33、ハイオークナイト
魔物発生から26日────
俺達《色》のパーティは先生の【意思伝達】スキルによって会議室に呼び出された。
今までパーティメンバー全員を呼び出すことは一度もなかった。
もしかしたら、何かしらのことがバレたのかもしれない……
そんな不安を胸に会議室にやってきた。
夏子「他のパーティも呼びばれてるようね」
会議室には多くのパーティが集まって、ガヤガヤと騒がしい。
100人近くいるな……
テイム魔物で有名な【獣の牙】や、食料調達で活躍する【美食隊】、大石が所属する【野球部隊】等々の見知ったカキ工生のパーティもいれば、サラリーマンだけで結成されたという【社畜の魂】、農業組合の人を中心に結成された【野菜の団】等、最近噂になってるパーティが揃いぶみしていた。
明良「こんなに人を集めてどっか大規模遠征にでもいくのか?」
黄瀬「いつも集会がある時はパーティリーダーだけなのに変ですよね」
聞こえてくる他のパーティの会話を聞いても俺達同様、何も知らされず集められたみたいだ。
「夏子は何か聞かされてないのか?生徒会長なんだろ?」
夏子「残念ながら聞いてないわ……というより、最近は会議に参加してないしね」
「そうなのか?」
前まで、学校をまとめたり、今後の方式を決める会議に出席したり、情報をまとめた資料作りで忙しそうだったのにな。
夏子「まぁ、仕方ないことよ。今のカキ工には自治体の会長やら社長やらの多くの人をまとめる人がいるし……学生である私は場違いだと感じていたからね」
完全アウェーってわけか……
「でも、面倒くさい仕事から解放されたなら良かったじゃないか」
夏子「そうよね……うん。今ではそう思ってる」
そうこう話していると、会議室の壇上で体つきの大きな男性がマイクを持った。
『あー、あー、皆さん、おはようございます。この度は急な召集にも関わらず、集まってくれてありがとう。私は元自衛官の川上だ。よろしく』
元自衛官か……
この人は今の自衛隊の近況を知っているのだろうか……
『今回皆に集まってもらったのは皆に頼みたいことがあるからだ。ショッピングセンターにいた八岐大蛇が突如消え、その場所から広大な地下空間へとつながる階段が発見されたという噂が最近流れたのは皆知っているな?』
そりゃもちろん俺達が流したからな……
『私はその噂を確かめるために【野菜の団】とともに調査に向かった……すると確かに八岐大蛇はおらず、地下に繋がる階段があった。そして階段をおりるとそこには昼間のように明るい広大な大自然が広がっているのを確認した』
その瞬間、会議室に驚きの声がざわざわと広がった。
確かに、地下にそんな空間があるなんて驚きだよな
「それなら、俺達のパーティも確かめに行ったぞ!」
「あれはまじで凄かったよな」
一部でそんな会話が聞こえてくる。
『その地下を軽く調査したのだが、驚くことに魔物がいっさい発見されなかった。しかも、気温は温暖で、近くには綺麗な水源もあり、土壌も作物を育てるのにとても適しているとわかったのだ』
"おおー"という声があちこちから出る。
魔物がいないなんて初耳だな。
『そこで、今回、皆にはその地下空間で農地開拓及び、ショッピングセンターの拠点作りに参加してもらいたい!』
その発言に他のパーティはかなりざわつきはじめている。
「それって強制なんですか?」
「畑耕すのなんか農業やってる人に任せればいいだろ!」
「俺レベル上げに忙しんだけどなー」
そんな批判的な意見も飛び交う。
『強制ではない。だが、できるだけ皆には参加してほしいと思ってる!』
川上さんはマイクを置き大きな声で言った。
『カキ工を含め他の安全地帯の学校でも日に日に避難してくる人は増えきている……そうなるとどうしても冬を越すだけの食料が足りないんだ!それにもしあの地下空間が年中温暖だとしたら、気候に関係なく野菜を育てられる上、冬場は寒さに弱いお年寄りの避難場所にもなるんだ!』
「食料不足ってまじかよ!」
「確かに最近寒くなったしな……ストーブの数もそんなにないって聞くし」
「地下空間に魔物がいないんだったら、いざという時に避難所にもできるよね!」
あちこちで肯定的な意見が出始めた。
『それに、ショッピングモールは安全地帯の結界はないが、最近まで八岐大蛇のいたおかげで魔物があまり侵入しておらず、人の死体がなかった!急いでショッピングセンターの出入り口にバリケードを作りに行けば、容易に物資が沢山あるショッピングセンターを拠点とできるはずだ!!そして今回、参加してくれた者にはショッピングセンターの物資を優先的に使用してもらってかまわない!!』
