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純喫茶ぎふまふ奇譚  作者: 勢良希雄
5/19

5 イカの塩辛のっぺい

 七月五日金曜日。

「山翔、起きんでええん? 三佐子さんのお店、何時から手伝うん?」

 母さんの声で目が覚めた。

「やっべ! 寝坊した」

 スマホの時間を見ると六時。アラームをかけるのを忘れていた。

 急いでシャワーをして、家を飛び出したが、この時間、バスは走っているのだろうか。母さんが鍵を持って、外に出てきた。

「武瑠の自転車乗る? 三年放置しとるけど」

 自転車の鍵を外して、跨ってみた。ブレーキワイヤーとチェーンが切れていないことだけ確認した。

「敬礼! 警察官として、整備の不確かな自転車に乗るのは不本意でありますが、本官はただちに急行せねばなりません。行って参ります。今日は遅くなるかもしれません」

「明るい! どこがうつ病ね」

 燕が飛ぶように坂を下る。直滑降のような坂道の先に、海田湾の水面が見える。ちょっと函館を思わせる景色だ。

 お店までは約二キロ、歩けば三十分かかる。自転車でしかも下り坂、なんと六分で到着。ドアのカウベルを鳴らして、店内に入る。六時二十分である。

「おはよう。遅刻して、ごめん!」

 三佐子さんは、野菜を刻んでいる。

「おはよう。来れる時間でええんよ。無給なんじゃけん。昨夜は眠れた?」

「うん。九時間以上寝た。目覚めすっきり」

「そんなに? 全然、うつ病じゃないじゃん」

「昨日のお茶のおかげかな」

「セントジョンズワート、効くじゃろ」

「うん」

 三佐子はパンと手を叩いた。

「さあ、戦争は始まっとるよ。ポテトサラダを作るけえ、マッシャーでポテトを潰して」

「マ、マッシャ?」

「最初、私がやるけん見といて」

 アラームが鳴ると、茹で上がったじゃがいもを湯切りしてボウルに移す。

「これがマッシャー。上からズッコズッコと押さえる」

「おお、マッシュポテト。そんでマッシャーか」

「そうよ。潰し切らずに、適度な口当たりを残すのがコツ。見て、これくらい」

「できるかな」

「大丈夫、お兄さんは鼻がええけん、料理のセンスもあると思う」

「よし、がんばる」

「美味しいかどうかは、舌で感じる『味』以上に、鼻で感じる『香り』が重要らしいんよね。あと、口当たり、見た目、噛む音。人間は五感を使って、料理を感じるんよ」

「ああ、なるほどね。分かる」

 ポテトのあとは、ゆで卵。半熟が出来るまでの間に、外のプランターに水を遣った。


 七時、開店と同時に入る常連さん、三人。モーニングセットの注文を三人同時に取った。三日前に声をかけてくれた年配の男性が、僕を失業者だと思って励ましてくれる。

「兄ちゃん、頑張ってとるね。大丈夫、大丈夫」

「あざーす。頑張ります」

「その意気その意気。いつも三佐子ちゃんが言うように、テキトーによ」

 笑顔で声をかけてもらうだけで、心がほっこりする。

 …田舎の交番ではこんな感じもあったな。やっぱり、自分には本部の刑事は向いてない。

 十時になる。ランチに備えて、ご飯を一升炊く。今日は里芋の煮物定食とハンバーグ定食。すぐに出来る焼きそば、焼うどん、焼き飯もメニューにある。薬膳カレーは、時間がかかるので、午後一時以降、知っている人だけに出していた。メニューには書いていないが、千円らしい。どのメニューも材料がなくなると、売り切れ。午後の後半は、ほぼ飲み物だけになる。

