
「お手数をおかけして、申し訳ありませんでした」
「君のためなら、俺は何でもする。ご両親に、挨拶しなくて良かったのか?」
「私と両親の縁は、あの日手紙を破かれた時に切れてしまいました。両親もそれが分かっているから、サインをしたのだと思います」
少し寂しいけれど、これで良かったのだと思います。私のせいで、お姉様がした事の責任を、王様や王妃様、それにルーク様に背負わせたくはありません。
「1つ聞きたいことがある。君はどうしたい?」
「どうしたい……とは?」
「君が毎日、ホーリー侯爵夫人からの手紙を見ている事は気付いていた。最初は、旦那様……エルビンからの手紙かと思ってモヤモヤしていたんだ」
「嫉妬したんですか?」
「嫉妬くらいする! 初めて会った時、君はエルビンに夢中だったからな」
エルビン様を想っていた頃が、遠い昔のように感じます。
「今は、ルーク様に夢中ですから安心してください」
そう言ってニコッと笑うと、ルーク様が顔を真っ赤にして固まってしまいました。
普段は積極的なルーク様ですが、想いを不意に伝えると弱いようです。いつも私ばかりドキドキさせられているのだから、これくらいいいですよね。
「……君は、いつも予想がつかないことを言うな。こんなにも、誰かを愛おしいと思う日が来るとは思っていなかったが、君に出会えたことに感謝している」
それはこちらのセリフです。予想がつかなくて、いつも大変なんですから! だけど……
「私も、ルーク様に出会えたことに感謝しています」
私達の影は重なり、2度目のキスをしました。とても甘くて、とても幸せなキス。
「そういえば、聞きたいことってなんだったのですか?」
しばらく抱き合った後、ふと思い出しました。
「ああ……ホーリー侯爵夫人の件だよ。ずっと気にしていただろう? 結婚式を挙げたら、その手紙を持ってあの国に行ってみるか?」
「いいのですか?」
本当はずっと気になっていました。ホーリー侯爵夫人の無念を晴らすことなく逃げ出してしまったことを……
あのままお姉様が何のお咎めも受けずに、やりたい放題している事が許せません。
「当たり前だ。君は俺の為に1年間ずっと頑張ってくれた。俺も君の為に出来ることがあるなら、何でも言って欲しい」
ルーク様は、最高の旦那様ですね。ってまだ、夫婦ではありませんが……
結婚式は明日です。私はこの国の王太子、ルーク様の妻になります。




