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王宮

 




 久しぶりに訪れた王宮は、シャロン達一行を見てざわめく人々で騒然としていた。


 婚約破棄をされた後、自宅で療養しているという触れ込みで公の場に一切姿を現さなかったシャロン・レイ・フォンドヴォールが姿を見せた。


 一歩一歩、ゆっくりと歩くシャロンの美しさは以前と全く変わりがない。凛と歩くその姿には十六歳とは思えない気品が宿っていて、その姿を見た人は昨今貴族の間で流れている馬鹿げた噂は、やはり噂だったのだと苦笑した。



 シャロンの横にはフォンドヴォール公爵家のデリクがいる。そして驚くべきことに――王家からの勅命でない限り、王宮には来ることのないデュバル公爵家当主のセドリックと、その嫡男トラヴィスも並んでいた。

 初めて姿を見た者も多い。それだけデュバル家は、表に顔を出すことは少なかった。



 謁見の間に着くと、見覚えのある顔が揃っていた。

 国の中枢を担う高位貴族たちが勢揃いしているが、一人家格の低いバニッシュ男爵家の当主もいた。燃える赤毛に、黒い瞳。ミレルダの父である。


 そして、以前よりやや窶れた様子のミレルダが居心地悪そうに立っていた。その横にはアンドリューがシャロンを強く睨みミレルダの肩を抱いている。


 トラヴィスの顔が険しくなり、視線で射殺しそうな形相でアンドリューを見つめた。セドリックは面白がるような顔で息子を見ている。デュバル家にとっては大した問題ではないのだろう。




 そして中央の王座に座る、国王と王妃がシャロンたちを見下ろしていた。



 そこにいるだけで重圧を感じるくらい、威厳のある国王の瞳がシャロンを見てふっと和らぐ。

 幼い頃から、息子の未来の妻になるシャロンをとても可愛がってくれた。



「国王陛下、並びに王妃殿下にご挨拶申し上げます。シャロン・レイ・フォンドヴォールが参りました」


「シャロン嬢、久しぶりだな。心痛により療養していたと聞いたが、元気そうで何よりだ」


「私も姿を見て安心しましたわ。相変わらず美しいわね、この王宮に花が咲いたよう。雑草には出せない華やかさね」


 ちらり、とミレルダを見る王妃の瞳は蔑みの色が浮かんでいる。びくっと体を震わせるミレルダを見て、アンドリューが気色ばんだ。



「母上!」



「アンドリュー、発言は許可しておらん」



 唇を噛み締めるアンドリューとミレルダを見て、最近の二人の立場を察する。想像よりも辛い状況にいるようだ。


 国王はセドリックとトラヴィスの姿を見て、ほうと眉を上げる。



「こちらに来ると聞いていたが、親子揃って顔を見せるとは思わなかった。珍しいことがあるものだ、なあ、デュバル公爵」



「陛下、お久しぶりでございます。本日は国にとっても我がデュバル家にとっても重要な話となりますれば、伺わないわけにはいきますまい」



「そなたの話も後ほど聞こう」


 国王は鷹揚に頷き、さて、と威厳のある声で告げた。

 空気が一瞬にして変わる。張り詰めた緊張感に、そこにいる全員の背筋が伸びた。



「今日シャロン嬢を呼んだのは他でもない、婚約の件である。我が国の王太子アンドリューがフォンドヴォール公爵家令嬢であるシャロン嬢との婚約破棄を通告した。破棄理由はシャロン嬢によるバニッシュ男爵家令嬢への脅迫および侮辱、学園内での虐め。シャロン嬢、これに異論はあるか」



「はい、陛下。ミレルダ様には、婚約者がいる男性と密室で二人になってはご実家へも影響が出かねない旨をご忠告申し上げましたが、脅迫、虐め、侮辱、わたくしは何一つ行ってはおりません」



 シャロンはまっすぐミレルダを、続けてアンドリューも見つめた。



「だ、そうだ。ミレルダ嬢、反論はあるか」



「……シャロン様は私に優しくする振りをして、家格の低い私をバカにしました!二人きりでいる時によくドレスが貧乏くさいとか、お茶会の時でも私だけ会話に入れてくれなかったり、すれ違い時に肩にぶつかられたこともありました。それに大勢の取り巻きが私を囲んで怒って…怖かった」


「シャロン嬢、反論はあるか」


「はい、陛下。まず、わたくしはミレルダ様と二人きりになったことはございません。他も全てわたくしは存じ上げません。やっていない証拠を用意はできませんが、またミレルダ様もわたくしがやった、という証拠はないのではないでしょうか?そうであれば、これはただの水掛け論に終わってしまいます。また、事実であったとしても陛下の王命であった婚約を、事前審議なしの破棄に値する出来事だとは思えません」


「なんてひどい……!」



 涙ながらに叫ぶミレルダをアンドリューがかばう。しかし歪んだ笑みを浮かべシャロンを見たかと思うと、国王に発言の許可を求めた。

 国王は一瞬眉根を寄せたが、発言を認めた。


「陛下、シャロン嬢がミレルダにした嫌がらせは立証できません。ですが……この女は高貴な振りをし、淑女の鑑などと言われているがとんでもない!心痛で臥せっているなど嘘をついていたが、つい昨日までサンタルの娼館にいたことを確認しました!」



 その場にいた全員が、シャロンを見つめた。

 凛と前を向く彼女は、眉一つ動かさない。最近貴族の間で流れていた、フォンドヴォール公爵令嬢が娼館にいるらしいという噂は本当だったのか。馬鹿げた話だと一笑していた彼らだったが、微動だにしないシャロンを見て狼狽える。



 そんな周りの視線に、シャロンはふっと笑った。

 勝利を確信した笑みであった。




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