25、北高
俺達はその後、昼前にはショッピングセンターから無事学校までたどり着き、夏子は有本を連れショッピングセンターでの一件の報告に会議室へ、俺も夏子からの頼みごとの用事で明良達と一旦別れた。
───
そして用事も済み、昼食も食べ終わったところで生徒会室へ来た
生徒会室────
コンコンガチャ
夏子「あ、お帰り」
生徒会室には夏子だけがいた。
「……おう。明良達はまだ来てないのか?」
夏子「ええ……」
「…………」
俺は生徒会室のソファーに座った。
…………
「なぁ、夏子」
夏子「何?」
「俺のこと急に涼君って……言いだしたよな?」
夏子は少し顔を赤くした。
夏子「そ、それは……その方が恋人っぽく見えるでしょ!偽の恋人として!」
「なんだ……そうか」
恋人に見えるようにするためだけの理由か……
夏子「いえ……それは言い訳けよね……」
夏子は改まった顔で言った。
「ん?」
夏子「実はあなたに最初に会った日からなぜか"涼君"って言葉が頭に浮かんでいて、それからずっと心の中では"涼君"って呼んでたの。そして今日ついつい"涼君"って呼んでしまったから……」
夏子もか……
「それで俺のこと涼君って呼ぶことにしたのか…………それよりもしかして俺達……昔会ったことがあったりする?」
俺もつい最近夏子を改めて見てると"なっちゃん"って言葉が浮かんでくるときがある……
なっちゃんとは誰だっただろう?どこかで聞いたことがある
夏子「ううん……やっぱりただの偶然と勘違いよ。小、中も違う学校だし……小学生の頃まで私、島の田舎町で暮らしてたんだから接点なんてないよね」
「そうなんだ……」
ん?島?田舎?
夏子「あっ、思いだした!田舎にいたころ"涼君"って子が毎年夏になると来てたのよ!」
「はは、まじか……」
俺だ……
思いだした。小学生の頃、毎年夏休みになると田舎のばあちゃんの家に預けられてた……
確かそこで"なっちゃん"って女の子と仲良くなってた……
これ多分夏子だ……
夏子「でも小5くらいから来なくなったのよねー。でもあの子があなたなわけないよね。あの子あなたと違ってかなりやんちゃぼうずだったから!」
絶対に俺だ……
小5の時にばあちゃんが亡くなってそれっきり田舎に行ってなかったし、小学生の頃の俺はまさに"やんちゃぼうず"だったからな……
「思いだした……」
夏子「え?」
「俺がそのやんちゃぼうずの涼君だ。懐かしいな、なっちゃん!」
こんな偶然あるんだな……
夏子「え、えぇー!私の昔の呼び名……えっ、だって……」
混乱してるな……
「俺の昔の写真でも見て見るか?」
俺は収納から一つのアルバムを取り出した。
おばあちゃんが田舎に来た俺を撮って作ってくれたアルバムだ。ばあちゃんが亡くなった時、俺がもらった。
そこには俺とばあちゃんの楽しげな写真が沢山写っていた。
ページをめくるたび悲しみが押し寄せてくる。
世界で一番大好きだったおばあちゃん。俺を唯一愛してくれてた最後の家族……
夏子「本当……この背景の田舎、私の住んでいた田舎の風景…………あっ!」
夏子はページをめくると、そこからは俺と女の子との楽しげな写真が張られてあった。
なっちゃんだ。
一緒にスイカを食べてる写真、川で遊んでる写真、カブトムシを掲げている写真、どれも楽しそうだ。
「この子って夏子だよな?」
夏子「えぇ、私!やっぱり私達って昔に出会っていたのね!これって運……偶然ってすごいね!」
「ああ!」
そうして俺達はよみがえる思い出話に盛り上がった。
そうこうしていると明良達が来た。
コンコンガチャ
黄瀬「遅れてすいません。アキ君がおかわりしていて遅れました」
明良「ははは……ん?二人とも何でそんな嬉しそうな顔してんだ?」
夏子との会話が楽しすぎて顔に出ていたみたいだ
「何でもない!」
夏子「えぇ!」
明良「そうか」
黄瀬「それでどうでした?今日の件」
夏子「あの魔物は見た目から【ヤマタノオロチ】って命名されて、エリアボスということでショッピングセンターに近づかないよう皆に通達するそうよ。不良少女の有本りんは一週間の軟禁後、1ヶ月のトイレ掃除の罰がくだったわ」
明良「そんなのでいいのかよ!」
黄瀬「学校を乗っ取ろうとしていた人達の一人ですよ!」
