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純喫茶ぎふまふ奇譚  作者: 勢良希雄
10/19

9 リメイク・ザ・病院食

 七月九日火曜日、お昼前。青い夏空の下、自転車を走らせる。

 矢野沖町は埋立地なのでまっ(たいら)。一キロ近くまっすぐな道路が格子状に通っている。

 広い敷地の工場が並んでいる。

 …あ、ここがあの工場長の工場だ。

 純喫茶ぎふまふまで行って駐輪し、歩いて駅前のうどん屋さんに顔を出した。お礼を言うと、昨日の女性は大丈夫だったのかと聞かれたので、大丈夫みたいだと答えた。

 ぎふまふ号は、今朝、三佐子さんからの電話を受けた場所のすぐそばで、あの時振り返れば見えた駐車場に置いてあった。

 車で病院に戻る。病室に行くと、カーテンが開いていて、楽しそうな笑い声が聞こえた。リンダさんは体を起こして、笑っている。どんどん元気になっていく。朝来たときとは、随分印象が違う。

「さっき、先生と面談したけど、割と早く退院できそうよ。そしたら、しばらく、私の部屋に来てもらおうと思うの」

 …リンダさんには帰るところがないのか。

 何度も自殺しかけているらしいが、どんな事情があったのだろう。

「三佐子、ごめんね。何から何まで…」

「水臭いこと言わんのよ」

「ありがと。心配かけてごめんね」

「お礼はええけん」

 二人の関係は特別なものだと感じた。

 お昼の病院食が運ばれてきた。

「問題はこれよ。先生も食事ができれば、退院って言われたんよ。これくらい食べられるようになってもらわんとね。お兄さん、手伝って」

「はいよ」

 僕は、三佐子さんについて、病院食をお盆ごと談話コーナーに持って行った。三佐子さんはスーパーで買ってきた物が入った袋を持っている。横の給湯室には、電気コンロと電子レンジがある。

 この日の献立は、お粥、おでん、茶わん蒸し、オレンジゼリー。

全粥(ぜんがゆ)の軟菜食。昨日の昼、夜、今朝の食事は、結局、私がほとんど食べた。食べながら、病院の栄養士さんも大変だなと思った。カロリー、栄養素、アレルゲン、柔らかさ、いろんな制約の中で、献立を考えんといけんのよ。そうすると、味や香り、見た目みたいなことが、どうしても後回しになってしまうんよねって。それは、決して手抜きということじゃなくて、優先順位の問題なんよ。ただ、ほんのひと工夫で美味しくできるんじゃないかと思うたんよ」

「なるほど、病院食をリメイクする気じゃね」

「そうじゃね。もちろん、それを入院患者全員に、となると、予算や人手の問題があるけん、簡単にはできんと思うけど、ちょっと考え方を検証してみようかと思うてね」

 エレベーターから白衣を着た女性が現れた。

「こんにちは、この病院の管理栄養士です」

「こんにちは、林田の付き添いの者です」

「君島さん、ですよね。薬剤師で栄養士で調理師なんでしょ。雑誌で読みました。私も一度、お店に行ってみたいと思っていました。今日は、美味しい病院食を作る方法を教えてくださるとかで、楽しみにしています」

「いえいえ、教えるだなんて。栄養士さんと一緒に試してみたいなと思ったんです」

「ありがとうございます。病院食は不味いご飯の代表みたいに言われています。頑張ってはみるのですが、塩分、糖分、脂肪分と使える量が限られているので、家庭の味やレストランの味に近づくことが難しいんです。私らも食事のプロです。本当は入院患者さんに、美味しいと言ってほしいんです」

「ですよね。ご苦労お察しします」

 三佐子さんは、作業を始めた。

「まず、お粥さんです。このお粥には塩が入れてありますか」

「いいえ、お米と水だけです」

「そうなんですね。塩結びよりシンプルだ。お粥さんも本当は美味しいんですよ。ただ、濃い味に慣れてしまった日本人は、その味を感じなくなっちゃってるんです」

「雑炊と違って、具も調味料も入れませんし、おかずと一緒に、という食べ方でもありませんからね。それに、あまり、噛まないので、お米自体のおいしさも感じにくいかもしれないですね」

