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世界の平和より、彼女の幸せが大切だった

ある時、「α」という宗教や人種を越えた組織が作られた。


「α」の目的は人種差別のない世界の創造、非暴力、富の分配、宗教対立の解消というものだった。

若者を中心に狂気なまでに熱狂し狂喜した。

だが、ナハッシュは世界平和を語る「α」を激しく憎んだ。


ナハッシュは世界の最下層で産まれ、いつも空腹といつ命を失ってもおかしくない恐怖のなか、世界を怨みながら生きてきた。

皆が世界を怨みながら生きている中、姉は違っていた。どんなにか嘲笑われても、どんなにか踏みなじられても、姉は夢に向かい……争いも差別もない世界を創るために勉強に励んできた。誇り高く夢を失わない姉が誇らしかった。


そんな、姉の努力が認められ世界最高峰の大学に入学を許された。その事に、家族はもちろん周りの人々も歓喜した。姉はその声に応えるように、与えられたチャンスを無駄にしないように、死に物狂いに勉強に励んだ。街に部屋を借りるお金はないため、朝早く起き大学へ何時間も歩いていき、夜遅くまで大学で勉強をして帰ってきた。

姉は大学に入学してからずっと1番の成績を守り続けた。

そんな姉の努力が実り世界最高決定機関への就職が決まった。姉もナハッシュも家族も泣きながら喜んだ。姉の夢の実現に一歩近づいたからだ。

しかし、喜びは束の間だった。姉の内定が取り消されたのである。理由は、姉が最下層の人間であり世界最高決定機関で働くに値しない人物であると判断されたからだ。


ナハッシュたち家族は絶望した。その機関は知識、実力があれば出身は問わないと有名なところだったにも関わらず。母はショックの余り寝込み、やがて亡くなった。父は酒に走り酔った勢いで川に飛び込み行方不明となった。ナハッシュは姉以外の家族を失った。母と父を失って、生きる気力を失いかけた。

だが、神は姉を見捨てなかった。アダムという男性が姉の支援を申し出た。しかし、姉は悩んでいたナハッシュを一人貧困街に残すことを。ナハッシュは悩んでいる姉の背中を押した。姉は決心し鞄ひとつで世界に羽ばたいて行った。

姉はアダムの援助を受けると瞬く間に、その才能とカリスマ性を発揮した。世界中を駆け巡り、街頭で演説を行った。富を持っている者・持っていない者、主流宗教を信仰するもの・少数宗教を信仰するもの問わず診察を受けられる病院を世界各地に設立することを訴えた。しかし、人々は「そんなこと無理だ」と言い、彼女に卵やごみを投げつけた。

世界中を駆け巡り紛争の仲裁に入った。貧困にあえぎ水を求め争い合っている人々に寄り添いながら、一緒に井戸を掘ったり、水を浄水する装置作ったり、灌漑施設作ったりした。時には水を求めに来た人々に銃を突きつけられながらも。

何度も人々に傷つけられながらも、命の危険にさらされながらも、歯を食いしばりながら姉が求める恒久の平和のために前に歩き続けた。

何度も挫折しながら歩みを止めない姉も姿に多くの人が感化され姉の言葉に耳を傾けた。


そして、多くの人が姉の考えに賛同し支援を申し出るようになった。


ある日、ナハッシュは姉から最下層に援助を行いたいと連絡を受けた。知力を武器に差別と貧困と戦い、いろいろな世界中を見て歩いた姉は、貧困から脱出するには学問が必要だと確信したからだ。姉は度々貧困街を訪れて、どうすれば最下層の人々が教育を受けられるか街の有力者や姉の支援者たちと話し合った。

そして、アダムからもらった援助金とイヴの考えに賛同した人々が寄付してくれたお金や問題を解決してくれた謝礼金をもとに、最下層に小さな学問所を開いた。その学問所にナハッシュも通うことになり、文字や計算、政治経済など多くのことを学ぶことができた。初めてのテストで、ナハッシュが満点を取ると、姉は飛び跳ねながら喜んだ。

