31、アイテムと地下層と蛇子
「よし!討伐完了だ」
八岐大蛇は野球ボールサイズの魔石とドロップアイテムの剣を残してダンジョンへ吸収された
明良「お~い!涼夜!今の技なんだよ!すげぇな!あの八岐大蛇を一刀両断なんて!」
黄瀬「さすが涼夜先輩ですね!」
夏子「お疲れさま。凄かったわね今の火剣よね?」
明良達が固定結界から出て俺の方へと駆け寄ってきた。
「ああ、あれは俺が考えてた必殺技だ。試したことなかったが成功したみたいでよかった」
最悪の場合、大爆発したり、すり抜け効果でかわされてた可能性もあった
「それよりドロップアイテムがあるみたいだから鑑定してくれるか?黄瀬」
黄瀬「わかりました。この両刃の剣ですよね。……えっと……剣の名前は《天草剣》、特殊効果もあるみたいで"水を清め、剣を振るえば水刃を放ち、天高く掲げれは雨雲を呼ぶ"らしいですよ」
つまりスキルなしで水系の技が使える剣か……いいな!
ボスクラスのドロップアイテムというだけあってレア度も高いだろう。
「どうする?これ、誰が使うかじゃんけんするか?」
俺達色パーティは基本、ドロップアイテムに関しては倒した人の物、となっているが今回は全員で討伐したようなもんだからな
「「…………」」
夏子「涼君に任せるわ……最後、私達何もできなかったし。二人もいいよね?」
明良「そりゃあ、もちろん」
黄瀬「はい、それがいいですね」
「じゃあ俺が収納しておいてあとあとどうするか考えよう」
黄瀬「それで結局、途中で現れて途中で逃げ帰った緋田って人は何がしたかったんでしょうね?」
夏子「それなんだけど、緋田君は、"八岐大蛇のすり抜けスキルを奪う"って言ってたじゃない?これは私の推測なんだけど多分、殺した魔物のスキルを奪うスキルをもっているんじゃないかしら?」
黄瀬「あー…だから"トドメは俺がさしたかった"なんてことを言ってたんですかね?」
「だとしたら凄くないか?そんなチートなスキル持ってたら………」
まさか武をあんな簡単に殺してたのも自分が強くなるためだったから……?
明良「それを涼夜が言えことかよっ!このチート野郎のくせに!」
明良が笑いながら俺に言った。
「はは、まぁ、それより今日はもう帰ろう。色々疲れた」
夏子「そうね。今回はかなり汚れたから」
黄瀬「早くお風呂に入りたいですね」
夏子と黄瀬は爆煙を浴びてたから黒すすだらけだしな
明良「おっと、帰るのはまだ早い!お楽しみがまだ残ってるぜ!!」
明良が意気揚々と言ってきた
「「お楽しみ?」」
明良「まぁ、俺についてきてみ!」
と言って向かった先は俺達が降りてきた階段の対面側だった。洞窟の壁色と同化して気づかなかったが、そこには隠し部屋への扉があったのだ。
扉を開くと、そこには3つ宝箱と更に地下へ続く階段があった。
どうやら明良はこの3つの宝に【宝探知】がひっかかったらしい
黄瀬「宝箱が3つも!」
夏子「今まで一ヶ所に宝が複数あることなんてなかったのに……さすがボスエリアね……」
「ボスを倒しただけに見合う宝だといいがな……どうだ?」
明良「じゃ、まず一個目をあけるぞ!」
と明良は三つのうちの一番大きな宝箱を開ける。そこには立派な装飾が施された金属製の盾があった。
「盾だ……」
黄瀬「盾ですね……」
夏子「ゼル伝のあの盾っぽい……形も大きさも……」
明良は宝箱に一緒に入っていた紙に書かれた文を読み上げた
明良「なになに……《伸縮の盾》"1cm~2mまで自在に盾の大きさを変えることができる"…だそうだ。つまりマジックアイテムだな」
「どれどれ、試してみようか」
俺は伸縮の盾の手持ち部分の輪に手を入れ拡大するよう念じた──すると
盾が形はそのまま"グググッ"と大きくなり始めた
だが、手持ち部分は俺の手にフィットした