川上さんのその提案に歓声がわき、拍手が巻き起こった
そんな時一人の男性が異を唱えた
「いやっ!でもさ!また八岐大蛇が現れる可能性があるだろ!!あいつを一度見たことがあるが人が敵う相手じゃない!!俺も危うく死にかけた!」
その男性の発言に、「たしかに……」「そうだよなー」などと周りの場の流れが悪くなった。
『それに関しては心配ない。なぜなら、八岐大蛇は何者かによって倒されたからだ』
その発言に一層皆のざわめきが大きくなった。
「何を理由に倒されたと言えるんですか?」
『八岐大蛇がいたと思われる場所はかなり激しい戦闘跡が残っていた。また、同行してもらった北高の白川恵さんの持つ【残留思念】スキルによると4、5人が八岐大蛇を倒したというビジョンを感じとったそうだ』
恵も一緒に調査に行ったのか……
【封印】スキルの件でもそうだが、かなり重要人物扱いされてるんだな…恵のやつ…
『残念ながら倒したのが誰かまではわからないが八岐大蛇が倒されたのは確かだろう!』
「まじかよ、たった4、5人でが倒したのかよ……信じらんねぇ…」
「あれじゃない?謎のフードの男!あいつが倒したんじゃね?」
「物資や家畜を運んでは消える謎の男か!かもな」
「それにたった一週間程でできてた安全経路も謎だよなー」
「意外とこの中にいたりして……」
「まぁ、八岐大蛇が倒されたんなら、俺はこの企画に参加するぜ!」
「私も!」「僕達のパーティもやるぞ!」───
八岐大蛇の脅威が無くなったとわかるやいなや、続々と参加を表明する声が上がる。
『ありがとう!参加してくれるパーティのリーダはこちらの紙に署名しにきてくれ!』
◇◇◇◇◇
「俺達も参加するよな?」
俺は三人に問いかけた。
明良「俺は賛成。メリットが大きいからな」
黄瀬「もちろん私もです!」
夏子「じゃあ《色》も参加するってことで署名してくるわね」
そうして俺達の参加も決まった。
他のパーティもほとんど参加するようだ。
◇◇◇◇◇◇◇
参加を表明した全17パーティー、総勢108人は川上さんの先導のもとでショッピングセンターへとやってきた。
道中、大蜘蛛の群れに遭遇したのだが、他のパーティがとても優秀な動きで瞬く間に片付けていった様子にはとても目を見張るものがあった。
明良の部活の後輩が組む《刀の錆び》による見事な刀さばき─
大石の所属する《野球部隊》の見事な投擲や棍棒術─
土木作業のおっさん達《土の呼吸》は土魔法で───
《野菜の団》による植物攻撃─
俊敏な動きをする《空手倶楽部》──
女性のみで組まれた《ウーマンズ》─
巨大な剣や銃や盾等に変形する武器を扱う《機械研究部》──
チームバランスがよく連携の取れている《社畜の魂》───
等々のパーティもスキルで極めた技や武器を駆使して戦っていた。
『よし!それじゃあ打ち合わせ通り動いていくぞ!まず《土魔法》スキル持ちは防壁と掘り作りへ!』
土木作業のおっさんや建築科の生徒がそれに返事した。
『《回路把握》スキル持ちは配電盤を探し、校長から預かった魔石を使ってショッピングセンターの電気を使えるようにしてくれ!』
その指示に、夏子を含む電気科、電子機械科の生徒と電送会社の人が返事をする。
『残りの者はショッピングセンター内に魔物が潜んでないかの調査をした後、窓や出入口のバリケード作りをしてくれ。だが、《野菜の団》と植物・農業系スキルを持つ者は私に同行して地下層に向かう!以上!解散!』
そうして各自別れていった。
◇◇◇◇◇◇◇
俺と明良と黄瀬は黙々とショッピングセンター内の魔物を狩り続けていた。
ショッピングセンター内には、やはり、ゾンビやオーク等の魔物が少なからず侵入していた。
最近まで八岐大蛇がいたので、魔物がいなかったとはいえ、八岐大蛇を討伐してから6日が経過していたので当然といえば当然だ。
問題なのは、まだショッピングセンターの電気が復旧してないということだな。
俺達《色》は全員【暗視】スキルを持っているうえ、俺の【空間認識能力】のおかげで陰に潜む魔物に怖れることはないが、
【暗視】や【光魔法】等を習得していない懐中電灯頼りのパーティはいつも以上に危険だと思う……
これは川上さんの指示ミスだよな?
