告発
「……確かに、近頃のアンドリューは王太子としての自覚は全く感じられなかったが……聖魔導師。シャロン嬢とデュバル公爵の言葉は本当か」
マーリックは何の感情も読み取れない顔でバニッシュ男爵の顔を見つめた。怒りも憂いも同情も、何も感じられない表情だ。
「……はい。私は闇の精霊の加護を利用し、デュバル家の秘宝を偽造しました」
ミレルダとバニッシュ男爵が黙れ、嘘つき、騙されないで、など口々に叫んだが、王に睨みつけられ口を閉ざした。怒りか恐怖か両方か、体が震えている。
マーリックがぽつりぽつりと話し出した。
教会とバニッシュ男爵家の往復しか許されていなかったマーリックは、ある日父であるバニッシュ男爵から何とかしてミレルダを王妃にできないか、尋ねられた。
王太子であるアンドリューと学園で接点を持てたミレルダが、アンドリューから多少の好意は感じられるものの、シャロンという婚約者がいるため二人きりにもなれないのだという。
身分の低いミレルダだが、アンドリューがどうしてもと望めば王妃になれるに違いない。
聖魔導師という身分と闇の精霊の加護で、せめて婚約破棄だけでも何とかしろという命令だった。
「それを叶えるなら、何とかして僕を解放してやると言った。伯母に会いたかった。母の墓参りに行きたかった。恋焦がれていたシャロン様と結婚もできるかもしれないと、利害は一致したと考えました」
模造品には直系王族の血が微量必要であることを伝えた。王族には、例え些細なものでも傷をつけては死罪になるため、血液を手に入れることは無理だろうと思っていたが、ミレルダはアンドリューに切り傷を負わせ、秘宝の力を使った。
そしてどんどんアンドリューの心を心酔させた。
公妾も良かれと受け入れるシャロンですら、多少の苦言を呈すほどに。
「僕は模造品を渡してすぐに、父から故郷のサンタルに行くよう促されました。僕は死んだことにさせたと、父は言っていました。大金を神殿に積んで黙らせたと。そしてアンドリュー殿下が、シャロン様を拉致させる。娼館を経営している僕の伯母の元へ売り飛ばすから、働かせよと。騒ぐようなら殺せと」
淡々と話すマーリックに、アンドリューが叫んだ。
「出鱈目だ!!俺を陥れるためにシャロンが喋らせているんだろう!お前側の証人など、信じられるか!」
「アンドリュー、黙れ。今私は証人の話を聞いている」
話せ、と促されたマーリックは、呟くように話し始めた。
「シャロン様は飼い犬同然で生きていた僕の光だったから、殺すなんてありえない。カミラがシャロン様を無理に働かせないことはわかっていた。王都に戻ってもどうせシャロン様は殺される。それなら早くこのまま僕と結婚してもらおうと思った。……好感度を上げるために贈り物をしたり、運命的な再会を模索している間に横槍入れられてしまったけど……」
その時だけマーリックの瞳が悔しげに光り、トラヴィスを睨みつけた。
「僕の話は以上です。許されないことをしたと、理解しています。どうぞ、死罪に」
長々と証言したマーリックの顔は疲れ切っていた。
いや、きっとずっと前から、マーリックは自分の人生に疲れ切っていたのだろう。