 昼下がりにはまた、二人を「相当ええ感じ」だと言ってくれた三佐子さんの叔母さんも来た。僕に小声で「三佐子ちゃんをよろしくね」と言う。僕も小声で「はい」と答えた。

 夕食をやれば、客単価が上がるが、夜、女店主は翌日の仕込みに心を込める。午後六時には店を閉めてしまう。

「今日のまかないは何にしようかね。それとも、帰ってお母さんと食べる?」

「いや、仕込みまで手伝うよ」

「明日の仕込みは、そんなにかからんけん。じゃあ、送ろうか」

「いや、今日は自転車が」

「そっか。あ、じゃあ、先に自転車で帰って。ちょっと買い物をしてから、今日の定食の余りを、車で家に届けてあげるけん」


 ニュータウンへの坂道を自転車で登るのは、体を鍛えている若い警察官にも少しきつい。すいすいと登るほかの人の自転車を見れば、電動アシストが付いている。

 汗だくで家に到着。時間を合わせたように、軽バンぎふまふ号も着いた。

「じゃあ、これ。お母さんと食べて」

 玄関前で小さな鍋を渡された。

「一緒に食べようや」

 両手が塞がったので、どうやって鍵を開けようかと思っていたら、中から母さんが扉を開けた。

「あら、三佐子さんいらっしゃい」

「あ、こんにちは。こんばんは」

 まだ、この二人には少し遠慮があるようだ。

 たぶん、母さんは自分が近づくことで、武瑠を思い出させることを気にしている。そういう意味では僕も同じなのだが。

 鍋を少し掲げて、母さんに言った。

「これ、三佐子さんの料理。みんなで食べよ」

 三佐子さんが、「いや、でも」と遠慮していると、母さんは「どうぞどうぞ」と迎え入れる。

 三佐子さんも靴を脱いで、家に上がった。リビングに案内すると、出窓に置いてある家族写真が目に入ったようだ。三年前に死んだ父さん、母さん、中学生の僕、そして、小学生の武瑠が写っている。

 母さんは鍋の蓋を取った。

「三佐子さんの料理? 何かしら」

「ああ、里芋の煮物です。ごめんなさい、今日の昼定食の余りで」

「へえ、これは『のっぺい』じゃね。私、こんなに色鮮やかに作れんよ」

「お客さんも、その名前を言っていました。自分で創作してたら、そうなっちゃいました。特別な名前はないんですけど」

 料理の話が潤滑油になって、二人の会話が回りだした。

「のっぺいってね、郷土料理と言われるんじゃけど、全国各地にあって、こうでないといけないということもないみたいなんよ」

 母さんは、箸を取り出し、里芋を一つ口に入れた。

「わあ、美味しい。色が薄いのに、ちゃんと味が着いとるね」

「うれしい。誰に褒められるより」

「こののっぺい、三人で食べるには、ちょっと少ないけん、作り足しましょ。作り方を教えてくれん?」

「もちろん。でも、材料を買い出しに行かなくちゃ」

「冷凍庫で眠っている里芋があるの。鶏肉とか野菜もだいたいある思うよ」

「分かりました。私のも里芋は冷凍です。あるもので作りましょう。お兄さんも手伝ってよ」

 冷蔵庫と冷凍庫を開けてみると、食材や調味料がたくさん入っている。

「母さん、一人暮らしで、こがいにいっぱいどうするん?」

「スーパーにパートで行きよるけん。良さげなもんがあったら、帰りについ買うてしまうんよ」

「で、これ食べれるん」

「近所のお年寄りに、料理して配りよるんよ。もう、この辺も高齢者ばっかりじゃけん」

「母さんは若い方?」

「当たり前よ。七十代、八十代の中の五十代なんじゃけんね。アイドルよ。五十路には見えんね、美魔女じゃね、言われとるんじゃけん」

「そういえば、私もお兄さんに美魔女って言われたんですよお」

 三佐子さんはお茶目な笑顔を僕に向けた。

 …おお、なんかキュンとくるじゃん。やっぱり魔女だ。

「山翔、それは失礼なよ。美魔女いうのは、相当の年なのに、なんでそんなに若いんか、化け物じゃないんか、いう意味よ」

「化け物! 自分も言われとる言うとったじゃん」

 キッチンは狭いので、僕はテーブルの上で下ごしらえをする。里芋を自然解凍し、干し椎茸と干しエビをそれぞれ水で戻す。

 三佐子さんが具材を刻み始めた。人参と蓮根は乱切り、油揚げは短冊、コンニャクは手綱に結ぶ。解凍した里芋は六等分、戻した椎茸は軸を落として四等分に切る。椎茸の戻し汁は取っておく。

