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僕は彼女を憐れみ、そして彼女を愛していた

 ある時、アダムという男性が愛する彼女のために、「α」という宗教や人種を越えた組織を作った。


 彼女の目的は人種差別のない世界の創造、非暴力、富の分配、宗教対立の解消というものだった。

 アダムは世界5大貴族と言われるローゼンヴァイス家の長子として生を受けた。産まれたときから空腹に餓えることも命を失うほどの危険も、差別と貧困と無関係な順風満帆な生活を送っていた。大きな挫折や困難を経験せず何もかも手に入れてきたアダムだったが、ある時大きな挫折を経験した。

 

 同然首席合格だろうと思っていた世界最高峰の大学に次席合格したからだ。一流の教育を受けてきたアダムは常にどこでも最優秀な成績を誇っていた。しかも、アダムから首席の座を奪ったのは最貧民と言われる世界の最下層の女性であった。アダムはプライドが傷つき激怒した。世界五大貴族の自分が世界の最下層の女性に負けるはずはないと。アダムは彼女の弱点を探るべく彼女につきて調べ尽くした、幾度となく勉強の邪魔をした。

 しかし、彼女について調べるにつれ彼女の死に物狂いの努力に、どんな困難にも立ち向かう姿に畏怖したと同時に彼女に恋をした。彼女を手に入れようと同じ研究室に入り、彼女と同じ時間同じ場所で勉強をした。だが、アダムは彼女に声をかけることはできなかった。夢に向かい必死になっている彼女の邪魔をしたくなかったからだ。そんなとき、彼女に事件が起こった。世界最高決定機関に内定が決まっていた彼女の内定が取り消されたのである。理由は、彼女が最下層の人間であり、世界最高決定機関で働くに値しない人物であるためと。


 知識、実力があれば出身は問わないと有名なところ立ったにも関わらず。どうして彼女の内定が取り消されたのか探るべくあらゆるコネを使った。そこで分かったのは、同じ五大貴族のホアンランファ家の者が世界最高決定機関を入所させるためだった。5大貴族より優秀な者が世界最高決定機関にいることが都合悪かったためだ。

 世界最高決定機関は5大貴族とその他の優秀な者で運営されている。現在のトップはホアンランファ家である。息子を次期トップにしたいため、息子以上に優秀な彼女が邪魔だってからだ。


 その事にアダムは絶望した。同じ5大貴族の一員としてそれと彼女に謝った。5大貴族の勝手な理由で、彼女の夢を奪ってしまったことを。謝罪と同時に彼女へ支援を申し出た。自分の力でできる限り、彼女に資金・建物・人材を与えた。


 すると、彼女はそのカリスマ性を開花させた。多くの人が彼女の話しに耳を傾け、彼女の考えに賛同した。夢に向かい歩み続ける彼女はとても美しかった。アダムはそんな彼女を支え続けた。そして、いつしかアダムと彼女は恋に落ちた。


 だが、そんな幸せは長くは続かなかった。彼女の前に一人の男が現れた。彼女はアダムよりその男を頼るようになった。身が悶えるような嫉妬がアダムの体を駆け巡る。

 そんなとき、一人の少女に出会った。少女は彼女に負けず劣らず夢に向かって。アダムは儚くか弱い少女の夢を叶えるべく彼女と決別することを決めた。

 それから暫くして、リリスにαの政界進出を進言すると、「α」は見事に各国の政権を把握した。アダムはリリスとラエドと喜びを分かち合った。そして、カルヴァドスとも……


 カルヴァドスはリリスと違い世界平和という夢だけ持っている少女だ。綿菓子の様に甘く儚くとても妖艶な少女にアダムは堕ちていった。

 彼女の夢を叶えるためには、争いを無くさなければならない。そのためには世界を一つにしなければならない。それでも、人は争いを始めてしまう。それならば、自分達で争いを制御しようと考えた。自分で争いを起こすことに思い悩んだがあの子……カルヴァドスが応援してくれることもあり、アダムは争いを起こすことに決めた。カルヴァドスの夢、平和な世界を創る。そのためにも、最低限の悪は必要だ。そう思い、小さな争いを作っていった。