「そういうことか。あの、この林田の食事で、気をつけなきゃいけないことって何ですか」

「そうですね。林田さんは、臓器の病気ではないので、咀嚼、嚥下、消化に気を付ければ、特に材料としてのNGはないですね」

 三佐子さんは、スーパーで買ってきた物の一つを袋から出した。

「海苔の佃煮、入れてもいいですか」

「海苔の佃煮? おもしろーい。お粥の意味を壊さずに、味を付けるんですね。風味も増しますね」

 栄養士さんは、成分表示を確認してOKを出した。

「次におでん。このゆで卵、林田には無理だと思うんです」

「そうですね。ごめんなさい。行き届かなくて」

「いえいえ。こんな大きな病院だと一人ずつに合わせるのは難しいですよね」

「いくつかのパターンはあるんですけどね。軟菜食の次は流動食になってしまうんです」

「流動食の段階ではないですもんね。少し、栄養価を増すために卵は摂りたいところです。マヨネーズ、いいですか」

「いいですよ」

 おでんのゆで卵を、小皿に移しで、マヨネーズをかけてフォークで潰した。

「黄身でむせるといけないので、おでんの出汁で薄めていきます」

「マヨネーズでカロリーも上がりますね。でも、おでん出汁が混ざると、どんな感じ? あ、しょうゆマヨネーズがいけるんだから、大丈夫ですね」

「大丈夫だと思いますけど。私の料理、結構失敗するんです。ね」

 そう言って、僕の方を見た。

「うん。こないだ、くさやで大失敗したよね」

「具体的に言わんでよろし」

 和やかな雰囲気になった。

 三人は給湯室に行き、三佐子さんがスーパーで買って来た陶器やガラス食器を洗った。

「これ、全部、百円ショップです」

「そうは見えないわ」

「ですよね。病院食のプラスチック食器も、最近は無地ばかりじゃないんですね。見た目は華やかになったんですが、食器と箸やスプーンが当たる音も食事の要素だと思うんです」

「器の見た目や重量感は大事だと感じたことがありますけど、音、ですか」

 僕が割り込んだ。

「それ、分かる。職員食堂のカツ丼を掻きこむとき、カコンカコンていう、プラ音がすると、味までプラスチックになる」

「ご主人も面白い人ですね」

「旦那ではないです」

「あら、てっきり。それは失礼しました」

 黒い漆塗り風のお膳。再加熱したお粥は陶器のお茶碗、海苔の佃煮にサケフレークを乗せて色味を添える。おでんは具材を半分くらいに切り、ゆで卵のマヨネーズ和えと一緒に平皿に入れて、主菜感を出す。茶わん蒸しは小鉢に移して、花模様の麩を散らす。オレンジゼリーはガラスの器に伏せて、プリンのようにした。

「わあ、きれい。美味しそう」

 栄養士さんが目を輝かせた。

「リンダが食べてくれればいいけど」

 リンダさんのベッドに食事を運ぶ。三人が見守る前で、リンダさんは拒食症とは思えないくらいの食欲を見せた。

 栄養士さんも喜んでいる。

「君島さん、ありがとうございます。今度、お店行きますね。噂で聞きました。メニューにないカレーがあるんでしょ。絶対に食べたいです」

 僕が「絶品ですよ」と添えると、リンダさんが「私も食べたい」と言った。栄養士さんが「カレーは刺激物で、油も多いのでもう少し元気になってからにしてくださいね」と言い、三佐子さんと顔を見合わせて微笑み合った。

