【コミックス8巻発売・完結記念SS】シャロンの歓迎会
シャロンがフルールフローラへ来たばかりの頃のお話です。
寂れた娼館フルールフローラにシャロンがやってきてから、うらぶれた外観の店は高級感が漂うものへと変わり下町の住人を驚かせた。
しかし一番変わったのは、そこで働く女たちである。
肌は輝く玉のように磨かれ、髪は豊かに艶めき手足はしなやかに筋肉がついて、爪はつやつやとした珊瑚色に輝いている。
背筋は伸び所作に品が出て、顔立ちは変わらないのに不思議と別人のように見えた。
彼女たちを見違えるほど美しく変えたのは、シャロンの提唱する『適度なマッサージと運動、栄養のある食事』とそれに耐える彼女たちの涙ぐましい努力である。
適度とは何ぞやと文句を言う気力もなく、マッサージの痛みに悶絶し筋肉は悲鳴をあげ、彼女たちは毎日ぐったりとしている。
けれど今まで諦めることに慣れ、人生に疲れるばかりだった彼女たちは努力によって変わる自分の姿に、確かに喜びを感じていた。
見るからに貴族であろうシャロンに当初反発していた者たちも少しずつ心を開き、今では旧知の仲のように打ち解けている。
◇
「今日は何がありますの?」
「特に何もないわ」
シャロンの問いに、ナディアはいつもの通り妖艶に微笑んでいる。
しかし何かを隠しているのは一目瞭然だ。いつもよりもシャロンに送る視線が多いし、肩も心なしか上がり声が僅かに低い。
(何かを隠しているのは、ナディアさんだけではありませんけれども……)
ここ数日、フルールフローラの女たちの様子はおかしかった。
特に今日は皆忙しなく動いていて、変どころの騒ぎではない。
今朝、毎朝の日課であるヨガーー異国の運動だーーを終えた後、いつもぐったりしているはずの女たちが今日はすぐに動き出した。
ある者はキッチンへこもり、ある者は買い物に出かけた。
皆誰かのサプライズパーティーを企画しているかのように浮き足立っている。
ここに来たばかりのシャロンにはわからないが、何かのイベントがあるのかもしれない。しかし皆目見当がつかなかった。
買い物から帰ってきたマリーやカミラに何があるのか尋ねてみようとしたが、話しかけた途端に目が泳ぎ始める。
そこに現れたナディアが気を逸らすようにシャロンに話しかけ、その間に二人はそそくさとキッチンへこもってしまった。
シェリー立ち入り禁止の札付きである。完全に除け者だ。
(まあ、私は余所者ですものね……)
下町で生まれ育った女たちの目から見ていかにも苦労を知らない淑女然としたシャロンは、彼女たちからの目で見て異質であることは間違いない。
受け入れてはもらっても、やはり自分は余所者なのだろう。
「用意ができたよー!!!」
「!」
シャロンが少ししんみりしていると、マリーの声が響き渡った。
「あら、思ったより早かったのね」
「頑張ったからね!」
微笑むナディアに、にかっと笑いながら親指を立てるマリーやティアラがシャロンに抱きついた。
そのまま半ば引きずられるようにして皆が集まっていた談話室に行くと、いつもの談話室が花や装飾で飾られている。テーブルの上にはできたばかりの料理が所狭しと並べられていた。
「シェリー! ようこそ、フルールフローラへ!」
「!!」
菫色の瞳をパチクリと見開くシャロンを見て、彼女たちが「サプライズ成功!」と讃えあっている。
その様子を見てカミラが嬉しそうにやってきた。
「シェリーの歓迎会をまだやってなかったからね。サプライズで驚かそうと思ったんたが、勘の良いシェリーが驚いてくれると思わなかったよ」
「これを、私のために……!?」
「そうだよ。これからもよろしく頼むよ」
サプライズパーティーの準備のようだ、とは思ったがまさか自分の歓迎会だとは思わなかった。
「さあ、早く食べようよー! お腹空いた!」
「……ええ! 食べましょう」
シャロンは嬉しさに顔を綻ばせ、食事の席へとついた。
コミカライズ8巻が明日発売されます!
この中編をここまで長く続けてこられたのは、読者の皆さまのおかげです。あらためて娼館メンバーが大好きだなと思いました。
ぜひ最後まで見届けていただけると嬉しいです!