夢に向かって走り続ける姉、文字が読めるようになり、微力ながら姉の手伝いを行えるようになったナハッシュ。この時が二人にとって一番幸せな時だった。


姉をリーダーとする組織がノーベル平和賞の授賞目前、アダムの前に一人の少女が現れた。そして、アダムが姉……イヴを裏切った。アダムはイヴからすべてを取り上げた。姉が作り上げた組織を、実績を、支援者を、夢を。そして、イヴのお腹に宿った命の父親になることを。

イヴから取り上げた組織を、アダムは姉と同じ大学を優秀な成績で卒業したリリスに与えた。

イヴはアダムに抗議した。


自分の実績や組織を奪われたからではない。


支援者との絆を奪われたからではない。


夢を奪われたからでもない。


リリスがかすり傷を負ったとき、命の危険がある人を差し置いてリリスを先に治療するように病院に迫ったからだ。

リリスに命の危険にさらされたとき、どんな小さな危険や障害に対し正当防衛を盾に多くの人を銃剣で殺めたからだ。

アダムはそれらの行動を、家の力を使い無理やり押し通したり、もみ消したりしていた。イヴは「身勝手な行動はいつか身を滅ぼす」と訴えた。しかし、アダムはイヴの話しに耳を傾けることはなかった。


イヴは一人貧困街に戻りアダムの子供を産んだ。イヴは子供を育てる為に、近所の人や今までの支援者達の助けを借りながら、死に物狂いで慣れない仕事に励んだ。アダムやリリスのことを嘆いて泣くことはあっても、今までを同じように現状をより良くしようと懸命に考え、周りの人に協力を仰ぎながら行動に移した。


そんなとき、偶然あるニュースを目にした。アダムとリリスが率いる「α」がノーベル平和賞を授賞したと。


この時、ナハッシュは怒りで身体中が煮えたぎった。


姉がもらうはずだった栄誉を、姉を裏切った男とイヴから全てを奪い取った女が受け取った。それをきっかけに、ナハッシュは「α」に……アダムとリリスに復讐を誓った。

ナハッシュは「α」に嫌悪を抱いている人たちを集め、反α運動を始めた。各地で、「α」がいかに身勝手で自分の利益しか考えていないかを演説した。反α運動と同時にαを内部から破壊させるべくα本部へ潜入した。そこで、ナハッシュはアダムと対面した。アダムはリリスがラエドばかり頼りにすることに不満を持っていた。ナハッシュはそこに漬け込んだ。


長い髪の鬘を着け、化粧を施し女性の服を着てカルヴァドスという名前で近づいた。最初こそ警戒していたが、無垢に平和を語る声に、アダムの心に寄り添うような言葉を掛けると、アダム程無くして、カルヴァドス……ナハッシュに堕ちた。


争いを無くすために争いを起こすか迷っていたアダムに、アダムが行うことは間違っていない、と優しく声をかけ争いを起こさせ、それを反α運動に使った。すると、面白い様に人々はだんだんと反Aに傾いてきた。反α運動の勢いが増したところで、αをアダムをリリスを絶望に突き落とすためにある事件を起こしたら。

アダム崇拝者に声をかけ、アダムのためだと言い、アダムの屋敷の前で反αに扮装しナハッシュを襲う様に指示した。案の定、アダムはナハッシュを守るために私兵を出した。最終的にはアダムに華を持たせるという打ち合わせを信じたアダム崇拝者は再びナハッシュを襲い、ナハッシュは護身用だと言い、持ち歩いていたナイフで男の喉を刺した。程無くして男は事切れた。

そのあとは、笑いが出るくらい順調に事が進んだ。錯乱している様に取り乱しアダムの気をナハッシュに集中させているあいだに、反αの仲間が「α」の私兵が反α勢力を殺したと触れ回り、αにいる内通者……5大貴族の一つシアンロータスの者にアダムの名前で世界中に宣戦布告を出させた。程無くして、第3次世界大戦が始まった。