「見事な手際じゃね。どこで習うたん?」

「調理師は持っていますが、ほぼ独学の我流なんですよ。あの喫茶店は実験小屋です。最初頃のお客さんは実験台でした」

「面白いこと言う人なんじゃね。私、ますます三佐子さんのファンになったわ」

 簡単なことを任された僕、市販のたけのこの水煮を袋から出したり、カマボコを切ったりしている。

 キッチンでは、鍋に水と椎茸の戻し汁を入れて、コンロに置き、里芋と人参を入れて中火で点火。沸騰してきたら、蓮根、コンニャク、椎茸、干しエビ、たけのこの水煮、鶏肉を投入。弱火に落として十分ほど煮る。

「問題はここからです。私、いつもはナンプラーを使うんです」

「え、なぜ、ナンプラー?」

「実は日本料理にも合うんですよ。ここには今、それがないので…お母さん、この瓶詰のイカの塩辛で代用したいんですが、使っていいですか」

「もちろん。塩辛も魚醤(ぎょしょう)の一種だと聞いたことがあるけど、ナンプラーの代わりになるん?」

「分かりません。チャレンジです。実験台になってください」

「あ、はいはい」

 イカの塩辛をボウルに移し、なぜか砂糖を入れた。熱湯を少しずつ注ぎ、イカワタのドロドロを溶かしていく。スプーンで塩加減を見ている。そのお湯を適量、具のイカはお湯を切って、鍋に投入。干しエビを戻し汁ごと入れて、醤油で味を馴染ませる。魚介の香りが広がる。絹さや、カマボコを入れると彩りも鮮やかになった。