明良「おお!大きくなった!」
黄瀬「これなら広範囲攻撃が来ても安心ですね、デカイから」
夏子「でも重そうだけど大丈夫?」
「いや、それなんだが……通常サイズの時と全然重さが変わらねえ……」
夏子「そうなの?じゃあ今度は小さくしてみて」
そうして俺は手持ち部分に今度は指を一本かけ小さくなるよう念じた。
すると最終的に盾は指輪のように俺の指に収まった
「うん、やっぱり同じ重さだ。逆に今は指一本にかかってて見た目小さい分、今の方が重く感じるぐらいだ」
夏子「なるほど、大きさが変わるのに質量が変わらないってことは大きくするほど密度が少なく脆くなり、小さくするほど硬くなってる可能性があるわね」
「確かに」
明良「じゃそれは後で考えるとして、次の宝箱開けるぞ」
明良は次の宝箱を開けたくてウズウズしていたようだ
今度は小さい宝箱が開かれ中に四角柱の青いクリスタルのような結晶が2つ入っていた。
明良「これは……《転移石》"片方に魔力を込めると対になるもう片方の転移石の所へ転移できる"って書いてある」
明良は説明文を読み上げ言った。
黄瀬「赤井先輩の【瞬間移動】スキルのアイテムバージョンみたいなものですかね?」
「そうっぽいな」
夏子「これも後々使い道を検討しましょうか」
明良「じゃ、ラスト開けるぞ」
と、明良は三つ目の中位の宝箱を開けた。
そして中から出てきたのは一冊の本だった。
夏子「これは……スキル書?」
明良「みたいだな。《使い魔創作の書》"最初に読んだ者は【使い魔創作】スキルを習得できる"だそうだ」
「使い魔創作…?恵の式神の鬼みたいなやつを作れるのか……?」
まぁ、明良が前に使った【光魔法の書】よりかはレアそうだ。
「どうする?剣と盾とスキル書を誰がどれを使うか今決めとくか?」
夏子「いえ、それは家に帰ってからにしましょ。収納に入れておいて」
「わかった」
黄瀬「収納効果のある宝箱も忘れないでくださいよ。これも重要なマジックアイテムですから」
「ああ、もちろんだ」
俺は空の宝箱もしっかり収納に納めた。
最近、重い物の持ち運び以外に、畑の収穫物の保管に【状態保存】と【収納】効果のある宝箱が重宝されているのだ。
………
明良「じゃあ……そろそろ、この更に地下へ続く階段について考えようか……」
ああ……ついにそれを話題にだしてしまったか……
「ゲームのダンジョンとかだとこういう階層は地下へ行くほど強いボスがいるお約束だよな……今から行くか?」
黄瀬「い……いってみます?」
夏子「そうね。一応、把握しておきたいし。覗くだけにして危なくなったらすぐに瞬間移動で帰りましょ」
そういうこととなり、俺達は更に地下へ続く螺旋階段を下り始めた。
──────
下って行くこと十数分、下の方から明かりが見えてきたかと思うと階段の壁が終わり俺達の目に信じられない光景が映った。
「嘘だろ…」
「なんで地下にこんな……」
「信じられない……」
皆、あまりの光景に驚きを隠せない。
それもそのはず、俺達が出た高台のような所からは、360°見渡す限りの壮大な大自然が果てしなく広がっていたのだ
しかも地下なのに昼間のような明るさ……
「地球ダンジョンも階層のダンジョンだったのか……地球規模で?」
異世界の大樹ダンジョンも階層だったが明らかに規模に違う
明良「それにしてもこの高さから見渡しても果てしなく広がっているな……あの遠くにある柱みたいなのもここと同じで地上へ続く階段っぽいな」
明良は遠くにいくつか見える大きい柱を指差しながら言った。
夏子「ええ、どうやらここ以外にもいくつかの階段があるみたいね」
黄瀬「それでこれからどうします?この層の地上へ降りる階段が続いてますけど……いきます?」
