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王宮-2-

 




 国王が眉根を寄せ、どういうことだ?とシャロンに問いかけた。

 あまりに馬鹿馬鹿しい話だが、アンドリューがきっぱりと言い切る以上確信があるのだろう。王宮で流れている噂は国王も耳にしていた。もちろん、あまりに荒唐無稽な話に嫌悪感を持って無視をした。命令で噂は消せはしないが、信じる者がいない以上、すぐ消えるしかない話だ。



「はい、陛下。わたくしはたしかに昨日までサンタルにあります娼館におりました。―――拉致をされ、売り飛ばされました」



 先程までの比ではないざわめきが広がった。シャロンの言葉にミレルダが口の端をあげる。



「自分の意思ではないから水に流せと?お前が娼館にいたことは事実。純潔を失った今、国母になり得る体ではないだろう」


 アンドリューが笑いながら話す姿を、シャロンは内心驚きを込めて見つめた。



(こんな、女性の不幸を笑う方ではなかった筈なのに)



 昔は一緒に、遊んでいた仲だった。

 ミレルダが現れてから急に変わったのではない。おそらく、変わってしまったからこそミレルダに魅了されてしまったのだ。


 シャロンが戦友として情を移したアンドリューは消えてしまった。

 かつての戦友に微笑みながら、シャロンは心の中でさようならを告げた。




「殿下。臣下としてわたくしが申し上げる最後の諫言にございます。まず人を雇う際は、信用に足る人物を使うこと。また切り札は数枚用意なさいませ。そんなにあっさり一つきりの切り札を使っては、通らなかった時に困るではありませんか」


 言い切った後、シャロンが国王と王妃の目を見つめる。



「わたくしがこれから申し上げることは、本来陛下と王妃殿下の御二方のみにお伝えしたいことにございます。この場では些か、申し上げにくく……」



 ちらりとアンドリューとミレルダを見る。言外に王家の――アンドリューの恥となるようなことを喋りたいが良いか、との意味を含めると、国王と王妃は頷いた。



「良い。この場での発言を許す」



「ありがとうございます。まず、わたくしは娼館に売られましたが、幸運にもそこの女主人の方に匿われ無事にすみました。すぐに王都に戻らなかったのは、そこにいらっしゃるミレルダ様――並びにバニッシュ男爵家の方々が、アンドリュー様を洗脳している証拠を掴むためでした」



「なっ……何を!いくら公爵令嬢と言えど、言葉が過ぎますぞ!」



 ミレルダよりも先に叫んだのはバニッシュ男爵その人だった。顔を真っ赤にしシャロンを怒鳴りつけている。



「言葉が過ぎるかどうかは、わたくしが掴みました証拠をご覧になってから陛下がお決めくださるでしょう」



 冷ややかに視線を送ると、バニッシュ男爵は憎々しげにシャロンを見ながら口を噤んだ。



「まずはここに証人を呼ぶことをお許しくださいませ。彼はかつて大神殿におりました聖魔導師マーリック様――バニッシュ男爵家のご長男であり、ミレルダ様の異母兄様でいらっしゃいます」




 その時広間の扉が開き、精霊封じの手枷を嵌めたマーリックがグレイと共に入ってきた。

 そのままシャロンの近くまで歩き、国王に礼を取ったあとシャロンに弱く微笑みかける。



 マーリックの姿を見てバニッシュ男爵とミレルダの瞳が見開かれた。

 まさかマーリックの存在が明るみに出たとは思わなかったのだろう。見る見るうちに青ざめていく顔を見て、周りが少し距離を置く。

 その様子を見て、国王がさすがに困惑した様子で口を開いた。


「アンドリューを洗脳している、というのが事実なら処刑は免れない大罪である。……が、シャロン嬢。例え並外れた力を持つ聖魔導師であっても、人を洗脳する力は持ってはおらぬ。また洗脳というなら、事前に心理の権威フォンドヴォール公爵家が見抜けぬのはおかしいだろう」



「陛下。恐れながらそこに関しましては、私の方から説明を」



 セドリックが口を開く。



「まず、王国の双璧我がデュバル家とフォンドヴォール公爵家には、門外不出の秘宝があるのは此処にいる皆が承知していることでしょう」



 周りを見渡しながら、セドリックが鷹揚に笑う。



「我がデュバル公爵家に代々伝わる秘宝は、己に好意がある人物を心身ともに虜にする秘宝。それを其処なる聖魔導師は、闇の精霊の力を利用し、偽造したものをミレルダ嬢に託しました」



「まさか……」


 国王が目を見開く。



「私もシャロン嬢から教えられた時は非常に驚きました。彼女は娼館に身を窶していたわけではなく、自身の身を危険に晒しながら王家の危機を助けようと一人奮闘していたのです。何しろ拉致された身では、誰が敵かわからない状態ですからな。実家に害が及ぶことも恐れ、この社交嫌いのデュバル家を頼ってくださった」


 我が家は権力闘争には大した興味がありませんからな、とバニッシュ男爵を睨みつける目には殺気が込められている。その眼力にバニッシュ男爵はひい、と声にならない声を出した。





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