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さようなら

 


「相わかった。色々と辻褄も合う。確かに年若い聖魔導士が亡くなったという話は私の耳にも届いていた。精霊の加護を持つ者が不可思議なことよと思ったが……神殿に確認せねばな」



 静まりかえった場で、口を開いたのは国王だった。ミレルダとバニッシュ男爵は怒りと恐怖のせいか震えている。震えながらマーリックを強く睨みつけている。



「父上! フォンドヴォール公爵家は心理学に精通しています! そこの聖魔導士も洗脳していたのかもしれない。フォンドヴォール家側の証人など信用できません! 私がシャロンを連れ去るなど……そんなことはけして……!」



 アンドリューが叫ぶと、ミレルダも一緒に声を上げた。


「わ、私がアンドリュー様を洗脳するなんてそんなこと、するわけがありません! ただ惹かれあっただけなのに……お兄様が生きていたことも、私は知りませんでした!」



 わっと顔を覆って泣くミレルダを、アンドリューが慰める。

 国王はその様子を眺めている。感情は読み取れない。




「殿下。一つお伺い致します。それでは何故、わたくしが娼館にいることをご存知だったのですか?」



 アンドリューが憎々し気にシャロンを見た。


「証人がいる。ダニー卿とカール卿だ。休日に訪れたサンタルで、娼館に出入りするお前を見たと」


「そのお二人はわたくしを拉致した方々です。また別日、お二人は娼館にいる何の罪もない女性を監禁されました。それをトラヴィス様がご自身の目で確認され、捕縛しています。今この場にすぐにでもお連れできますわ。それでいつ、その証言を聞かれたのでしょう」


 アンドリューが眉を上げる。シャロンに捕まっていたことを知らなかったのだろう、少し焦りながらも嘲るように答えた。


「お前の手の内に入った以上、証人として信用するわけにはいかぬわ! 根も葉もないことばかり、さすが悪性の女だな。私がお前を断罪した数日後には、お前が娼館にいたことを確認していた。いつ謂れのない罪で彼らを捕縛したのかは知らんが、お前の潔白自体は証明できん! 客を取っていないという証拠があるのか! トラヴィス卿もこの女に騙されているようだ」



 アンドリューの言葉に、トラヴィスが冷ややかな目でアンドリューを見つめた。無表情だが、怒り心頭に発している様子だ。


「それは私を始め、デュバル公爵家に対する侮辱と捉えるが?」


 アンドリューは口をつぐむ。断罪しようとしているフォンドヴォールはともかく、デュバル公爵家を敵に回すわけにはいかないのだろう。



「断罪の数日後には、ご存知でいらっしゃったと」


 シャロンの言葉に、アンドリューはそうだ! と噛み付く。

 シャロンはその様子に憐れみすら覚えた。怒りで頭が弱くなっているのだろうか。



「アンドリュー殿下。ご存知でしたら、何故フォンドヴォール公爵家にご連絡がなかったのでしょう」


 それまで黙っていたデリクが口を開いた。

 アンドリューの動きが止まる。


「少なくとも、我が娘が娼館にいるとは普通では考えられない。考えられるとしたら、何か事件に巻き込まれたと考えるのが当然でしょう。仮令たとえ自分の意思だと、そう感じたとしても娘は王家に連なる血筋。すぐに連れ戻すのが道理。しかし殿下はそれをご存知で、放置されたと。そしてたくさんの証人がいるこの場で娘を、嬉々として侮辱した」


「いや……それは……」


「我がフォンドヴォール公爵家は心理の権威。王家に仕える誇り高き一族が、このような穴だらけの犯罪のために人を洗脳すると仰るなど侮辱に等しい。今ここで宣言しよう、我がフォンドヴォール公爵家は決してあなたを支持しない。娘を陥れ、汚そうとし、我が一族の誇りまで侮辱したあなた様を決して許しはしない」



 アンドリューが言葉を失う。言い返せる言葉がないようだ。

 その様子を見て国王が、上を向き瞳を閉じた。

 何かに耐えているような姿だ。


 喉元にこみ上げてくるものを、シャロンは簡単に呑み下した。もう戻れはしないのだ。




「陛下。アンドリュー様の仰る通り、フォンドヴォール側の用意した証人では信用ができない、と考える者も少なくはないでしょう」



 淡々と話すデリクに、国王は顔を向ける。



「聖魔導士の聖水を使用して頂きたい。マーリック殿は、信用ができないと仰るのなら――、神殿にいる聖魔導士の聖水を使用し、シャロン、殿下やミレルダ嬢、バニッシュ男爵とマーリック殿に飲ませれば良いのです。聖水は一時的に感情の抑制が効かなくなる他、嘘も吐けなくなりますゆえ」


 国王はふう、と大きな息を吐いた。



「許可しよう。急ぎ神殿から聖魔導士を派遣せよ。此度の関係者は皆聖水を摂取することを命ずる。そこで犯罪が認められた場合の沙汰は追って伝えよう」






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