11、悪と悪
「エルビン様は、お姉様が何をしたのかご存知なのですか?」
エルビン様は、お姉様の共犯なのでしょうか? エルビン様が、犯罪を犯すとは思えませんが、それは私が知っているエルビン様ならという意味です。本当のエルビン様が、どんな人なのかは先程の言動で少し分かりました。
「何をしたかは知らないが、君が持っている手紙には俺とイザベラの事が書かれているのだろう?」
エルビン様とお姉様の事?
中身を知らずに、手紙を奪おうとしていたのでしょうか。今の言い方からすると、お姉様がエルビン様を騙しているみたいですね。
それなら、エルビン様に手紙を読ませた方がいいのでしょうか? でも、手紙を読んでもお姉様を信じると言い出したら、手紙をとられてしまうかもしれません。
その時、背後に嫌な気配を感じ、振り返りました。
「2人で何をしているの? 別れ話でもしているのかしら?」
お姉様……
「旦那様、奥様、申し訳ありません。
お止めしたのですが、身内だからと……」
バランは悪くありません。お姉様を止めることなんて、誰にも出来ません。
「大丈夫よ、バランは下がっていて」
バランは頭を下げてから、部屋のドアを閉めて出て行きました。
「あら、随分偉そうね。そっか、アナベルはここの奥様だったわね。あまりにみすぼらしいから、使用人と間違えてしまうわ」
この邸を、自分のもの扱いですか。ホーリー侯爵邸でも、同じような事をしたのでしょうか……
「イザベラ、すまない。アナベルは実家に行っている予定だったんだが、戻って来てしまったんだ」
妻の私にではなく、お姉様にいいわけするのですか。どこまで私をバカにすれば気がすむのでしょう……
「戻ってしまってすみません。ここは私の部屋なので、2人とも出て行ってください」
もう2人が何をしようと、私の気持ちは傷つきません。だから、私の前から消えてください。
「あなたの部屋? 汚ったないわね。掃除くらいしなさいよ。で? 手紙は?」
堂々と手紙の事を聞いてくるなんて、私なんて眼中にないということですか……
「手紙? なんの事か分からないわ」
「しらばっくれる気?」
あの手紙は、絶対に渡しません。シルビア様は、自害なんかしていません! シルビア様の無念を晴らす為にも、守らなくてはなりません!
「イザベラ、手紙なら俺が見つけて燃やした。だから、行こう」
一応、庇ってくれるのですね。私のことも、好きというのは嘘ではないようです。
「そう、良かった。アナベル、私達は寝室に行くわ。喉が乾いたから、お茶をお願いね」
お姉様はエルビン様と一緒に、部屋から出て寝室に行きました。
堂々と寝室に行くと言ったお姉様に従うエルビン様。お茶なんて必要ないくせに、お姉様はエルビン様との行為を私に見せたいようです。私は言われた通り、お茶を持っていく事にしました。
「俺が持って行きます」
お茶の準備をしていた私に、ルークは心配そうな顔で話しかけて来ました。
「ルーク、ありがとう。でも、大丈夫。私が持っていかなかったら、お姉様は満足しない。嫌がらせが増えるだけだから」
それに、お姉様の言う通りにして、手紙の事を忘れてもらわなくてはなりません。エルビン様が言ったことを、完全に信じているとは思えないからです。
「どうしてそこまでするのですか? 昨日は、奥様がしたいようにしてくださいと申し上げましたが、こんなの間違っています!」
最初は、失礼な人だと思っていたけど、ルークはとても優しい人なのですね。
「心配してくれて、ありがとう。ルークが居てくれて、良かった。お茶を出したら、予定通り実家に行くわ」
お父様とお母様に、お姉様がシルビア様にした事を話すつもりです。お父様もお母様も、お姉様の事を信じているから、悪い噂を聞いても信じていませんでした。私は何度もお姉様に注意をして来たけど、あのお姉様が私の言う事を聞くはずもなく……
まさか、人の命を奪う事までするとは思っていませんでした。私の時は見捨てただけですけど、今回は違います。
お姉様が悪で、私が善だなんていうつもりはありません。私はお姉様にとっての悪になろうと思います。