17、ルークの故郷
勢いでルークの手を取って邸を出て来ちゃったけど、これからどうしましょう……
何も持たずに出て来たから、身に着けている宝石くらいしかお金にかえられそうなものがありません。手紙は、肌身離さず持っていたから良かったけど。
「アナベル様、あの馬車に乗りましょう!」
「馬車に? どこへ行くつもりなの?」
強引に手を引かれ、馬車へと乗り込みました。
話を聞かない所は、初めて会った時のルークを思い出します。
「はぁはぁ……」
ずっと走りっぱなしだったから、息が……
「申し訳ありません、少し強引でしたね」
少し? 少しじゃなかったんですけど!?
「強引にしないと、アナベル様が手を離してしまう気がしたのです。1度、断られてますからね」
「私には、関わらない方がいいと思ったの。
ごめんなさい。結局、こんな事になってしまった。大好きな仕事も失って、追われる事になるなんて……」
「どうしてアナベル様が謝るのですか? アナベル様を連れ出したのは俺ですし、着いてきてくれてめちゃくちゃ嬉しいです!」
ずっと思ってたけど、ルークって使用人の距離感じゃない気がします。だけど、それが心地良いです。
「で、どこに行くの?」
「俺の故郷です。アナベル様に出会ってから、俺がしたかった事は、故郷でも出来る事に気付きました」
ルークの故郷ですか。ルークの事が分かるかもしれませんね。
「ルークのしたい事って?」
「アナベル様に、俺の作った料理を褒めてもらうことです」
……それって、どこでも出来るんじゃ?
「いつだって褒めるよ。だって、ルークの料理は世界一だから!」
ルークがいなかったら、私はきっと耐えられなかったと思います。初めてエルビン様の裏切りを知った日、ルークが言ってくれた『俺は奥様の味方です。奥様がしたいようにしてください。』という言葉に救われました。私の味方なんて、生まれて初めて言われた言葉でした。エルビン様に裏切られて、絶望していた私の心を救ってくれてありがとう。
「俺の料理が世界一なのは知ってます」
そうですか……
自信満々だけど、その通りだから何も言えませんね。
「だけど、その料理をアナベル様に食べていただかないと、俺の料理は完成しません」
「どういう意味?」
「アナベル様が美味しそうに食べてくれて初めて、俺の料理が完成するんです。だから、俺はアナベル様の専属料理人です!」
それって、私の為だけに作るって事?
「ルークの料理は、沢山の人を幸せに出来ると思う。私だけなんて、もったいないよ」
「残念ながら、これは決定事項です。アナベル様に拒否権はありません。
俺にとっては、愛する人が美味しそうに食べてくれることが、最高に幸せなんです」
さりげなく、愛する人って言いました!?
「え? え?? いつから……?」
嫌いではないのは分かってたけど、愛する人だなんて……
「初めて料理を食べてくれた時、すごく嬉しそうな顔をしてくれて……その顔が忘れられなくなりました。またアナベル様を笑顔にしたいと思いながら料理を作っているうちに、いつの間にか愛していた。もちろん、気持ちを知られないように片思いしてるだけのつもりだったんですけど、おつらそうなアナベル様を、黙って見ている事など出来なかった」
もしかしたら、私は知らないうちにルークを傷付けていたのでしょうか……
「自分の事で精一杯で、ルークの気持ちに気付かずに沢山傷付けてごめんなさい。
決めた! 今度は私がルークの味方になる!」
甘えてばかりなんて、私らしくないです! ルークの為に、私に出来ることをします!
「頼もしいですね」
「故郷に帰るということは、現実と向き合う決心をしたんでしょ? 私にも手伝わせて欲しい」
「ありがとうございます。ただ、アナベル様にはかなり頑張っていただかなくてはなりません。それでも、いいですか?」
行き先を告げずに馬車に乗せたのだから、最初からそのつもりだったくせに!
「任せて! どんな事でも、やり遂げてみせる!」
そう宣言したのですが……
「もう無理ー! 誰か助けてーーー!!」
ルークが言っていた、『かなり頑張っていただかなくては……』という言葉が、めちゃくちゃ頑張っていただかなくてはの間違いだと思い知る事になりました。