その婚約破棄、妖精さんが遊んでもいいですか?
「ハズラック侯爵令嬢、ソフィア! お前との婚約を破棄する」
あらあら、ここはなんていう名前の国だったかしら。
人間の国は細かく別れていて、しかもすぐ無くなったりくっついたりと忙しないから、妖精さんにはちっとも覚えられないのよね。
けれど確かこの国には、妖精さんたちと仲良くしてくれる子がいるのよ。とても美味しくて、柔らかくて暖かい魔力をくれる子がいるの。
あらあら
あらあら
あそこにいるのはその子ではないの?
ええ、ええ、この魔力、間違いはないわ。あの子は、妖精さんたちと仲良くしてくれる子よ。
あらあら
あらあら
どうしましょう?
あの子泣いてる。泣いてるわ。
近頃、人間の国では王の子やそれに近い子が、それまでの恋人を大々的に捨てる儀式が流行っているんですって。
そして新しい恋人を紹介するの。
よく分からない儀式ね。
なんの意味があるのかしら。
人間はなにか複雑な事情を自分たちで作って雁字搦めにするのが好きだから、そういう事なのでしょう。
「――よって、お前を国外に追放する!」
あらあら
あらあら
あの子、この国の子ではなくなるの?
ねぇ、この国に他に妖精さんたちと仲良くしてくれる人はまだ居たかしら。
あらあら
あらあら
いいえ、あの子が最後。あの子が最後よ。
まあ!
じゃあこれってもしかして!
この国で妖精さんは遊んでいいってことかしら?
じゃあ私は何をしようかしら。
そうだわ!
あの子に婚約を破棄すると言った、あの人の子がしていた『わるいこと』をこの場所にいる人みんなに見てもらうわ!
過去にあったことを幻影魔法で見せるだけだもの。なんてことないわ。
じゃあ私は何をしようかしら。
そうだわ!
私は逆にその人の子と、隣の新しい恋人がどれだけ仲良しなのかみんなに見てもらうの。
過去にあったことを幻影魔法で見せるだけだもの。なんてことないわ。
じゃあ私は何をしようかしら。
そうだわ!
あの子がどれだけ優しくて、どれだけ妖精さんと仲良くしてくれたのか見せてあげるわ!
過去にあったことを幻影魔法で見せるだけだもの。なんてことないわ。
じゃあ私は何をしようかしら。
そうだわ!
あの子を大事にしてくれそうな人のいる場所まで、送ってあげましょ。
いいわね。いいわね。
私もやるわ。私も手伝うわ。
誰がいいかしら、誰がいいかしら。
あの国の王は? こちらの国の王の子もいいわね。
あちらの国の王の親類に良い子がいたわ。
いいわね。そうね。そうしましょう。
人の子達の騒がしいこと。
なぁに? あんなに仲良くしていたのにあの人の子と新しい恋人は仲違いをしているの?
幻影魔法ではこんなに仲良くしているのに。改めてよーく見せてあげましょ。
なぁに? 『妖精姫』?
あら素敵な呼称ね。あの子にぴったり。
いいわね。いいわね。
今更行かないでくれと言っても、もう次の場所へ送る準備は出来ているのよ。ねぇ? ねぇ?
それに送るのはその子でもアナタたちでもなく、妖精さんよ。聞いてなんてあーげない。くすくす。
ねぇ、ねぇ。
遊んだあとはどうしようかしら。
この子はあちらの国に送るのでしょう?
そうね。そうね。
とても柔らかくて暖かくて、美味しい魔力は今はこの子だけよ。
そうね。そうね。
じゃあ、この国にいる意味は無いわ。
そうね。そうね。
じゃあ、私はあの国にいこうかしら。
いいわね。いいわね。
じゃあ、私はそっちの森に行くわ。
いいわね。いいわね。
じゃあ、私はあそこの竜の傍に。
いいわね。いいわね。
じゃあ、私はかの魔女の傍に。
いいわね。いいわね。
じゃあ、私はこの子について行くわ。
いいわね、私も。いいわね、私も。
ぎゃあぎゃあと騒がしい人の子は嫌いよ。
まぁ、いいじゃないの。彼らはもう今までのようには生きられないのよ。
妖精さんの力で豊かに整えられていた土地は消え。
妖精さんの力で穏やかだった空は消え。
妖精さんの力で静かだった森は消え。
もう彼らは今までのようには生きられないのよ。
そうね。そうね。
じゃあ、忘れましょう。
ほら見てあの子を。
とても美味しくて、柔らかくて暖かい魔力のあの子を。
とっても嬉しそう。
とっても幸せそう。
そうね。そうね。
ますます魔力が、柔らかくて、暖かくて、美味しくなってくるわ。
そうね。そうね。
素敵。とっても素敵。
妖精さんの力も、ぐんと上がったわ。
妖精さんの寿命も、ぐんと長くなったわ。
素敵。とっても素敵。
あの子は幸せになったし、さて、次は何をして遊びましょうか。
くすくす。くすくす。
愉しいことが、どこかに転がっていないかしら。
くすくす。くすくす。
快しいことが、どこかに転がっていないかしら。
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