表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生演技派王子  作者: 雪吹 郁
7/16

7. 城下街と遭遇

私は転移で城下街の人がいない路地に来ていた。

路地から大通りに出る前に魔術で髪と目、服装を変える。髪は下ろし、肩下くらいの長さにして目と一緒に茶色に。服装は動きやすいワンピースに変える。仕上げに幻惑魔術で第2王子だとわからないようにすれば街娘“ヴィオ”の完成だ。

“ヴィオ”の設定は、はつらつとした女の子らしい子。それを意識して切り替える。


大通りに出ると、自然と建物の調和が美しい古典的な街並みが見えた。建物の景観は前世のイタリアの旧市街のよう。近くには水路があってさらさらと水の流れる音が聞こえる。

しかしその美しい様とは裏腹に雰囲気は暗い。遠くから見れば雄大だった樹々も近づいてみれば元気がないようだ。私が5、6歳だった頃はまだ、自然豊かで名実ともに精霊と人間が共存している街だった。それも精霊を軽視する傾向にある第2王子派の台頭によって壊れてしまった。徐々に自然が減っていき、それに従って自然のそばで生きる精霊も減り、活気が消えていった。私は精霊を見ることができ、その存在に好感を抱いているため彼らの減少には心が痛む。自然や精霊のことだけでなく、活気がないことも寂しいものだ。

それでもここは比較的王城に近く、すぐそこは貴族の住む場所なので活気はある方だ。


ここ、王都エリュフランは王城からある程度離れた場所まで来ると緩やかに土地が傾斜している。それに沿ったように坂を降っていけばいくほど人々の生活は貧しくなっていく。まるで住む土地自体が地位を示しているかのように。


坂の上にある、つまり社会的上位者な貴族の居住区から遠ざかるように歩いていく。

少し行くと馴染みの果物屋が見えてきた。


「リンダさん!フェル1つください!」


リンダさん――店頭に立っていた恰幅の良い女性――に声をかける。


「ああ、ヴィオじゃないかい。はい、値段は28ユリンだよ」


リンダさんはそう言って薄桃色の果物を渡してきた。これがフェルである。味は梨のようでとても美味しいのだが、一つ気になることがあった。


「値段上がりました?」


「そうなんだよ。税が上がっちまって私らじゃどうしようもなくてね。泣く泣く値上げしたんだよ。うちは安くて美味しいが売りなのにさ」


リンダさんは不満げにつぶやく。


ユリンというのはこの国の通貨だ。

クレアールの通貨は主だったものが5種類ある。それが最初に建国された5つの国々が使っていた通貨だ。商業者ギルドに行けば簡単に換金ができるため、大概の国ではこれらの通貨が使われている。


この世界の物価は前世と比べるとかなり高いと思われる。それでもこのリンダさんの店は値段設定がかなり安かった。今回、値上げをするまでではあるが。

少し値段は上がってしまったがこの店のフェルはとても美味しく、好物なので代金を渡して買う。


「高くなってしまったのは残念ですけど…… この店の果物の美味しさだったらそれでも安いですよ!」


「そうかい?あんたがそう言ってくれるんだったらわたしも嬉しいよ」


リンダさんは豪快に笑う。

この人はいつもそうなのだ。どんな状況でも前向きに笑っている。そんな人が一度だけ見せた暗い表情、それは今でも忘れられない。私はもう、リンダさんやこの国の人々が苦しむ姿を見たくない。必ずやより良い国にするための足掛かりをつくるのだ。より一層決意を固めて笑顔を浮かべる。


「また買いに来ますね!」


リンダさんと別れてまた坂を降っていく。その間、先ほど買ったフェルにかぶりついた。めちゃくちゃ美味しい。頬が落ちそうだ。


フェルを食べながら売り物の値段を気にして見てみるとどの店も値段が上がっているようだった。そうやって周りを見ながら“ヴィオ”を演じていたから、丁度フェルを食べ終わった時。


「きゃっ!」


店から出てきた人にぶつかり、尻餅をついてしまった。


「ごめんね。大丈夫?」


ぶつかった相手はそう言って手を差し出してくれた。ありがたく掴まらせてもらって立ち上がる。

そして、目を疑った。


なぜならぶつかった相手とその連れ。彼らが変装した第1王子とその側近のレトニスだったから。見た目は地味な服を着た平民。その美麗な顔立ちも魔術によって色を変えられた髪で隠されている。普通、気づく者ははいないだろう。でも、私には解る。魔力の質が第1王子とレトニスに一致するのだ。


彼らがたまにお忍びで城下街に来ていることは知っていたがまさか遭遇してしまうとは……


「ごめんなさい、ぶつかってしまって」


内心動揺しながら謝り、軽く頭を下げてその場を離れる。少し歩いて彼らからだいぶ離れたのを確認し、ため息をつく。

この時、私は彼らを無事やり過ごせたことに安堵していた。






だから。


「ねぇー。さっきの子、何かおかしくなかった?」


レトニスが私に疑問を持っていたことに気づかなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