 完成かと思いきや、三佐子さんは左手で白い粉を入れながら、右手で鍋をかき混ぜる。また、無声で何かを唱え始めた。

「母さん、三佐子さんは魔法使いなんよ。あれはきっと怪しい成分の粉」

 それを聞いた三佐子さん。

「市販の片栗粉よ」

「そうなん。でも、いつも混ぜるときに何か唱えとるじゃん」

「見とったんじゃね? おいしくなれ、おいしくなれって、念じよるんよ」

「怪しい呪文じゃ思うとった」

「魔女、じゃけんね」

 二人にしか分からない会話を聞いて、母さんが「仲がええんじゃね」と呟いた。

 店から鍋で持って来たものも加熱して、それぞれ器に盛り、ご飯、酢の物と一緒にお盆に乗せると、和風お膳になった。三人はテーブルについた。

「さあ、怪しい塩辛のっぺいができましたよ。いただきましょう」

 母さんも目を輝かせている。

「どっちも美味しそう。いただきます」

 先に今作った方に箸を付けた。

「不思議な味。でも、美味しい」

 どれどれと僕も里芋を食べてみる。

「んん。これは旨い!」

 三佐子さんはほかの具材も試しながら言う。

「いや、エビとイカが喧嘩してるし、イカの身が辛過ぎる」

「厳しいね。十分いけるよ」

「店から持って来た方を食べてみてください」

 そう言われて、母さんはそっちを食べてみた。

「なるほど、まろやか。味がまとまっとるわ。でも、イカの塩辛のパンチ力も捨てがたいところよ」

 僕が「母さんは濃いいのが好きじゃけんね」と解説した。

「塩辛に砂糖入れたね」

「はい。ナンプラーには砂糖が入っているのもあるんですよ。やっぱり変ですか」

「いや、変じゃない。砂糖が入っとるとは、誰も思わんと思う」

「片栗粉、邪魔してますか?」

「確かにちょっと、とってつけた感があるね」

「あ、やっぱりそうですか。私もそう思いました」

「いっそ、くず粉でもっとドロドロにしてみたら、どうかしら。…ごめんごめん、釈迦に説法じゃね」

「いえいえ、とんでもない。なるほど、くず粉かあ。なんか、お母さんとお話してたら、新しい料理が生まれてきそう」

 食事の最中は、母さんと三佐子さんの料理談義だった。

 三人の食事風景は、母親と息子夫婦のようだ。しかしたぶん、三佐子さんの心の中では、僕の席には武瑠が座っている。

「ごちそうさま。美味しかった」

「私も楽しかったです。ありがとうございました」

 三佐子さんは仕込みのために、店に帰った。

 …明日も会える。毎日会える。


 仏壇の隣に小さなテーブルには武瑠の写真が置いてある。

 …あんなにいい彼女を置いて、どこ行ってるんだ。早く出てないと、お兄ちゃんに取られるぞ。

 塾長が自分の小説に絡めて、夢を送ってくるなら、あの小説を読んだ方がいいのは確かだ。しかし、あの厚みは読める気がしない。そこそこ売れて、今でもファンがいると言っていたが、ホームページか何かないのか。スマホで検索すると、ファンクラブ運営のサイトにヒットした。しかし、スマホ対応になっておらず、見にくい。鞄からノートパソコンを出して、インターネットに繋ごうとしたが、今度は、設定がうまくいかない。

「母さん、父さんのパソコンって使えるん?」

「私は一回も開けとらん」

 父さんのパソコンのスイッチを入れてみた。OSのバージョンがかなり古い。セキュリティサポートが終わっているので、ネットに繋がない方がいい。

 インターネットの接続を抜いて、電源を切ろうとしたら、デスクトップに、「さつま汁レシピ」というファイルを見つけた。気になってクリックしてみると、文書が開いた。一行目に「山翔と武瑠へ」と書いてあった。内容は料理のレシピである。添付の写真を見ると、僕が中学生の頃に、父さんと一緒に作った料理である。冒頭の文章を読む。

 ―さつま汁は、安芸郡地域に古くから伝わる郷土料理で、家ごとに男親から男児に伝えるものとされている。君たちもしっかり覚えて、私の孫に伝えてほしい。―

 ファイルの保存年月日を見ると、父さんが心臓発作で倒れる前日である。

「父さんの遺言…」

 レシピをプリントアウトして、三佐子さんに作ってもらおうと思った。

 母さんにレシピを見せた。

「これ知っとる? 父さんが死ぬ直前に書いたみたいなんじゃけど」

「さつま汁じゃね。そういえば、死ぬ前の日に、お父さんが作ってくれたよ」

「母さんは作れんのん?」

「これはお父さんしか作れんのよ。山翔は習わんかったん?」

「かすかに覚えとるくらい」

「じゃけ、このレシピを残したんじゃね。死ぬのが分かっとったみたい」

 パソコンをインターネットに繋げなかったので、スマホで「ぎふまふファンクラブ」のホームページを見てみる。トップに「超あらすじ」というボタンがあった。

 ―前編は、郷土史に微かに残る戦国時代(十六世紀)の小さな戦いが舞台。滅亡する運命の一族とその姫を守るため、未来や過去から現れたタイムトラベラーが活躍する。後編は、前編の活動で導いた平和な未来を守るために、主人公たちがいくつものパラレルワールドを渡りながら日本史を縦断。終盤は、壮大な異世界ファンタジーへと発展していく。―

 その下に登場人物のイラストがある。矢野城の姫アゲハ、神話の青年サヌ、塾長キクチ、小学生タケル、十四世紀の豪傑一党五人衆、天竺の忍者三兄妹、異世界の教皇。味方キャラは十三人。あのコスプレ写真のメンバーだ。

