21、ルークの過去
嘘……さすがに、心の準備が……
「よく来てくれた。私はコルベット。この国の王だ。アナベル、だったかな? 話は息子から聞いた」
それはどんなお話でしょうか……
まさか、夫に裏切られた可哀想な女だとか?
「初めまして。お会い出来て、光栄です」
2人の後から、ルーク王子が部屋に入って来ました。
私はルーク王子をキッと、睨み付けます。
「あらあら、少し離れていただけなのに、見つめ合うなんて。本当に仲がいいのね」
王妃様……これは見つめ合っているのではありません。
「まあ、座りなさい」
国王様と王妃様は、私の向かいの席に座り、ルーク王子は私の隣りに座りました。
「いきなりだが、本題に入ろうと思う。
アナベル、息子ルークの妻になっていただけないだろうか?」
どうしてそんな事に!?
「あの……私は……」
「分かっている。君は今、結婚をしているのだろう? だが、君が夫の元へ戻らなければ、1年で離縁が成立する。この国の未来は、君にかかっているんだ!」
話が急過ぎて、頭がパンクしそうです!
この国の未来が私にかかっているとは、どういうことなのでしょうか?
国を出た時は、いつかはルークと……なんて考えてはいましたが、今は状況が違います! ルークが王子様だって知らなかったですし!
「陛下、アナベルが混乱しているじゃないですか。驚かせてしまってごめんなさいね。少し、2人きりで話しましょうか。
陛下とルークは、出て行ってください」
「母上!?」「王妃!?」
「早くっ!」
「「はい!!」」
王妃様の言う通り、王様とルーク王子は部屋から出て行きました。というより、追い出されました。
「ルークの事は、使用人だと思っていたのだから、驚いたでしょう? あの子が、料理人になると言って国を出て行ったのは5年前の事だったわ。ルークには2つ年上の兄ロイドがいたのだけど、ロイドは5年前に事故で亡くなってしまったの」
ルーク王子が、この前話してくれたことですね。
「ロイドが亡くなった事で、あの子は変わってしまった。兄の事が大好きだったからか、ロイドが言った『お前の料理は世界一だ』という言葉を現実にするのだと、料理に没頭した。
ロイドが亡くなってしまい、兄が継ぐはずだった王位はルークが継ぐことになる。だけど、ルークはそれを拒絶し、この国を出て行ってしまったの」
ルーク王子の、向き合わなければならない事って、王位の事だったのですね。
「どんなに説得しても、全く耳を貸さなかったあの子が、あなたに出会って変わったみたいなの。
この国の王太子になると言ってくれたわ。その条件が、あなたを妻にする事」
私のことを、そこまで想ってくれていたなんて……
「だけど、あなたを王太子妃に迎えたいのはルークだけじゃないわ。
私も陛下も、アナベルはルークの妻に相応しいと思っているの。
あんなに頑なだったルークの心を変えてくれたあなたがそばに居てくれたら私達も安心だし、ルークは素晴らしい王になれると思うの。
あなたがつらい目にあったことは聞いたわ。もう結婚なんてしたくないと思っているかもしれない。それでも、どうかあの子の妻になってあげて」
王妃様……
良いご両親ですね。私の両親とは大違いです。
「分かりました。どれだけお役に立てるかは分かりませんが、私はルーク王子に救っていただきました。ルーク王子の為に、私に出来ることを全力でします!」
「「よっしゃーー!!」」
部屋の外から、喜ぶ声が聞こえました。王妃様がドアを開けると、王様とルーク様が手を取り合って喜んでいました。
「……はぁ……」
ため息をついて呆れる王妃様でしたが、お顔は終始微笑んでいらっしゃいました。
この家族の一員になれることを、心の底から嬉しく思います。
ですが、そんな甘いものではありませんでした。
それから直ぐに、私は王妃教育を受ける事になりました。1年間は、外に出る事を禁じられみっちり学ぶ事に……
その王妃教育は、かなり過酷なものでした。
「もう無理ー! 誰か助けてーー!!」
「もう根をあげるのですか? 王妃たるもの、日々心を鍛えて頂かなければなりません! 何事にも動じることなく、国の母として国民を愛するのです! アナベル様は、体力が足りません! 基礎からやり直し!」
王妃教育って、こんなに大変だったなんて……
本来なら、王妃になる者は幼い頃から教育を受けるようです。ですが、私に残された時間は1年。1年で全てを完了しなければならないのです。
ルーク王子が言っていた言葉の意味を、ようやく理解出来ました。これは誰かに頼るわけにはいきません。私が頑張らなければ。
「大変な思いをさせてしまい、申し訳ありません」
「そうですね。もっと反省してください。こんな大事なことは、もっと早く言って欲しかったです」
ルーク王子は何も話さずに、いつも強引過ぎます! だけど本当は、そんな強引なところも悪くないなんて思っちゃってますけど……
本人には、絶対に教えてあげません!
「機嫌直してください。今日の料理は、アナベル様が好きなフィッシュアンドチップスです!」
この城に来てからも、私の食事はルーク王子が作ってくれています。
「た、食べ物になんか釣られたりしない……んー、美味しい!! 幸せ~!!」
どんなに大変でも頑張れるのは、この食事のおかげかもしれません。
「やっぱり、アナベル様の美味しそうに食べる顔は最高ですね!」
「いつまで敬語を使っているのですか? 」
王子様なんだから、王子様らしくしてくれないと困ります。
「ああ……癖で。
アナベル、口元に付いてる……」
ルーク王子は私の口元を親指で拭うと、その指をペロッと舐めました。
「取れた」
ドキドキドキドキドキドキ……
何なの、この心臓の音は!!
呼び捨てにされた事にドキッとして、口元に触れられた事にドキッとして、それを舐めたルーク王子にドキドキって……私、どうしちゃったのでしょう!?
どうやら私は、確実にルーク王子に惹かれていってるようです。