「この調子なら、明日には退院ですね」

「やっぱり、私、三佐子がおらんと生きていけんみたい」

「リンダ!」

 二人のミサコは、抱き合って涙を流しながら、笑っている。二人の不思議な関係を感じた。

「ずっと店、休んどるけん、明日は定休日じゃけど、開けたいの」

「ごめんね」

「ううん。一旦帰るけど、もう、おらんくならんのよ」

「うん、おらんくならんよ。信じて」

「うん」

 リンダさんを病院に残して、軽バンで店に戻る。


 途中、あの工場の前を通った。

「朝の常連さん、この工場の工場長みたい」

「よう知っとるね。私にはそんな話したことないよ」

「こないだ、仕事がないなら、うちに来てもええよ言うて名刺をもろうた」

「気に入られたんじゃね」

「うん。うれしい。今朝も店の前で会うた。自転車直してもらいながら、ちょっと話したんよ。でね、こないだのグエンさんたちの彼女」

「ホーさんとレーさんだっけ」

「そうそう。彼女たちも、この工場で働いとるんじゃと思うんよ」

「そうなん。よう分かったね」

「たぶん間違いない。でね、恋愛禁止とか言うてないのに、公民館で変なことを吹き込む奴がおるけん、行かんように言うたって。工場長は親心で言うとるんじゃけど、思いがズレて一層誤解されとるみたい」

「言葉が通じんけんかね。話せば分かる思うけど」

「うん。みんなええ人じゃけん、どうにかしてあげたい」

「お兄さんも、伊藤家の人じゃね」

「え、武瑠もそんな感じじゃったってこと?」

「そうじゃね。いつも、他人を優先して、自分のことは後回し」

 …僕が自分の何を後回しにしてると言うのだろう。三佐子さんとのこと?

「あいつ、そういう奴じゃったんじゃ。知らんかった」

 ちょっと気になっていることを聞いてみた。

「あの工場長さんとか、常連さんたちは、三佐子さんと武瑠のこと知らんのん?」

「お客さんは、武瑠君自体を知らんと思う。塾長がやりよる頃から、店に来るのは閉店後じゃったけん」

「そうなん」

「行方不明の事件はちょっと噂になったし、工場長さんや郷土史会長さんは、それが塾長の教え子じゃったことくらいは知っとると思うよ」

「叔母さんは?」

「勘がええけんね。言うてはないけど、何か気付いとったかもしれん」

「結局、二人のことは誰が知っとったん?」

「塾長とリンダと、コスプレ仲間かな」

「コスプレ仲間?」

「ああ、あの写真のコスプレイベントのときの人たちよ。それと、小説のファンも数人。あれからも、塾長を中心に仲良くしてたよ。武瑠君がおらんくなったときに、お宅にお見舞いに行ったのは、そのメンバーなんよ」

「そうだったんじゃ」

「あ、一回、七海ちゃんに『好きな人がおるじゃろ』とカマかけられて、言いそうになった。あの子、誘導尋問がうまい。刑事向きじゃね」

「誘導尋問なんかせんよ」

「七海ちゃんは、武瑠君のこと知っとるよね。彼氏の弟じゃけんね」

「え?」

「高校の時、七海ちゃんと付き合いよったじゃろ?」

「それ、知っとったんじゃ。押しかけ彼女よ」

「そんなこと、絶対に言うたらダメよ! 七海ちゃん、傷つく」

「ごめん。僕、恋愛音痴らしいけん」

「私も上手じゃないけど」

 店に着いた。午後の後半、もうこの日は臨時休店のまま。

 三佐子さんが、三階にリンダさんのスペースを作るというので、家具を動かすのを手伝った。夕方になり、僕は、自転車で家に帰った。


 母さんはインスタントラーメンを作ってくれた。我が家のラーメンは、正方形の袋に入ったちぢれ麺ではなく、細長い袋に、ソーメンのように束ねたまっすぐな麺。インスタントという言葉が使われる前から存在する「即席ラーメン」というものらしい。沸騰したお湯に麺を落とし、シンプルな粉末スープを入れるだけ。

