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カミラとマーリック

 


 カミラは放心の男に駆け寄り背中に手を当て、トラヴィスに頭を下げた。



「確かにこの子は許されないことをしました。シェリーにも怖い思いをさせてしまった。あなた様とグレイ様にも…本当に申し訳ありません。でもこの子が暴走したのはあたしの教育不足です。代わりにあたしを罰してくださいませんか」



 トラヴィスが眉を顰めてカミラを見る。


「それは許されない。貴女はご存知ないかもしれないが、そこにいるシェリーはフォンドヴォール公爵家の令嬢であり、現王太子殿下の婚約者だったお方だ。そこの男により不当に婚約者の座を退けられ、あまつさえ拉致された。その他にも我がデュバル公爵家の禁足地へ無断侵入。一つの罪だけでも死罪に値する」



「こっ……公爵家」


 全てが寝耳に水だったのだろう。

 シャロンやトラヴィスが貴族だとは思っていても、まさか公爵家の者だと思ってはいなかったカミラの顔が真っ青になる。


「申し訳ありませんでした。あたしの責任です。どうかあたしを死罪に、この子の命だけはどうかどうか、お助けください」



 放心していた男が、うつろにカミラを見る。

 構わず必死に頭を下げるカミラに、トラヴィスは瞼を閉じて首を振った。絶望にカミラが泣く。



 その頃ようやく到着した応援が、項垂れている男を連れていった。

 騎士を率いてやってきたセドリックが上機嫌にトラヴィスの肩をたたいた。騎士たちが到着する前に全て片をつけたことを褒めているのだろう。 



 泣くカミラをマリーとナディアが肩を抱いて慰めていた。シャロンはその光景をじっと見つめていた。


 ◇◇◇



「あの子――マーリックは、あたしの甥っ子でね」


 侍女が淹れたミルクティーを飲みながら、ぽつりとカミラがつぶやく。

 マリーもナディアもシャロンも、黙って聴いていた。



 フルールフローラはあちこち焦げ付き、壁は凹み、水浸しの状態だった。しばらく営業はおろか住むのも差し支えがある状態だったため、住み込みの女性はトラヴィスの配慮でデュバル邸に泊まることとなった。

 事情を知らない人や近所には暴漢が入り込んだため、と説明している。


 マリーとナディアとカミラとシャロンは、同じ部屋で寝泊まりすることにした。



 最初は泣くばかりだったカミラだが、ようやく落ち着いてきたらしい。

 シャロンに謝罪した後、ぽつぽつと話し出してくれた。



 カミラは貧しいながらも、両親と妹と幸せに暮らしていた。

 美しく育った妹がある日、貴族の男に見初められた。赤い髪の毛が見事な男だった。恋仲になった二人だったが、妹が身籠った途端に男が掌を返して妹を捨てた。実は妻がいたらしい。

 妹は相手を恨まず、産んだ息子がマーリックだった。思うことはあれど、可愛い妹の子を家族で可愛がっていたが、子が8歳になった頃闇の精霊の加護を授かってしまった。


 噂を聞きつけて、妹を捨てた貴族がマーリックを無理やり引き取った。聖魔導士を輩出した家は、国から大きな報奨金と名誉が手に入るためだ。

 妹は悲しみにくれ、体を壊し失意のうちに命を落とした。


 マーリックの居場所もわからぬまま15年が過ぎ、そのうちにカミラの両親も亡くなった。カミラは娼館を経営し行き場のない女性の面倒を見るようになった。


 そしてある日、マーリックが帰ってきた。引き離されてすぐに放り込まれた教会で修行に明け暮れ、たまの里帰りも父の生家しか許されなかった。そこには父と継母、異母妹がいた。平民の母の血を引く、妾の子ということで居心地の良い家ではなかったらしい。

 家族の死も知らされていたが、墓参りすら許しが出なかったということだ。


「でも、好きな子は見つけたんだ」


 はにかむ笑顔だけは変わらなかった。


 マーリックは普通の人として質屋を営むことに決めたと言った。聖魔導士はどうなったのか聞いたが答えなかったので、カミラは加護が無くなったのかと思っていた。


 そしてマーリックが帰ってきて半年ほどたった時、シャロンがやってきた。





「マーリックはシェリーのことは何も言ってなかった。でも、初めてシェリーを見た時は驚いた。瞳が妹そっくりで」



 カミラは疲れた顔のまま、口元だけゆるく笑った。



「マーリックはあんたに、母親を重ねていたのかもしれないね。哀れな、馬鹿な子だよ、全く…」



 笑ったまま、また一筋涙が流れた。





次回はようやく、トラヴィスとシャロンのあまあま回です!ここまで長かった…。

いつも評価とブクマ、ありがとうございます!皆様のおかげでここまで書いてこれました。


今日はもう一話投稿します◎

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