[1]
◯月◯日
今日、川で顔を洗っていると、桃色の肉の塊のような、奇妙なものが流れてきた。大きさはスイカぐらいだった。私のすぐそばで、流れに逆らうようにして止まった。拾ってくれとでも言っているかのように。
最初は無視を決め込もうと思った。けれど、そののち、これを拾うと、私たち夫婦が今置かれている現状が少しは変わってくれるんじゃないかという予感が、なぜだか不意に浮かんできて、それでやっぱり、家に持ち帰ってみることにした。
昨日も、いつものごとくありえないほどの量の力仕事を背負わされたせいで、疲れ切り、布団に飛びこむようにして眠りについた夫は、今日は、私が顔を洗い終えて、今日使う分の水を川から汲んで運んで家に着いた頃に、ちょうど目を覚ました。
あくびをしながら私の方を向いた夫は
「…ん、その持っているのはなんだい?」
と聞いてきた。
「分からない。川を流れていたものなのだけれど。なんだか、持って帰った方がいいような気がして。」
「君の予感は当たることが多いからなあ。それにしても、実に不思議な物体だね。生きているみたいに見える。」
「…」
私達はそれを囲炉裏の傍に置いた。
あとはいつも通り、私も夫も今日の分の仕事を始めた。とくに変わったことは起こらなかった。
◯月△日
誰かの泣き声で目が覚めた。
なんだろう、と思って探すと、囲炉裏の傍に、一人の赤ん坊が転がっている。
あの奇妙な物体を破って出てきたのだろうか。周りには、赤い血のような液体と、破れた膜のようなものが広がっていた。
化け物の子供とか、そういった類のものではないと思う。少なくとも見た目上は、明らかに、人間の赤ん坊だ。
夫も起きてきた。
「どうすればいいのかしら?」
「うーん…本当なら、子育てに慣れた村の人の誰かに助言をもらいたいところだが、果たして、僕らに教えてくれるかどうか…。」
「でも、私達、いちおう一通りのやり方は勉強したはずよね。」
「…ああ。まあ、そうだよな。とりあえずは、僕らでがんばって世話してみて、どうしてもダメそうなら助けを求めればいいか。」
「ええ、そうしましょう。」
私は手仕事で基本は家の中にいるので、なんとか面倒を見ることもできるだろう。
赤ん坊をずっと裸でいさせるのはあまりにむごいので、家に残っていた熊の毛皮を巻いてあげた。
巻いてやると、赤ん坊は笑った。
可愛い、と心から感じた。