「このラーメンには、ほかに何も入れん方がええ」

「いろいろ入れたがる母さんにしては珍しい。あ、ただの手抜きじゃろ」

「バレたか」

 食べながら、病院食をリメイクした話をすると、母さんは食いついた。

「海苔の佃煮のお粥、やってみよ」

 面倒くさそうにラーメンを作っていたのに、米からお粥を炊き始めた。

 ラーメンのあとに、僕も食べたが、佃煮の甘みと酸味が良く、いくらでも食べられそうだ。

「これ、お米の量が少ないけん、ダイエットにもええね」

 この日は、病み上がりにも関わらず、結構な距離を自転車に乗って疲れた。大蘇鉄は万能薬だと聞いた。疲労回復にと思って齧ってみる。体がみるみる温かくなり、やがて眠くなった。


 僕の視点は、山道を歩く病院着の塾長を追っている。その姿は透けていて、背丈は三十センチほどしかない。ちょうど、水を入れたペットボトルのような雰囲気だ。

 …ああ、これは、こないだの夢の続きだ。

 現実世界では忘れてしまった夢。この半透明の塾長は、前の夢で「実体」から分離した「幽体」。つまり、ここは神社の扉の向こう側の世界ということだ。

 しばらく行くと、上空からカラスが飛び降りてきて幽体の塾長を襲った。塾長は身を交わして、点滴スタンドでカラスの首を打ち据えた。呪文を唱えながら動きを失ったカラスの背に飛び乗る。着ぐるみの中にでも入るように一体化、カラスは大きくなりながら変化(へんげ)し、人間大のカラス天狗になった。塾長の幽体が、カラスを「依代(よりしろ)」として、異世界で実体化したということらしい。


 それまでの夢はほとんど自分視点であったが、この前の夢からはテレビや映画を見ているような客観だ。そんなことを考えていると、塾長の声でナレーションが始まった。

 ―矢野城は毛利元就の攻撃に炎上したが、勇者タケルや忍者サンザら妖術で、戦況を逆転させ、最終的には毛利を撃破。矢野城当主を継いだアゲハ姫は、毛利を滅ぼさず傘下に入り、参謀として毛利を操った。―

 ザッザ!

 行く手を塞ぐように現れたのは、甲冑を着けた数人の侍。

 カラス天狗を見て驚き、抜きかけた刀を収めた。

「天狗様?」

拙者(せっしゃ)、旅行きの行者である」

「旅の行者といえば天下御免である。失礼致した。どうぞ、お通りください」

「お主らは何者なのじゃ」

「我らは、あの神殿の護衛の者である」

「さようであるか。さようであるならば、拙者をその神殿に案内してはもらえぬか。教皇様にお目通り願いたい」

「教皇様は異教の行者になど、お会いにはならぬ」

「トキの行者が迎えに来たと、お伝えくだされ」

「トキの行者…迎え?」

「伝えれば分かる。よろしゅう頼む」

「分かり申した。我らについて参れ」

 行者は侍の後ろを歩きながら。ナレーションを始めた。

 ―数年前、領内に不思議な女が現れた。未来を言い当てるというその女を、人々は極楽からの使いと畏れ崇めた。女の予言に従うことにより、毛利とアゲハ姫の連合軍は中国地方を平定、西国の覇者へと目標を進める。女は重く用いられ、連合軍の庇護のもとに矢野城跡に神殿を建立。女の霊力はさらに増し、何者の口出しも許さぬ存在となっていく。矢野城跡周辺は独立不可侵の宗教都市となり、女は「教皇」と呼ばれるようになった。―

 神殿に到着した。長い廊下を歩き、荘厳な拝殿に入る。神主のような恰好をした大勢の神官が、梯子や竿を使って、巨大な地図を祭壇の最上段に掲げようとしている。ドクロや気味の悪い動植物で、おどろおどろしく装飾された絵地図、儀式にでも使うものなのか。

