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婚約破棄

はじめて投稿します。

よろしくお願いします。




「シャロン・レイ・フォンドヴォール。貴様との婚約を今ここで以て破棄する。我が愛、ミレルダを虐め抜いたその所業、見過ごすわけにはいかぬ。何か申し開きはあるか」



 大勢の観客がいるにもかかわらず、しんと静まり返る学園のホールにて婚約者の王太子、アンドリュー・ラン・クリンテッドは金色の瞳を怒りに燃え上がらせシャロンに告げた。


 聴衆がザワザワと戸惑いの声を上げている。困惑している者、ただ驚いている者、面白そうな顔を浮かべている者。


 その中でシャロンだけが、凛とした美しさを崩さず真っ直ぐにアンドリューを見据えていた。


 天で一番美しい金色を集めて作ったかのような繊細な金の髪、真っ白で透き通る肌、菫色の柔らかな瞳。


 神さまが特別丁寧にお作りになったに違いない少女の名前は、今婚約破棄を宣言されたシャロン・レイ・フォンドヴォールだ。


 アンドリューの右腕には燃えるような赤毛を美しく巻いた男爵令嬢ミレルダが、大きな瞳にうっすらと涙を浮かべてシャロンを見つめている。



「私には全く身に覚えがございません。王家と公爵家の間で取り決められた婚姻を、王太子様とは言えお一人で決められることではないと存じますが、此度のことを陛下はご存知でいらっしゃるのでしょうか。また、こんなに大勢の証人がいる場でそのようなことを仰って…正当性がない判断は、ご自身の身を滅ぼすことにも繋がりますわ。殿下、どうか気をお鎮めくださいますよう」


「まだ認めぬか…」


 ぎりりと歯を食いしばり、アンドリューは傍らのミレルダを抱き寄せながら声を荒げる。



「陛下にはこの後私から告げる。よもや国母となる女性がこのような悪性だとお知りになったら反対されるはずがない。正当性だと?ミレルダから聞いている。お前は優しいフリをして近づいて、ミレルダを散々罵り小馬鹿にし、俺に近づくなと脅迫したそうではないか」


「…婚約者がいる男性と二人きりで密室にいらっしゃるなど、ご実家の評判にも関わるとご忠告申し上げましたが…まさかそれだけのことで、この婚約を破棄されるとお考えなのでしょうか?」



 婚約者がいる者が不貞を働くことは学園内の問題ではなく家と家の問題につながってくる。身分の低い男爵令嬢が格上の公爵令嬢の婚約者――それも相手は王太子殿下。誘惑した、などと言う噂が立っては困るのはミレルダの実家だ。



「それだけのことだと!?私の愛しいミレルダへ嫉妬に駆られて脅迫するなど愚の骨頂。感情のままに振舞うなど王族になる者の器ではないとどうしてわからないのだ?淑女の花などと呼ばれて調子に乗っているようだが、メッキが剥がれてしまったようだな」


 これには凛としてアンドリューを見据えていたシャロンも目を見開いた。


 己の感情のままに動いているのはアンドリューの方である。ここまで支離滅裂なことを臣下となる学生の前で滔々と語る姿に、これが本当に自分の婚約者なのだろうかと驚きを隠せない。


 ブーメランが刺さりに刺さって、剥げたメッキがさらにパリパリと音を立てて落ちていく様が見えるようだ。



「言葉も出ないようだな。婚約者がいる私の心を奪った自分が悪いのだと、心優しきミレルダの嘆願により処刑だけは免じよう。お前の沙汰は今後陛下と話し合う予定だが、修道院行きは確実だ。家に帰って荷造りでもしておくが良い」


「まあ、それは何てこと…」


 薔薇の蕾のように可憐な唇から、小さな声がポツリと漏れる。

聴衆は思っても見なかった展開に驚き固まりながら、シャロンの細い肩が揺れたのを悲痛な眼差しで見ていた。


 社交界の薔薇と称され、淑女の鑑と評され、全ての貴族の娘はシャロン・レイ・フォンドヴォールを見習いなさいと叱咤されてきた。彼女が身分の低い女性に優しく、身分の高い女性に誇らしくあれと、持っている教養を惜しみなく周りに教えていたことは学園全員が知っている。


 ミレルダの目に余る接近にも、二人きりで密室にいてはなりません、という忠告する以外には微笑みを湛えて見逃している女性だった。


 火の粉が降りかかるのを恐れて誰も近づかなかったミレルダに唯一優しく接していたのもシャロンだった。嫌がらせを行うなど、誰も信じるはずがなかったのに―。


 それが、まさかこのようなことに。


 くるりと背を向けたシャロンが最初はおずおずと、しかし途中から半ば駆け出して学園から出ていくのを、全員が動けないまま痛ましげに見つめていた。




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