表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

[4](終)

×月?日


 気付いたときには、たくさんの人の叫び声と、鉄臭い匂いとが、私と夫がいる仮の住処にまで届いていた。


 なにか、村に異変が起こっている。

 私達は、急いで村の方へと向かった。


 ひどい有様だった。


 村の家のあちこちから煙が上がっている。道には村人の死体がいくつも転がり、まだ固まっていない赤い血の跡が点在している。

 この様子だと、村はすでに壊滅してしまっているだろう。生き残った人も、おそらくはもう居ない。


「……なんで、こんなことに?」


 困惑の表情を浮かべた夫が呟く。


 と、ふいに、ザッ、ザッ、と誰かの足音が近づいてきた。

 私達はそちらの方を見た。


 桃太郎が居た。


 身体中に血が付いているけれど、たぶん、本人は怪我をしていない。

 私が名前を呼ぶと、桃太郎は笑顔を見せた。


「おじいさん、おばあさん。僕、鬼ヶ島で、おじいさんとおばあさんになにがあったのかを知りました。……それからいろいろ考えました。僕は二人を幸せにしたい。でも、どうやら、鬼ヶ島の鬼達も、村の人たちも、僕らの味方にはなってくれないようでした。それどころか、二人への敵意を無くそうともしない。」


「桃太郎…」


「だから、どっちも消しちゃうことにしたんです。だって、そのほうが、明らかに幸せだから。じつは僕、けっこう戦うのが得意だったんです。」


 たぶん、本当は、私達は桃太郎を叱らなきゃいけないんだろう。けど、


「…本当に…ありがとう…私たちのために…」


 桃太郎が私達のために動いてくれたことが本当に嬉しくて、そして、桃太郎に深いところから救われたように感じて、だから、叱ることなんてできなかった。





『私達は悪くない。悪いのは、私達以外だ。』


 と、考えるようなことも何度かあった。

 でも、その思いはきっと間違っていると思って、口に出さずに留めておいた。


 鬼になるか、人になるか。


 その2択で迷うべきであって、それとは別の選択肢は、決して思い浮かべないように、心のどこかで抑えていた。





「どれだけひどいことがあっても、僕だけは二人の味方です。」


 と桃太郎は言う。


 なぜ桃太郎は、ここまで二人の味方でいようとし続けてくれるのだろう。分からない。けれど、これはきっと、分からないままでいたほうがいいのだ。


 夫はまた、泣いていた。

 たぶん嬉し泣きだ。ずっと無言でいるけれど、そうに違いない。




 ……世界中が全部敵になってしまった方が、いいのかもしれない。

 そのほうが、よりいっそう、三人でいる幸せを感じられるから。


 私は、夫と桃太郎とを一緒に抱き寄せた。

 桃太郎の服についた血が香った。







 これからどうなるのかは、分からない。

 少なくとも、もう、私達には、誰かと仲良くすることはできないだろう。



 でも、それでいいんだ。

 私には、夫がいて、桃太郎がいる。

 

 二人だけじゃ心細かったけれど、三人なら。

どんな困難だって乗り越えられる。


 私達は三人で手を繋いで、次に帰る場所を求めて歩き出した。





 これからの日々が、よりいっそう幸せなものに、なりますように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