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聖魔導士の弱点

 



 男が近づいてくるのを、シャロンは動かずじっと見据えていた。



 あとわずか数歩でその手がシャロンに届くというとき、先程まで倒れていた従者が男を後ろから捕らえた。

 腕を捻り上げ青い石の埋め込まれた手枷をはめようと動く。男が自由なもう片方の腕で炎を灯し、従者のその手を焼こうと腕を動かす。



 従者が避けた瞬間男がするりと従者から逃れた。従者が脇に差した剣を抜き、間髪入れずに突きを入れる。男は睨みつけて炎の矢を繰り出す。よける拍子に艶めく黒髪が揺れた。シャロンが焦がれてやまない青い瞳が鋭く男を睨みつける。



 その横ではもう一人の従者の姿をした男―こちらは魔導士のようだ―が跪き詠唱を唱えている。水の中位精霊の召喚だ。

 魔導士が詠唱を終えると水の精霊が従者に扮したトラヴィスと男の間に水の壁を作り、男の繰り出す炎の矢の威力を半分程度にまで落としているようだ。



 それでもある程度の威力はある。避けたり剣でたたき落としているが避けきれず肩や頬に矢が掠めている。


 先程トラヴィスが不意をついた時に仕留められなかったのが痛かった。そろそろ応援が来る頃だが、マリーたちに流れ矢が当たってしまうのも怖い。



(う〜〜ん……やるしか、 ない、……うーん)




 非常に嫌だが、おそらく一発で片がつく。



 シャロンは目を瞑り、よし、と喝を入れた。



「聖魔導士様!」



 シャロンの呼びかけに男が多少の動揺を見せた。思う通りの反応に、シャロンは恐怖を押し殺して、一番愛らしく見えるであろう笑顔を見せた。



 その笑顔のまま、男に駆け寄って抱きつく。



 その場にいた全員が固まった。

 しいん、と場が静まりかえる。





「ななっ……なななななっ……」





 男の顔が真っ赤に染まり、戦慄いたくちびるからは「な」の一言しか出てこない。

 そして男の体の周りの火花や、纏っていた闇の精霊もひゅっと音を立てて消えた。動揺しすぎているせいだろうか。



「トラヴィス様!」



 何故か同じくフリーズしていたトラヴィスにシャロンが声をかけると、トラヴィスがハッとした顔で駆け寄り男の手首に枷をつけた。これは精霊の加護を一時的に遮断する枷だ。これをつけている間は、精霊を呼び出すことはできない。

 魂が抜けている男を無事捕縛した。安堵した空気が流れる。




 しかしトラヴィスは怒気を孕んだ非常に険しい顔で、シャロンを見つめた。



「危ないことはしないでほしいと、言ったはずだ」



 地獄の底から響いてるのかと思うほど低い声だ。

 前から思っていたが、美しい男が怒ると非常に迫力がある。


(今までで一番怒ってるわ……)


「申し訳ありません…」


 シャロンが悲しそうに眉を下げて謝ると、トラヴィスは軽くため息をついてそれ以上は何も言わなかった。


 その代わり、男をきっと睨みつける。眼差しで人を殺せそうだ。やはりデュバル家の秘跡に出入りした上、秘石を模造したことは許せないのだろう。怒りのオーラが随所から出ている。


 触らぬ神に祟りなし。その言葉が頭をよぎる。

 シャロンはくるっとまわってマリーたちのところに駆け寄った。




「カミラさん!」


 縄を外して全身を確認した。怪我はないようだ。



「巻き込んでしまって申し訳ありません」



 心底申し訳なくなりシャロンが俯くと、カミラは逆に申し訳ないのはこっちさ、とシャロンの顔を覗き込んだ。


「あんたは何も悪くないんだ……。むしろ巻き込んだのはこっちのほうだよ。理由つけて外に出てろって手紙までくれたのに、逆に気遣わせて悪かったね。マリー、ナディア、怪我はないかい」



 マリーとナディアもにこやかに微笑んでいる。

 ほっとしてシャロンも笑った。



 いつのまにかカールとダニーも、従者に扮していた魔導士に縛られていた。なんだか喚いているが、小者なので気にしない。後でゆっくりお礼はさせてもらおう。



 グレイはよろめきながらトラヴィスの前に跪いている。謝罪しているようだが、トラヴィスは厳しい表情ではあるものの労を労っているようだ。




「――さて、」



 トラヴィスが冷たい眼差しで捕らえられている男を睨みつける。男は、まだ放心状態に見える。



「八つ裂きにしても気が収まらないが、尋問せねばな。まずは父上と王宮へ報告しよう」



「ま、待って…ください」


 焦ったようにカミラがトラヴィスに声をかけた。





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