俺達がいる柱の高台部分から柱に沿って螺旋階段で降りれそうだ。
下まで100mといったところか……
夏子「いえ、止めときましょう。私達だけでは手にあまるわ。この層のことについては学校の方に報告しておくということで今日は帰りましょ」
「待て、報告って、そしたら八岐大蛇を俺達だけで倒したってこともばれないか?それはさすがにまずいだろ。あまりに目立ちすぎる」
ここいらで一番強いエリアボスを倒したとなれば色々と勘ぐる人がいるかもしれない。
夏子「じゃあ、それとなく噂を流して情報源がばれないようにするわ」
「まぁ、それなら……わかった。じゃ、掴まれ瞬間移動するぞ」
ということで俺達は瞬間移動で家へと帰った。
────────────
家────
家で今日の振り返りを話しあった後、今日手に入れたアイテムについて相談した
結果
《転移石》《天草剣》は俺が収納で保管することになり
《伸縮の盾》は明良が
《使い魔創作術の書》は黄瀬が使うこととなった。
──
黄瀬「本当によかったんですか私がスキル書を使ってしまって」
黄瀬が申し訳なさそうに夏子に言った。
夏子「いいのいいの。前回の宝箱で《魔法弓》をもらったからね」
明良「桃花、それで、どんなスキルだったんだ?【使い魔創作】ってスキルは」
黄瀬「えっと……製作者に従順な魔物を作れるスキルらしいの。"基礎とする魔物の魔石を粉末状にして、触媒とする物と混ぜ、それらに魔力を込めると魔物が生まれる。製作可能数1体"みたい……それと触媒にする物の性質を引き継げたり、込める魔力が魔物のサイズに影響するそうよ」
「うーん。いまいちよくわからんな……」
それと一体しか作れないのか?
いや、それはSLvが低いからか……
明良「まぁとにかく今から一回試してみようぜ!そこらへんは桃花に任せるからさ」
夏子「そうね。私達がとやかく言うより、スキル書を読んで理解している桃ちゃんが好きに作ってみて」
黄瀬「いいんですか?それなら遠慮なく─赤井先輩今から言うものを出してもらっていいですか?」
「ああ、何がいる?魔石なら大抵の魔物の魔石は収納してあるぞ」
スライム、大蜘蛛、ゾンビにオーク、大蜥蜴……などなど学校に提供する分とは他に貯めている
黄瀬「八岐大蛇の魔石に大蜥蜴の鱗、それにヤスリをお願いします」
いきなり大本命の魔石か!
「わかった。鱗は破片一枚しか残ってないが、いいか?」
俺は収納から取り出して言った
黄瀬「十分です!」
と言って受け取り、黄瀬は八岐大蛇の魔石をヤスリで削りだした。
魔石を1/4だけ粉末にしたあと大蜥蜴の鱗を混ぜ魔力を込めだした。
黄瀬「使い魔創作!!」
瞬間、それらは目映い光を放ちながら膨らんでいく。
どうやら黄瀬の込める魔力で魔物の肉体が作り上がっているようだ。
黄瀬「できました!名前は【蛇子】です!」
光が収まるとそこには20cmぐらいの鱗に覆われた小さな八岐大蛇がいた。
明良「す、すげぇ……かわいい」
「蛇子って、もう名前までつけたのか」
夏子「こ、この子…蛇子は使い魔になったの?」
黄瀬「はい。見ててください。蛇子"お手"!」
その指示に蛇子は首を八つ伸ばし黄瀬の手のひらに頭を乗せた。
明良「おおー。言葉理解できるんだ!」
"手"じゃなく"頭"だが……
「八岐大蛇と同じように首を伸ばせるんだな」
夏子「……それなら、この子も、すり抜けや変態や火を吐いたりできるの?」
黄瀬「わかりませんが多分できます」
明良「蛇子~、この机をすり抜けてみて~」
蛇子 (…………)
蛇子はそっぽを向いた
「無視か……どうやら黄瀬の言うことしかきかないみたいだな」
明良「えぇ……そんな…蛇子、お菓子でも食べるか?」
どうやら明良は蛇子をえらく気に入ったみたいだ。