夏子「あの子もあの時周りに逆らえず一緒にいただけみたいだし、奴隷にされていたカキ工生から"有本だけは優しくしてくれた"って証言もあったからね……」
有本はタバコ吸ったり面白そうだからという理由で不良達に混じってたかもしれんが根はそこまで腐ってなかったのだろうな……
明良「そうか……それなら別にいっか」
黄瀬「そうですか」
二人も納得してくれたようだ。
「それで午後からはどっか遠征に行くのか?それとも今日はもう終わりか?」
夏子「午後から北高へ行くよ」
黄瀬「不良達を追放した北高ですか!」
明良「でも、北高のことは報告してるんだろ?それなら俺達じゃなく他のパーティと先生が向かってるんじゃないのか?」
夏子「もちろん、すでに先生を含む3組のパーティーが北高へ向かったわ。だけど涼君が一回は北高へ足を運んでおかないと今後、いざという時に瞬間移動で向かえないじゃない」
明良「それもそうか」
「じゃあ、そういうことで準備はいいな?掴まれ」
そうして俺達はショッピングセンター近くまで瞬間移動し、そこから徒歩で北高へと向かった。
明良「こういう時、バイクとか車が使えたらいいのになー」
北高へと向かう途中明良がそんな事を言った。
「明良、免許もってるのか?」
明良「いや、持ってねーけど……あったらいいなーって話!」
黄瀬「でもこんな、所々で車が横転している状態ではろくに車なんて走れないよアキ君」
夏子「いえっ!いい考えよ!明良君!」
夏子がひらめいたように言った。
黄瀬「どういうことですか?夏子先輩」
夏子「まずは涼君が道路にある邪魔な車を収納して、それを道路の端に積み重ねていったら魔物の侵入しにくい学校間を繋ぐ安全なルートを作ることができるわ!」
「なるほど!」
黄瀬「そしたら誰でも車を使って物資を運んだりできますね!」
明良「車も魔物をはねても凹まないよう鉄筋で覆ったりすれば完璧。溶接なら俺と涼夜が得意だぞ!」
俺の場合は【溶接】スキルまでもってるからな
「そして俺が頑張って【小物創造】でガトリングでも作って搭載すれば完璧だな……」
「「いいねー!」」
って盛り上がってるが学校間って何㎞あると思ってんだよ!
それも北高、志雄子小、正忠大全部するとなると大仕事だ。
ガトリングも冗談で言ってはみたが構造や仕組みもわからないから作れないし
夏子「あっ北高もあと少しみたいよ!」
そうこう話ているうちに北高の拡大された安全地帯に突入していた。
そうして北高の校門にたどり着き、門にいた人に事情を説明して学校に入れてもらった。
夏子「もうカキ工の先生達が着いてるみたいだからそこへ合流してくるわ。その間自由にしといてー」
そう言われて夏子は行ってしまったので俺達は各々、北高の校舎に入って中学の頃の知り合いでも探して回った。
中学の頃の友達が何人か北高へ行ったからな、久しぶりに会ってみたい。
そんな思いで北高を回ってみたが知り合いに出会うことはなかった──
カキ工のように遠征にでも行ってるのだろうか……
……はぁ……なわけないか……多分死んだんだろうな……
カキ工ですら初日に400人近く……全校生徒の2/3近くが死んだんだ……
北高もそれ以上の死傷者が出たはずだ……
俺は北高の中庭テラスに座りこみ一人でうなだれてた時─
「り…涼君……?」
後ろから聞き覚えのある声がした。
俺はすぐに声のした方へと振り返った。
「あ、……め…恵?!」
俺の目に映ったのは中学の頃の元カノ…白川恵の姿だった。
恵「ど、どうして涼君が北高に?」
「北高も安全地帯になってると聞いてカキ工から来たんだが……」
恵「え、カキ工もそうなの?」
「ああ、というか恵、北高に入学してたんだな……」
恵「……う……うん」
………………
「そ、それはそうと久しぶりだな!元気だったか……」
恵「最近は色々あって元気なかったけど……今は涼君に会えたことが嬉しい!」
「そ、そうか。俺も知り合いに会えて嬉しいぞ」
…………
どうしよう……
少しきまずい……
あんな別れ方してから話したことなかったからな……
くそ……あの時の俺は本当に恵に酷いことしたよな……
好きになってもないのに告白を受け入れて俺のバカな交際ごっこに付き合わせてしまって……
あれから謝れてもいない……
…………謝ろう!
