【娼館2巻&十分前1巻発売記念】義妹の婚約【コミカライズ用書き下ろし第二部スタート】
8/17にコミカライズ第二巻発売です!
また8/20からコミカライズ用に書き下ろした第二部の連載がコミックウォーカーさん&ニコニコ漫画さんにて始まります。
第二部の前日、シャロンの兄エリックの妻視点です◎
(兄夫婦のコミカライズも8/12に発売されるので、兄妹ともどもよろしくお願い致します…!)
※十分前〜のネタバレ盛大に入っているので、あちらをこれからお読み頂く予定の方はご注意ください…!
「明日婚約者に会いに行く?」
一緒にお茶を楽しんでいたときのこと。
告げられたシャロン様の言葉に驚いて、私は目を瞬かせた。
「ええ、そうですの。お互い忙しさも落ち着いてきましたので、久しぶりにルネスコ領を訪れようかと」
そう上品に微笑むシャロン様は、私の義妹だ。
シャロン様の実兄である私の夫は私の体を気遣ってか解決するまで何も教えてくれなかったけれど、シャロン様は婚約破棄を宣言された直後に拉致されるという、とんでもなく大変な目に遭っていたらしい。
しかしながらシャロン様は、国一番の豪胆淑女。
悪者を捕まえるために娼館に身を隠し、デュバル公爵家のトラヴィス様と一緒に国を揺るがす悪人を成敗したそうだ。その話を聞いた時はちょっと意味がわからなくて三度聞きしてしまったけれど、その格好良さ、誇らしいが過ぎる。
だけど端くれといえども私も一応淑女仲間だ。シャロン様は完璧な王妃となるためにあまり感情を表に出さないだけで、傷つきやすいところもある普通の女の子だと、知ってはいるのだけど。
じーっと見つめていると、いつも動じないシャロン様がほんのりと頬を赤らめる。
「そ、それでお義姉様にお聞きしようと思っていたのですが……殿方は、どんな服装がお好きなのでしょう?」
顔を赤らめたままもじもじと言うシャロン様に、私は思わず胸を抑えた。
これは、もう。
「アオハル……!」
「アオハル?」
きょとん、とするシャロン様に「なんでもないです」と澄ました顔をしたけれど、もう少女漫画みたいで普通にキュンキュンとくる。
(あのいつも冷静なシャロン様が。今日は随分と可愛らしいですね……?)
思わずニヤニヤとしてしまう。
元王太子殿下から婚約を破棄されて、割とすぐに超有力な公爵家の嫡男から熱烈にアプローチされて婚約、と聞いたときはハラハラしたし、大丈夫なのかと心配もしたけれど。杞憂だったようだ。
気合を入れて咳払いをし、私は頬を染めているシャロン様に向き直った。
「殿方の好きな服装、ですよね。……何でもいいのではないでしょうか」
「なんでもいい?」
微妙な表情を見せるシャロン様に頷いた。
このアドバイスはけして適当に言ったわけではない。
夫と義父伝いに聞いたところ、シャロン様へ求婚する許可をもらいに頻繁にフォンドヴォール公爵家へやってきたトラヴィス様が言ったことらしい。
『苛烈で突拍子もない性格の娘だが、最後まで変わらずに尊重してくれるだろうか』
そう言う義父に、トラヴィス様は真剣な顔で『心配ではありますが、その性格も尊敬しています』と答えたそうだ。
それから『そのままの彼女が可愛くて愛しい。生涯愛しぬくことを誓います』と。
そこまで愛されていて、しかしシャロン様が相手を好きじゃなかったら地獄だろうな……と心配していたけれど。
本当に良かったな、と改めて胸を撫でおろしながら、私はニヤニヤを押し殺してできる限りまじめな表情を作り、口を開いた。
「聞いた話だと、トラヴィス様はそのままのシャロン様が可愛くて愛しいんだとか」
「……!?」
真っ赤な顔のシャロン様が、わたわたと動揺している。
内心『きゃ~!』と思いながらも、引き続きまじめな顔で「だからもう好きな服装で行けばいいと思います」と言った。
「……と言うのはアドバイスにはならないので、敢えて言うならば、ですが。男性は良い香りがする女の人に弱いそうです」
これは前世でもよく聞いていたし、多分間違いではないと思う。
かろうじて義姉としての対面を保てた私は、まだあわあわと動揺しているシャロン様に向き直った。
「ということで! 一緒に香水を選びましょう」
「そ、そうですわね……」
そうして私とシャロン様はそれから香水やアクセサリーを選びながら、日が暮れるまでキャッキャと女子トークを楽しんだ。
◇
「リリア、出歩いて大丈夫なのか」
家に帰ると夫であるエリック様が、そわそわと駆け寄ってきた。
「大丈夫ですよ。歩いて体力をつけることが大事って、オフィーリア様も言ってましたし」
膨らんだお腹を撫でながら、私は「それよりも」とにっこり笑った。
「シャロン様に会ってきました! お元気そうだし幸せそうだし、安心しました。明日はトラヴィス様に会いに行くそうで……。花嫁姿を見るのが、今から楽しみですね」
私がそう言うと、エリック様も「そうだな」と少しだけ安心した顔をした。
「ああいう豪胆な妹だが。次期公爵夫人ともなれば突飛なこともしなくなるだろうし……何かしようとしてもきっと、トラヴィス殿が止めてくれるだろう」
そう言ったエリック様が微妙な顔をして、小さく「多分」と付け足した。
「多分なんてそんな……。シャロン様がまた何か事件に巻き込まれて、果敢に立ち向かっていく前触れみたいではないですか」
「そんな不吉な……」
心の底からぞっとしたような顔を見せるエリック様が、「嫌な予感がする……」とげっそりとした顔をする。
「ふふ。揶揄ってごめんなさい。まさかそんな、二度も三度も事件なんて起こりませんよ」
「そ、そうだな。そんなことは頻繁には起こるわけがないな」
「そうですよ~」
まさかそんな予感が当たることなんて知るはずもなく、私たちは未来の義妹夫婦の幸せをほのぼのと願っていた。
第二部は本編後の番外編から少し内容が変わってまた新しい事件や恋にいそしみます!
2巻発売&第二部のコミカライズ連載、よろしくお願いします!