 この決断が悲劇を生んだ。


争いが無くならないことに疑問を持った人々が現れたのである。日に日に反αを唱える声は大きくなり、それに伴う争いも勃発した。そして、悲劇は起こった。反α勢力がアダムの屋敷を訪れるカルヴァドスを暴行したのである。カルヴァドスを暴行しただけでは飽きたらず、次は天罰だと言いリリス……「α」を支援する女性たちを暴行すると声高らかに狂い笑いながら宣言した。私兵を使い「α」の本部に行くことを阻止しようとしたが、再び襲われそうになったカルヴァドスが恐怖の余り護身用のナイフを使い、一人の反α勢力男性を殺してしまった。


 恐怖の余り錯乱しているカルヴァドスをなだめているうちに、アダムの預かり知らないところでアダムの名前で第3次世界大戦が始まった。

 死に物狂いでアダムは争いを止めようとした。しかし、争いを制御していたこともあり、誰もアダムの話しを聞いてくれる者は居なかった。


 最後に残ったのはカルヴァドスだけ。リリスたちも「α」もアダムの手からこぼれ落ちた。そして、カルヴァドスが囁いた二人だけの楽園を作りましょうと。カルヴァドスに導かれるままスイッチを押した。その一瞬で地球は死の星へと変貌した。


 カルヴァドスは地球が死んだことに喜ぶように狂気に満ちた声で狂喜し、朗らかに微笑みながら屋敷の最上階から飛び降りた。


 リリスを裏切り地球を殺し、カルヴァドスまで失い絶対のどん底にいると、ラエドが現れて、アダムの頬を叩いた。貴方の罪は重大だ。しかし、貴方は過ちに気づき世界を救おうとしていたことを私は知っています。だから、これからは贖罪に生きなさい、と言いアダムを宇宙船へ導いた。

 アダムはいくつかある宇宙船のうち一番小さい宇宙船に乗った。そこで、ラエドを見かけ声を掛けようと近づいた。人影で気づかなかったが、ラエドの隣には懐かしい顔があった。

 自分が初めて愛して、そして裏切ってしまった女性……イヴの姿があった。アダムを見て昔と変わらない笑顔を見せる彼女がとても愛おしく感じた。それと同時に押し潰されそうな罪悪感が襲ってきた。


 その罪悪感から逃れるように、とっさに初めて会ったかのようにイヴに接した。イヴはとても悲しそうな表情をした。

 イヴの悲しそうな表情を見て、また対応を間違えてしまったことに気づいた。このままでは自分は何も変わっていない。アダムはそう思い意を決しイヴと向き合うことに決めた。

イヴを裏切ってしまったこと、先ほど素っ気ない態度をしてしまったことを謝ろうと顔を上げると、後ろからハッチが開く音が聞こえた。

 宇宙船はすでに離陸しているため、危ないと思いハッチの方に目をやった瞬間、ドスとすごい勢いで何かがぶつかってきた。ぶつかってきたモノがイヴの隣にいた少年だと気づいた瞬間、少年がイヴの弟だと理解した。このままだと、少年が宇宙船の外に放り出されてしまうと思い、アダムはとっさに少年に手を伸ばした。少年もアダムに手を伸ばした。アダムはその手を取ろうとしたが、少年の手はアダムの手を取ることはなかった。少年は全体重を掛け両手でアダムを宇宙船の外に押し出した。


その結果、少年自身が宇宙船の外に放りだされることもいとわず。


アダムを突き落とした少年は怒りと狂喜に満ちた表情をしていた。


アダムは少年のその表情を見てすべてを悟った。


アダムはすべてを受け入れるように目を閉じ、謝罪の意を込めて少年を抱きしめた。


アダムと少年が乗るはずだった宇宙船は地球を旅立ち、アダムと少年は地に堕ちていった。


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