14、理不尽な嫉妬
「エルビン様、いきなりどういうおつもりですか!?」
エルビン様は部屋に入って来てから、ずっとルークを睨み付けています。
「妻の部屋に入り、誘惑していたんだろう!? アナベルは俺の妻だ!! 貴様のような使用人が、気安く話していい相手ではない!!」
まさか、嫉妬しているのですか!?
「おやめ下さい! ルークは、食事を運んでくれただけです! それに、エルビン様が言えた義理ではありません!!」
自分はお姉様とあんな事をしておいて、私は使用人と話すのも許されないのですか!? バカにしていますね!
「お、俺はただ……」
「ただ、何ですか?」
「俺は君の夫だ!! 妻に近寄る虫が許せなかっただけだ!!」
虫はあなたです!!
「それなら言わせていただきます!
エルビン様の妻は私なのに、どうして私の姉と寝ているのですか!? お姉様と寝るなら、私と離縁してください!!」
後悔させるつもりだったのに、あまりにも腹が立って、あっさり別れを告げてしまいました……
「それは、イザベラを愛しているからだ! だが、君も好きだと言ったじゃないか!! 君と別れるつもりはない!!」
えっと……エルビン様って、こんな人でしたっけ? 私が愛したはずのエルビン様は、もうどこにもいないのですね。
「お姉様のどこを愛せるのですか? エルビン様は、お姉様の事を何も知りませんよね?」
エルビン様とお姉様は、それほど親しくしていたわけではありません。
「顔に決まっているだろ?」
堂々と、顔だと言うエルビン様に呆れました。
「バカだな。奥様を裏切った理由が顔!? よくそれで、俺に『妻に近付くな!』なんて言えたな」
え……ルーク?
ずっと様子を見ていたルークが、エルビン様を睨み付けながら暴言を吐きました。
「き、貴様! 俺は主人だぞ!? その口の聞き方はなんだ!!」
「クビにしたいならすればいい。あんたにとって、何が大事なのかよく考えろ。
顔だけのアバズレか、心の綺麗な奥様か、両方は手に入らないんだよ!!」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れっ!!!
貴様はクビだ!! 今すぐ出ていけ!!」
ルークが、いなくなってしまいます……
「俺はクビだそうです。奥様……アナベル様、一緒に行きませんか?」
ルークは右手を差し出して来ました。
逃げないと決めたはずだったのに、私はその手を掴んでいました。
「ア……ナベル?」
悲しそうな顔をするエルビン様。エルビン様には、私は必要ありません。
まさか、こんな終わり方になるとは思ってもみませんでした。正直、ルークへの気持ちはまだよく分かりません。だけど、このままルークと会えなくなると思った瞬間、離れたくなかったのです。
料理が食べられなくなることが、嫌だっただけかもしれませんが……
「エルビン様、お元気で」
私はルークと一緒に走り出しました。
「ま、待て! アナベルを止めろ!!」
使用人達は、主人であるエルビンの言葉に従わなかった。いつも優しく明るかったアナベルが、エルビンのせいでつらい思いをしている事が悲しかったからだ。アナベルには幸せになってもらいたいと、皆思っていた。
「アナベル……」
アナベルの部屋に1人残されたエルビンは、その場に崩れ落ちた。