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 セドリックは険しい顔で、通信の魔石を使用し執事を呼ぶ。

 すぐに現れた執事に、すぐに動ける精鋭の騎士と魔導士を質屋に派遣するよう告げた。



「相手は聖魔導士の可能性がある。けして油断せずに捕縛しろ」



 執事は驚いたようだが、聞き返すことはない。承知しました、と頭を下げ主人の命を聞くために足早に部屋を出た。



「……捕まる可能性は低いだろうな」



 低い声でそう呟くと、セドリックは立ち上がり、シャロンとトラヴィスに背を向け窓の外を眺めた。

 おそらく、すぐに騎士が出動するのを見守っているのだろう。




「シャロン嬢は、魅了の石の効果も知っているようだな」



 背を向けたまま問うセドリックに、シャロンははい、と返事をした。




「魅了の石は、己に好意を持つ人間へのみ強い愛情を持たせます。非常に強く恋焦がれますが、その人間の価値観を変えることはできません。ゆえに一番大切な信念を曲げさせたり、自害や殺人などを命じることはできません」



 シャロンが、魅了の石の効果によるものとわかっていてもアンドリューを許せない原因はそこにあった。


 もしも彼が王太子としての自覚を持ち、この国をより良いものにすると確固たる信念を持っていれば、例え愛情ゆえに婚約破棄をするにしてもこのようなやり方はしなかっただろう。


 自分を支持する貴族からの評価、後ろ盾となるフォンドヴォール公爵家への根回し、何より国母たる王妃への適性。

 彼にとって、国を治めることに必要なそれらは一番大切なものではなかったのだ。




「魅了の石の効果を消すことは、おそらく私たちならできるだろう。後はどのような沙汰になるのか陛下の御心次第ではあるが…アンドリュー殿下が即位されるのであれば、王妃はシャロン嬢以外にありえないと私は思う」



 セドリックの言葉に、トラヴィスのほうが表情を曇らせた。



 本当に、優しい人だなと思う。

 しかし同情されるようなことではない。

 生まれた時から決まっていたことが、やはり覆らないだけなのだ。貴族とはそういうものだ。



「陛下の御心をわたくしのような者が拝察することはできませんが、陛下の御意思に従うまでです」



「ほう。アンドリュー殿下と婚姻される意思に変わりはないと?」


「それがわたくしの使命ならば、全う致します」



 セドリックが振り向いた。

 険しい表情は無くなり、今は愉快そうな、茶目っ気たっぷりの表情でシャロンとトラヴィスの二人を眺めている。



「ここだけの話だが、私はシャロン嬢がデュバル家に嫁いでくれれば良いと思うのだがな。聡明で度胸もあり美しく、何より息子とお似合いではないか」



 一瞬理解ができなかった。


「ちっ…父上っ…」

「なっ…おっ…お戯れを」



 ははは、とセドリックが面白そうに笑い、息も合うではないか、と揶揄った。



「シャロン嬢は陛下とフォンドヴォール公爵のご意思で婚姻相手が決まるわけだし、私は神に祈ろう。…それよりシャロン嬢」



 セドリックがまた声音を変える。

 シャロンもすっと表情を戻した。



「私は聖魔導士はおそらくシャロン嬢を狙っているのだと思う。これは勘でしかないが、婚約破棄ですら君をここに来させるための出来事でしかなかったのではないか、と思う」



 それであれば、きっと君は常に監視されていたはずだな、とセドリックが言った。



「高位精霊の加護は盗聴も可能だ。しかしこの屋敷には、建造の際光の精霊の高等魔術を施しているため相反する闇の精霊の耳は使えない。―その時知っていれば秘跡に光の精霊の高等魔術をかけたんだがなあ…」



 ぶつぶつセドリックが呟き、おっと失礼、と眉を上げた。

 そして片目を瞑り、シャロンに告げる。



「未来の我が家の嫁よ。デュバル家流の反撃をしようではないか」




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