ショッピングセンターの魔物を倒してからバリケード作りをするのではなく、夏子達がショッピングセンターの電気を復旧させるまでバリケード作りをしながら待機して、電気がついてから魔物の殲滅をした方が安全だ。
まぁ、今さら考えたところでもう遅いがな。
それにショッピングセンター内に叫び声が響いてないし、今のところは大丈─────
───うわぁぁぁあ!!!
───ブゴォォォォォ!!
突然、ショッピングセンターに悲鳴と空気を揺らすような雄叫びが響き渡った。
……マジかよ
──ピカッ
そしてタイミングよく電気もついた。
明良「今の悲鳴なんだ!?、上からだよな?!」
黄瀬「今の雄叫び……嫌な予感がします」
「……だな。とりあえず向かうぞ!」
◇◇◇◇◇
俺達は動き出したエスカレーターを駆け上がり、3階のその現場にたどり着いた。
他のパーティーも続々と集まってくる。
「酷い……」
その現場は目を覆いたくなるほど凄惨な現場であった。
4人の切り刻まれた死体が転がり血に染まった床が照明に照らされ真っ赤になっていた。
そして、その死体を踏みつけて嘲笑う身長が250㎝はあろうかという大柄な一匹のオークがたたずんでいる。
「なんだよあいつ……」
普通のオークとは明らかに違うことは一目でわかった。
サイズもそうだが、何より顔以外をくまなく覆っている全身鎧に盾と剣を装備していて、これほどのオーラを醸し出すオークは見たことがない。
2日ぐらい前、そこそこ強いハイオークと戦ったことがあるが明らかにこいつは桁違いなオーラだ。
明良「よくも……よくも……俺のかわいい後輩を……!!!」
明良が涙を流しながら怒りを顕にしていた。
その理由はすぐにわかった。
転がる死体をよく見ると、明良の剣道部の後輩達《刀の錆び》のメンバーであった。
「まじかよ……こいつらかなりの実力があったはずなのに……」
暗闇で不意を突かれた……ってことはないか。こいつら【敵意察知】スキルを持ってるって明良から聞いたことがある。
状況から見てほぼ一撃……
相当ヤバい敵だな……
黄瀬「鑑定しました!こいつ《ハイオークナイト》という魔物です!しかも……」
明良「許さん!!!死ね!糞豚がぁぁぁ!!!」
「待て、行くな明良!」
黄瀬の鑑定結果を聞き終わる間もなく、明良がハイオークナイトに風刃を放ち凄い形相で切りかかっていった。
明良の以前よりレベルの上がった風刃がハイオークナイトに直撃した。
黄瀬「ダメ!鎧に、《魔法耐性大》と《衝撃吸収小》が付与されてる!」
明良の放った風刃はオークの鎧には傷一つけれていなかった。
明良「この糞豚がぁ!喰らえ!」
明良はこれでもかと、魔力を流しこんで強化した刀に、さらにMPを大量に消費して風を纏わせ、渾身の一撃を見舞う──
─相手は一刀両断される。
─と思われたが、ハイオークナイトは軽々盾で受け止め、弾く─そして、怯んだ明良に一太刀を入れ蹴飛ばした──
明良は宙を舞い、商品棚に突っ込んだ。
「明良!」
「アキ君!!」
嘘だろなんだよあの動き!
あの明良を流れるように……
「おいおいおいおい!」
「ヤバいヤバいって!」
「来るな!」
ハイオークナイトは「今度はお前らだ!」と言わんばかりに剣を振るって他のパーティに向かっていく。
くそっ!早く明良の所に行きたいのに!
