9、母親
ステータスの確認も終わったところで俺は、今後どうするか考えた。
第一に状況確認だ。窓の外からは人の死体はあっても生存者は見当たらない。
立て籠ってる?避難した?それともほとんど死んだのか?
……………
テレビはつかない……電気は止まっているが水道はまだ出る。
明良に連絡したいが、異世界に行っていた間と気を失ってた間にスマホの充電は0だ。
次に重要なのは物資の確保だ。
こんな状況だ、泥棒と思われようが魔物に荒らされる前に使えるバイクや自転車、食料品や日用品を店から回収しよう。【収納】には状態保存効果があるから腐らないし
"持ち主も多分死んでるだろう……"
……俺今最低なこと考えてしまったな…
神様との約束の「生き延びろ」のために貪欲になるのはいいがクズにはなりたくない……気をつけよう
それと家にある使えそうな物は収納しよう。
日用品に食料品、包丁などの武器……
あと、岩はなくてもタンス等なら質量武器の代わりなるだろうし収納しておこう。
────
「殺風景になったな……」
さきほどまであった生活感のある光景から異様に部屋が広く感じるほどの寂しい空間が目に入った。
準備もできたことだし、母親でも探しにいこうかな……
俺は母親とこのマンションで二人で暮らしている。親戚はいない。
正直言って母親が嫌いだ。
昔っから結婚しては離婚してを繰り返し、小学校に上がる頃まで虐待を受けていた。
そんなこともあって、同じ家に暮らしているのに、ここ数年ろくに会話もしていない。
だが、そんな親でもできるなら助けてやりたいと思っている。
一応、学費は払ってくれてたし、食事もインスタントや缶詰めばかりだったが買い置きしてくれてた、資格取得ではたまにに受験料を出してくれたこともあった。
どんな親であろうと、養ってくれてたことには感謝している。
母親が働いているスーパーマーケットには一度行ったことがあるから瞬間移動が使えるはずだ
無事にバリケード作って立て籠っていてくれていれば………
そんな期待を胸に俺は瞬間移動した。
──────────────────
スーパーマーケット───
俺はスーパーの入り口に瞬間移動した。
そして俺の目の前に飛びこんだ惨状
「……うっ…まじか…酷いな……うぇ……最悪だ……」
気分は最悪だ
窓は割れ商品棚は荒らされまくり、足元に転がる人の死体……こびりついた血の跡…
そして俺は死体と目が合った。
背中を走る悪寒と恐怖、吐きそうになる気持ちの悪さ
耐えられない……
あまりの光景に俺の足はすくんで動かなかった。
すると───
【精神耐性スキルを獲得】
【精神耐性のレベルが上がりました】
頭に流れるアナウンスと共に俺の中にあった恐怖やストレスが柔らいでいった。
そして俺は冷静さを取り戻し確認する。
────────
精神耐性SLv2
→精神を安定、精神的疲労の緩和
────────
「あまりのショックで耐性を得た上SLvまで上がったのか…ありがたい」
足の震えは止み、死体を見ても比較的楽になった。
これは確実に母親は死んでいるだろう。
そう思いながら倒れている死体の顔を一人一人確認しつつ、収納範囲内に入った商品を片っ端から収納して店内を進んだ。
シュンッシュンッシュンッ
本当に収納は便利だ。手を触れることなく半径2mにある物を回収できる。
この調子で腐ってなく、いらない物以外は収納し──ん!?
ぐちゃぐちゃグチュブチッブチュ…
奥の生鮮食品売り場から不快な音が聞こえてきた。
俺はすぐさま商品棚の物影に【潜伏】し音のする方に目を凝らした。
────グールだ!
そこには人の死体の臓物をむさぼり喰う4体の血色の悪い人型の魔物の姿があった。
それはまさにギルドの魔物情報にあったグールの姿絵に酷似していた。
あの4体以外はスーパー内に気配はない…
倒そう!
今の俺なら4体同時でも余裕のはずだ
魔物情報でも雑魚に分類されてたし大丈夫だろう
俺は一通りの作戦を考えて物陰から出た。
俺はグール達に向かって落ちていた缶詰めを投げつけた─
グール達はこちらに気付き凄い形相で向かってくる──
俺は少し後ろに下がり収納から包丁を取り出しグールめがけて投げつける─
一体のグールの能天に突き刺さり絶命
が、その間に残りの三体がかなり接近していた─
そして一体のグールが俺との距離2mになった。その瞬間、グールの頭上に収納からタンスを出現させ押し潰す──と同時にタンスで死角となった瞬間、最後尾にいる2体のグールの背後へと瞬間移動し、流れるように青剣で首を切り裂いた。
そしてタンスの下敷きになり身動きの取れないグールにトドメを刺す……
成功だ
そして数十秒後グールの死体は魔石を残しダンジョンに吸収された。
「オッケ……グールが相手でもこの作戦は通用する」
俺はグールの魔石を回収しながら、ふと、先程までグールに喰い散らかされていた死体を見た─
【精神耐性のレベルが上がりました】
頭に響くアナウンス─
精神耐性スキルのレベルが上がる程の衝撃……
俺の目に映ったのは今まですれ違いながらも共に同じ家で暮らしてきた唯一の肉親である母親の無残な姿だった。
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その後、俺はスーパーの必要物資を回収。スーパーの駐車場周りに魔物がいないことを確認してそこで母親の遺体に【危険物生成】で灯油をかけ【火魔法】で引火させ火葬した。
魔物に喰われ腐るよりはましだろう。
安らかに眠れ……
───────────
俺は母親の遺体に火をつけ手を合わせた後、魔物が寄ってくる前に部屋へと瞬間移動した。
実際に目の当たりにして実感した現状……
そして感じるなんとも言えないこの感情。
「俺にもう、家族はいないんだな……」
物の少なくなった部屋の風景がより一層虚しさを物語る─
唯一の家族を失ったのに涙一つ出ないのは俺が母親を嫌っていたせいか……
それとも精神耐性スキルのせいか……
………………
そんな気持ちでいると神様との約束が頭をよぎった
《気負うな》
その瞬間俺は冷静になった
まさにその神様の言葉には力があった
その言葉が頭をよぎらなければ俺はこんな状況の原因を作ってしまったことに対する自責の念に捕らわれていただろう
「ありがとう神様……俺……しっかり、今を受け入れて前を向いて進んでいきます!」
俺はそう決意した──────