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転生演技派王子  作者: 雪吹 郁
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4. フィオ二ティア王国の内情

図書館は今日は天候が悪いこともあってか利用者は数人しかおらず、閑散としていた。


私はその中に目立つ2人組を見咎めるとそちらに向けて歩く。2人とも綺麗という言葉の似合う少年で気品がある。

1人は金髪にアメジストのような紫の瞳を持ち、優しそうな風貌をした少年だ。

もう1人は青藍色の髪の少年で、瞳はサファイアのような青色。その端正な顔立ちと口元の黒子が色気を感じさせる。


近づくと2人は本から顔を上げた。


「こんにちは、兄上。熱心ですねえ。こんな日まで勉強ですか?」


私が話しかけた金髪の少年――兄であるグラジオール・フィオ二ティア第1王子――は顔に笑みを貼り付け、返事を返してきた。


「こんにちは、ラナンキュラス。君も勉強かい?学ぶことは将来役立つからね。こんな日でも欠かせないよ」


「その努力が無駄にならないことを祈りますよ」


自分が国王になるからその努力は無駄だと言外に告げれば青藍色の髪の少年――第1王子の側近で次期レトニス公爵であるリーベローズ・レトニス――が僅かに顔を歪めた。


「ラナンキュラス、私はそろそろ失礼するよ。いろいろと忙しいからね」


第1王子はそういうとレトニスを連れて図書館を出て行った。


私は2人が図書館を出て行ったのを確認し、歴史関係の本が並ぶ棚に行く。そこで創世や建国に関する本を手に取ると定位置である魔術関係の本が並ぶ棚近くの席に座った。


私はもう何回も読んだその本を開くと文章に目を落とす。


その本に書かれている内容は大まかにこうだ。







ーーーーー


世界は創造神クレアシオンによってつくられた。


創造神クレアシオンはそこに精霊を生み出した。

そしてそれを統べる始祖の6属性、光・闇・火・水・風・土の精霊たちに名前を与え、精霊王とした。

それぞれ、

希望を司る光の精霊王の名をエスペラント、

安息を司る闇の精霊王の名をフェーリエン、

情熱を司る火の精霊王の名をアルドル、

親愛を司る水の精霊王の名をシンパティア、

自由を司る風の精霊王の名をリベルタ、

結実を司る土の精霊王の名をレアリッザという。


また、創造神クレアシオンは人間を生み出した。


精霊たちは人間に魔力を与え、人間は魔術を覚えた。そして、魔術を持って精霊と共存することで発展していった。


やがてフィオ二ティア王国、ウェルク帝国、フライン公国、ラクティルス王国、テーラン王国という5つの国が建国された。


ーーーーー








それ故に私たちはこの世界を創造神から名前をもらってクレアールと呼ぶ。


神殿で祀っているのも創造神クレアシオンと6属性の精霊王たちだ。

1週間を光、闇、火、水、風、土の精霊王と創造神の日の7日として敬っている。

フィオ二ティア王国では毎週創造神の日、それから地方ではそれぞれが特に信仰する精霊王の曜日に神殿に行く。

1年でもそれぞれを祀る日がある。その中でも創造神クレアシオンを祀る日は建国記念日であって壮大な祭りにもなっている。


精霊信仰が特に強く魔術の発展したフィオ二ティア王国だが、最近では精霊の姿を見ることのできる者も減ってきている。精霊の力を借りて魔術を行使する精霊魔術師は今ではとても貴重な存在だ。

精霊を身近に感じられなくなってきても尚、精霊は信仰の対象であり、この国では創造神や精霊たちに謂れのある建物などが沢山ある。


それもそのはずで、このフィオ二ティア王国は創造神が精霊王と人間を生み出した場所だと言われている。精霊王たちや精霊の多くがこの国にいて、その恩恵を受けてこの国は魔術大国として発展しているのだ。


よってフィオ二ティア王国は歴史ある国でもある。その歴史は美しい街並みによって感じることができる。

このようにフィオ二ティア王国は一見、魔術が発展した美しく歴史ある大国だ。

しかしその内情は違う。スラムがあれば悪徳領主や貴族たちに怯える国民もいる。魔術大国故に魔物も沢山いる。


この世界でいう魔物は今は禁忌となっている呪術によって生み出されたそうだ。その呪術を作ったのはこの国の魔術師だった。それはこの国が魔術大国故の弊害だった。

魔物を討伐する冒険者や騎士たちはいるが、十分ではなく、被害は甚大だ。20年あたり前から10年ほどは少なくなっていたのだが、また被害は大きくなっている。

50年前ぐらいからもうずっとフィオ二ティア王国は混沌に包まれていた。


ここ最近のその原因にはエスファル公爵が関わっている。エスファル公爵は今、半ばこの国を牛耳っている。思い通りにならない者は容赦なく切り捨てるため、エスファル公爵に阿る者たちばかりが今この国を動かしている。


それに対抗しようとしているのが、グラジオール・フィオ二ティア率いる第1王子派だ。第1王子はかつてのテーラン王国の領土にある小国、イジャル王国の王女であった今は亡き第1王妃の子供だが、後ろ盾にレトニス公爵家がついている。

第2王子派程ではないにしてもレトニス公爵家は建国当時から続いてきた名家で、従うものは多い。それに兄上自身も優秀で、多くの人を惹きつけてやまない魅力がある。


しかし、勢力は第2王子派の方が優勢で国の改革などとてもできそうにない状態だ。それでも彼らは戦っている。

私は第1王子たちのように国を第一に考えて行動することができない自分がひどく歯痒い。




まだ夕方であるにもかかわらず未だ明けぬ夜のように、空模様は暗鬱としていた。










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