アダムを信じきってきたリリスが嘆き哀しみアダムに詰め寄る様は滑稽だった。リリスにイヴと同じ苦しみを味会わせたことに暗い笑いが込み上げた。


リリスからの信用を失ったアダムは、今までに無いくらい各所を駆けずり回った。戦争を終わらせるために。しかし、争いを起こしていたこと、私兵が人を殺したことが相まって、誰も彼を信じなくなっていた。

悲劇のヒーロー宜しく絶対を味わっているアダムに更なる絶対を与えるため、綿菓子のように甘く優しく囁いた。

「二人だけの楽園を作りましょう」

と。

憔悴仕切っているアダムはナハッシュに導かれるまま、反α勢力が取り付けた核施設の破壊スイッチを押した。一瞬で地球は死の星へと変貌した。唖然としているアダムを見てナハッシュは嬉しさの余り笑いが止まらなくなった。これでアダムは、リリスは、αは世界を滅ぼした悪になった。

救いを求めるように伸ばされたアダムの手を振り払い、屋上へ走った。

そして、追いかけてきたアダムを嘲笑いながら屋上から飛び降りた。



目を覚ますと、リリスの指導を行ったラエドが心配そうに顔を覗き込んでいた。怒りの余りラエドに殴りかかろうとしたところ、いきなり顔をひっぱたかれた。ひっぱたかれた頬の方を見ると、そこには、今にも泣きそうな顔をしたイヴの姿があった。

イヴの話しによると、ナハッシュが身を投げ出した日、偶然アダムの屋敷を訪れていたムハンマドがナハッシュを病院に運んだこと、イヴは今、多くの人々救うため宇宙船の作製に関わっていること……

イヴの夢、争いのない世界を創るという夢は失われていなかった。嬉しさと哀しみと自分に対する怒りで涙が溢れた。


傷が癒えた後、ナハッシュはイヴと共に地球を脱出するための宇宙船に乗り込んだ。

そこには、アダムの姿もあった。アダムもナハッシュたちに気づき、ナハッシュたちの方に近付いてきた。イヴは少女の様に顔を赤らめた。しかし、アダムはイヴのことを覚えていなかった。

ナハッシュはここまできてイヴを苦しめるアダムに消えかかった憎悪が溢れだし、離陸した宇宙船の緊急ハッチを開きアダムを体当たりで宇宙船の外へと自分共々突き落とした。宇宙船からはイヴが必死に手を伸ばしナハッシュとアダムを助けようとしていた。


ナハッシュはアダムを宇宙船から突き落とすことができ、とても喜んだ。


イヴから全て奪い、イヴを忘れた男から今度こそすべてを奪うことができるからだ。


アダムは突き落とされたことにとても驚いた表情を浮かべた。そして、観念したように目を閉じた。地獄に道ずれにしてやると言う意思表示なのか、ナハッシュを力強く抱きしめてきた。ナハッシュも地獄に道ずれにしてやると思い、アダムを強く抱きしめ返した。


地上か近づくにつれそこにいる人々の姿がはっきり見えるようになった。地上には反α活動を共にした仲間がいた。反αはナハッシュが中心となって活動していた。アダムの屋敷から飛び降りてから今まで、反α勢力に何も指示をしていないことをナハッシュは思い出した。

そのため、反α勢力はαが創った宇宙船に載ることを躊躇し、そのほとんどの人が地球に残った。

自分も結局アダムと同じように自分のことしか考えられなかった、矮小な存在だと気づき、ナハッシュは自嘲した。

そ薄れゆう意識のなか改めて反Aのリーダーである自分だけが地球を脱出しなくて良かったと思った。


イヴとイヴの子供が乗った宇宙船はアダムとナハッシュを置いて地球を旅だった。


パソコンのデータの整理をしていたら、4年前に作成した物語が出てきました。内容が拙いですが、最後まで読んでいただきありがとうございます

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