「教皇様のお出ましーー!」

 大司教が高らかに告げると、神官たちは(ひざまず)き、顔を伏せた。塾長もそれに合わせた。

 金銀、螺鈿(らでん)をあしらった漆塗りの木靴が、中央の赤絨毯の通路を進み、玉座に着いた。

 大司教が参集者に向かって、「(かしら)を下げたまま、拝聴せよ」と言う。

「皆の者、(ちん)の言葉、心静かに聞き給え」

 一斉に「御意」の声が上がった。

 教皇が話し始めた。

(ちん)はこの世を去らねばならぬ! 間もなくお迎えがお見えになる!」

 どよめく拝殿に、カラス天狗が立ち上がった。

「リンダ!」

 教皇はそれを見て「塾長」と呟き、(うなず)いて手を合わせた。泣いている。

「すでにお迎えは来られていたようである!」

 神官たちは堪らず、顔を上げた。

「鎮まれ! 皆は一旦亡者(もうじゃ)となり、同時代の極楽天神に蘇った。朕は、皆とは異なり、遠い未来よりここに現れた者である。迎えが来られた以上、戻らねばならぬ。この世を去る」

 冷静だった大司教も狼狽をみせて、「教皇様が去られた後の、この世は如何に?」と尋ねた。

 これには、カラス天狗が答えた。

「未来を知る者、アゲハ城にタケルとサンザという者がある。しかし、彼らもまた戻るべき身なり」

 大司教が「しからば如何に!」と問う。

「心配召さるな、拙僧(せっそう)、トキが残る!」

 教皇は行者と目を合わせ無言で意思を交わした。そして頷き、司祭たちに向かって言う。

「皆の者、トキの行者様は我が師であり、朕を遥かに上回る霊力をお持ちである。行者様が降臨された限り、この世はこののち千年の安寧が約束される!」

 司祭たちは「おお!」と安堵の声を上げ、行者に喝采を送る。

「これより朕に代わり、行者様が大魔王として、この世を導く者となる。朕は安心して旅立つことができる!」

 教皇は木靴を蹴りだして裸足になる。瀟洒(しょうしゃ)な衣装を脱ぎ捨てると、真っ白い死装束が現れた。

「梯子を!」

 そう言って、祭壇の階段を駆け上がり、立てさせた梯子を最上段まで登る。

 右手で懐剣を抜いて、向こうを向くと、血しぶきが散った。左の手首を切ったようだ。

「教皇様!」

 神官たちは堪らず、顔を上げて立ち上がった。

 教皇は鬼気迫る表情でこちらを向く。

 傷口を押さえている右手を離し、地図の一点に血の掌紋を押した。

「朕はこれより、ここ、極楽天神より未来に戻る!」

 カラス天狗が呪文を唱えると、教皇は光に包まれ、宙に浮く。

「さらばじゃ!」

 教皇は天窓を抜けて、空に消えてしまった。

「教皇様!」

 拝殿のあちらこちらから、嘆きの叫び声が上がる。


 ―女は蝶の翅を背負った天女になり、里の空を舞う。金色(こんじき)の鱗粉がダイヤモンドダストのように、木々に降り注ぐ。さらには水に、土に滲み込んでいく。天空から天女の声が聞こえる。―

「これより、この地は不可思議の()(まと)竜都(りゅうと)となる」



 ―さらに高く舞い上がると、息ができなくなり、氷点下に晒され、おそらく死んだ。凍った体は(さなぎ)に退化、羽ばたきを失って降下し、極楽天神の滝壺に落ちた。溜まり水が底の栓を抜いた樽のように渦を生じる。皮膜に包まれた女の体は、そこに吸い込まれていった。―

 画面はブラックアウト。

 ―教皇は『極楽天女』と諡名(おくりな)され、伝説となった。―

 「完」の文字がフェイドインしてくる上に、突然、カラス天狗がカットイン。

 ―ちなみに、地図はすでに勇者ヤマショウの手にある。―


 …ビックリした!

 一昨日、極楽天神の滝壺から、血に染まった死装束の女を、抱え上げる夢を見た。その前に起こったことのようだ。あちらの教皇がカラス天狗の導きで、滝壺に消え、、リンダさんに戻ってこちらの滝壺に浮かび上がったということなのだろう。

 …異世界。いろんな不思議な夢を見せられたが、この夢は異質だ。


 僕は目を開けた。

「勇者ヤマショウとは僕のこと? 地図、もらってませんけど」

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