そういえば以前から明良は小さい蛇やイグアナなんかの爬虫類を飼ってみたいと言ってた覚えがある
黄瀬「蛇子!この人達は同じパーティメンバーで仲間なんだから言うことを聞いてあげてね!わかった?」
蛇子 (シャー……)
八つの首がうなずいた。
どうやら理解してくれたようだ。
そうしてその後もミニ八岐大蛇の蛇子の特性を調べた結果
八岐大蛇同様
・すり抜け効果がある
・あのよく分からない生物イグアナ似?の生物に変態できる
(以後イグアナ形態と呼ぶ)
・イグアナ形態でのみ火を吐け、とても素早く走れること
・小さくても蛇一本だけで黄瀬を持ち上げるぐらいの力があること
・触媒にした大蜥蜴の鱗も引き継いでいるため防御力もそれなりにあること
───
等々がわかった
明良「それにしても何でこのサイズにしたんだ?もちろんこのサイズの方がかわいいけど」
黄瀬「だって、あの胴体だけで10mはある八岐大蛇と同じサイズにしたら大騒ぎになるでしょ。まぁ、普通にMPが足りなかったこともあるけど……」
明良「なるほど」
「それで、蛇子はどういう扱いだ?家で買うペット?それとも共に戦う俺達《色》のメンバー?」
黄瀬「私はあの《獣の牙》パーティのようにテイムした魔物ということで共に戦い、戦略の幅を広げるつもりでしたが……まずいですかね?」
あの鉄顎狼をテイムしたパーティか……
最近は鉄顎狼の他に大蜘蛛と魔物熊もテイムしたらしいな……
夏子「そうね……見た目が八岐大蛇にそっくりだから他の人が見た時に怪しまれそうなのよね。私達が八岐大蛇を倒したんじゃないかって」
俺達が八岐大蛇を倒したことは秘密にする予定だ。
秘密にしたい理由は色々ある
・どうやって倒したのか聞かれた場合、下手に手の内を言ってしまえば【収納】【瞬間移動】が気づかれてしまうかもしれないこと。
・目立つと、行動範囲が狭まり無闇に瞬間移動とかを使えなくなる。実際に、ハルにばれてしまってるが、利用してやろうとか、ばらしてやろうとかは今のところない。
・"倒した時に得たアイテムを独占するな、分けろ!"なんて言ってくる人も出てくるだろう。
まぁ、とにかく面倒なのだ
「家で飼うなら隠し通せるが……連れ歩くならリュックにでも入れとくか、イグアナ形態にさせとくか、常に俺達の地面下に潜らせとくかぐらいだな」
黄瀬「じゃあ、リュックに背負って連れ歩きます!蛇子も地面を泳いでついてくるの大変でしょ?」
蛇子 (シャー)
明良「まぁ、見られた時は普通に"八岐大蛇の下位種【レッサー八岐大蛇】を見つけたからテイムした!"で言い切ろう!」
夏子「そういうことなら蛇子は桃ちゃんに任せるけど……餌は何を与えるつもり?」
黄瀬「基本的に魔物肉や魔石で大丈夫なはずです。餌やりや躾は任せてください!」
そういえばショッピングセンターの八岐大蛇って沢山人を食べてたんだよな…………うん、考えないでおこう。
夏子「それじゃあ、これで八岐大蛇討伐作戦の反省とアイテムの分配、及び蛇子の件の話し合いは終わるわね。何か他に言いたいことがある?」
俺と明良と黄瀬は首を横に振り何もないと返事した。
夏子「じゃあ、各自学校に行って【八岐大蛇が消えたこと】【地下層の発見】の噂をそれとなく広めてくるように」
明良「OK。俺は部活の後輩に"住民のおっさんが言ってたんだけどさ……"ってそれとなく言って広めてくる」
「じゃあ俺も……知った顔に会ったらそう言うか。それと情報掲示板とかに書き込んだりしとく」
黄瀬「私も友達やクラスメイトに広めてきます!情報元がわからないように!」
夏子「お願いね。それと、明日は遠征は無しにするから各自自由に過ごしてね。解散!」
明良「やった!一週間ぶりにゆっくり寝れるぞ!」
そんなことを明良が呟きながら各自別れて学校へ向かったのだった。