「固定結界×5!」
俺は瞬時にハイオークナイトに固定結界を展開させ身動きを封じた。
このスキルは秘密にしときたかったが、そんな悠長なことは言ってられない。
結界内に頭まで入りきらなかったがハイオークナイトが暴れたおかげで無事収まった。
この固定結界は5重掛けした。ダメージによるMPの減りを1/5にできる裏技だからちょとやそっとじゃ破れないだろう。
勘だが、こうでもしないとすぐにMPが飛びそうだ。
「黄瀬!後は任せた!他のやつらも今のうちにやつを倒してくれ!こちらからの攻撃は届くようにした!!」
ここを他の奴らに任せて明良のもとへとかけよった。
明良「……うう……くそ……許さねぇ」
明良は泣いて転げていた。
片腕を切り落とされ横腹からも血が滲んでいた。
同じ部活の後輩を殺されて悔しいのだろう。
「明良、気持ちはわかるが、バリアを付与してやる前に突っ込むなよバカ!!この出血の量はヤバい!早く俺の固有スキル【神様の応援】を選択してくれ!」
俺は称号【八つの首の王】によるスキル一覧を明良の前に表示させた。
明良は震える指で【神様の応援】を選択する。
明良「ありがとう……涼夜……あいつ……は俺が倒す……」
明良の腕は新しく生え、横腹の傷はふさがった。
だが大量の出血によりふらふらだ。
「無理をするな!俺達にまかせとけ!」
夏子「涼君!これは何事!」
いつの間にか夏子も駆けつけていた。
よく見ると川上さんを含む大半のパーティが集まっていた。
◇◇◇◇◇
2m四方の固定結界によって閉じ籠められたハイオークナイトはかなり暴れ回っている。
暴れ回る度に俺のMPがじわじわと削られていく。
「みんな今のうちに倒しきるぞ!」
「やれぇ!」
そんな中、続々と集まってきたパーティによる結界外からの攻撃が続いているが、どれも決定打に欠ける。
ハイオークナイトという個体自体が強い上に、鎧に付与された《魔法耐性大》《衝撃吸収小》のせいで、ろくにダメージが通らないのだ。
これってボス級じゃないか?
「くそぉ!こうなったら俺の【爆弾生成】で作った爆弾で吹きとばしてやる!」
一人のカキ工生が爆弾を握りしめて叫んだ。
まずい
「やめ─」
川上「ダメだ!!爆弾なんか爆発させたら!結界が持たない!」
俺が止めるより早く川上さんがそいつの腕を掴んで止めた。
どうやら、恵から結界スキルの概要を聞いてたのだろう。助かった
それよりもまずい。もうMPが尽きる……
途中からすでに結界を10掛けしたにも関わらず……
なんてパワーだ
仕方ない、《青剣》でとどめを刺すしかないか……
最近【投擲】スキルを手に入れたから、いくら《衝撃吸収小》の鎧といえど、貫けるはずだ。
目立つから、できれば他のやつに倒してほしかった……
そう思いながらもこっそり《青剣》を取り出して構えた。
その時──
「くそぉ!くらええぇ!」
一人の男性がやけになりハイオークナイトに向けて【火魔法】の火炎放射を放った。
「バカ!【魔法】が効かないんだからMPを無駄にするな!」
「熱いし、見えにくいから止めろ!!」
そんな周りの注意も全然聞かずその男性は火炎放射を放ち続けた。
気が狂ったか……
案の定、ハイオークナイトには全然効果が………………あれ?
「お、おい!なんか苦しんでないか!あのオーク!」
ちょうど、気が狂って火炎放射を放っていた男性のMPがなくなったころ、ハイオークナイトが盾や剣を放り投げて両手で自分の喉をもがいていた!
川上「そうか!結界内の酸素がなくなって!窒息しているんだ!」
川上さんがハイオークナイトの盾と剣を拾いあげながら言った。
そして─
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
レベルアップのアナウンスが頭に流れ、ハイオークナイトは魔石とドロップアイテムを残して消えていってしまった。
…………
しばしの沈黙が続き
「…………終わったのか?」
「やった!」「俺達、勝ったんだ!!」
みんなの喜びの声がショッピングセンター中に響き渡った。
【経験値倍】があるとはいえ、結界で足止めしてただけでレベルが3つも上がった……
それだけ強い相手だったってことか……
それだけに決着が窒息死なんてあっけなかった