 …時代劇かと思ってたけど、いろんな時代からタイムトラベラーが集まるSFなんだ。

 台所でコップに水を汲み、薬を指定の半分ずつ飲んだ。昨日買った、吉備団子を二つ食べる。さすがに飽きてきた。

 自分の部屋で、ベッドに横になり、スマホで小説の電子版を読んでみようとした。全然、頭に入って来ない。読書が苦手な僕には紙の本だろうと、電子書籍だろうと関係ない。飛ばし飛ばしページをめくりながら、眠りに落ちる。


 昨日の夢の続きか。満月の山道。

 足を挫いた三佐子さんを背負って歩いている。

「私のこと、ほんまに覚えてないん?」

「あ、思い出したんよ」

「ほんま?」

「うん。武瑠が行方不明になったあと、友達十人くらいとお見舞いに来てくれたじゃろ。あの中におったよね」

「そう! 確かにあの時、お家に行った。あの中で、どれが私じゃったか分かる?」

「母さんと話して、一番、後ろで泣いとった背の高い女子じゃろういうことになった」

「たぶん、当たり」

「実は誰にも言えんかったんじゃけど、あの時、『めっちゃタイプ』いうて思うたんよ」

「ふーん。ちょっとうれしい」

 しばらく歩くと、少し広い場所に出た。満月が雲に隠れ、真っ暗になった。少し、目が慣れると、神社が見えて、奥から滝の音が聞こえる。

「ここ、幻の極楽天神…」

 三佐子さんがそう言うと、社の向こうの滝の方で、バキバキという音がする。

「動物か?」

 僕は背中の三佐子さんを左手で押さえ、右手で足元に落ちていた手頃な木の枯れ枝を拾った。

「武瑠は剣道の有段者じゃが、僕とて県警逮捕術大会では警棒で常に上位の腕前。棒さえあれば片手でもイノシシやサルには負けやせん」

「お兄さん、かっこいい」

 しかし、動物は巨大だった。

「クマ?」

 三佐子さんがしがみつく。

 …ビビッちゃダメだ。

 出てきたのは、もっともっと大きな動物。ブオーンという咆哮とともに、滝の水を割って現れた。

「恐竜だ!」

 腰を抜かしそうになるが、大切な人を守るため、必死に姿勢を立て直す。

 二足歩行の俊敏そうな恐竜。

 クイーーーン!

「カムイサウルス・ヤポニクス! この恐竜、小説では味方なんよ」

「そうなん?」

「あ、この恐竜、地面に足がついてなくない?」

 そう言われてみると、背景が透けている。リアルではあるが、重量感がない。

「ホログラムじゃ。あの滝の岩壁の隙間から照射されとる!」

 プイーンと少し高い声で鳴くと、神社の扉が開いた。恐竜の声と姿はフェイドアウトして消えた。

 神社に近づいて中を見ると、黄色い蝶が一匹出てきた。神棚に紙袋が置かれている。手に取ると、「大蘇鉄」という文字が書いてある。

「なんて、読むんじゃろ」

「『おおそてつ』よ。塾長の小説に出てくる重要アイテム。いろんな病気に効く万能薬よ」

 袋を開けると、巨大な干しブドウのようなドライフルーツが入っていた。


 目が覚めた。まだ、夜の十時だ。

 電気を点けて、夢をメモする。

 …前半は幸せな夢だった。

 母さんはリビングでテレビを見ていた。キッチンで水を飲もうとすると、調理台に白い紙袋が置いてある。「大蘇鉄」と書いてある。中を見ると、しわしわで光沢のあるドライフルーツ。

 …え、なんでここに? 夢の中の物が現実に現れた?

「母さん、この紙袋、何?」

「今さっき、玄関に置いてあるのに気が付いたんよ。三佐子さんが忘れたんじゃないかね。持って行ってあげて」

 …そういうことか。

 大蘇鉄、校庭とかに植えてある椰子(やし)みたいな木のことだろうか。

 睡眠導入剤を一個飲んだ。

 …夢と現実がごっちゃになっている。あれ、ここに置いた吉備団子がない? どっちが夢なんだ?

 薬が効いてきて眠くなり、ものが考えられなくなる。今度は夢を見ずに眠った。

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