明良もこんな世界になって後悔したくないから黄瀬に謝罪したんだ!
俺も見習わないと
「恵!」
恵「なに?」
「その…あれだ……あの時は悪かった!俺はあの時はまだバカで愚かなやつだったんだ!許してくれ!」
俺は恵に深く頭を下げて謝罪した。
恵「えっ、ちょっ……なにいきなり!頭を上げてよ……付き合ってた頃のことならもう気にしないでいいから!」
「許してくれるのか?」
恵「……許すよ。勘違いして浮かれてた私も悪いからね……」
「本当にごめん!」
恵「だからもういいって!それに今こうして謝ってくれたことが十分に嬉しいの……」
「…………ありがとう」
本当に恵はいいやつだ。
それなのにこんな純情な子の気持ちを結果的に持て遊んだ俺は本当にグズだったな……
謝れて本当によかった!
恵「あの時、涼君の気持ちを察して身を引いたけど……私の気持ちはまだ変わってないよ」
恵は小さく呟くように言った。
「ん?……それってどうゆう……」
すると─
夏子「涼君ー!何してるのー?」
夏子が俺に気づいて駆け寄ってきた。
「あー、夏子か。今中学の知り合いと話してたとこ。それよりもう用事はすんだのか?」
夏子「うん!」
恵「涼君……この女だれ?」
恵がはぶてた顔で俺に言った。
夏子「ちょっと!いきなり人を"この女"呼ばわりって失礼じゃない?あなたこそ誰よ!涼君の何?」
夏子も喧嘩腰に言った。
「おいおい!落ち着けよ二人とも!急にどうした」
そんな仲裁に二人は耳をかしてくれない。
恵「私は白川恵、涼君の中学の彼女だよ!」
たった2ヶ月ほどだがな
恵「あなたこそ涼君のなに?馴れ馴れしいようだけど……」
夏子「私はカキ工生徒会長の青景夏子、涼君の彼女よ!」
偽物の交際だけどな
恵「えっ、本当なの?涼君……」
「あー、まぁ、一応付き合っているかな」
あっ、このいい方はダメだな。
偽の交際といえど今さっき恵に中途半端な気持ちで交際していたことに謝罪したばかりなのに……
恵「…………青景さん。残念ね、どうやら涼君はあなたとの交際も本気じゃないみたいだよ!」
うっ!その言葉は胸に刺さるぞ……
許してくれ。俺がまるで軽い男だと思われる
すると──
明良「おーい、どうしたんだー?争いごとかー?…………あっ白川じゃん!久しぶり!」
明良と黄瀬が俺達に気づいて駆け寄ってきた。
恵「あっ、緑川君!緑川君もわかってるよね!青景さんと涼君の関係が偽りだってこと!」
ヤバいな……余計な事言うなよ……
明良「えっ、何で知ってんだ?白川」
黄瀬「話したんですか?偽の恋人のこと」
あーあ……
恵「……ん?……ちょっと詳しく話しを聞かせてもらってもいいかな?」
そして、俺達は誤魔化しができそうにないので話した。
ある男子が夏子にしつこいので諦めさせるために付き合ってるふりをしているということを。
恵「……そうだったんだ。大変だね涼君も……」
「まーな……」
恵「二人は付き合ってないなら……涼君、私ともう一度──」
その瞬間放送がながれた─
ピンポンパンポン
『緊急連絡!校内に【洗脳】スキルを使って学校を乗っ取ろうとする賊が侵入しています!賊は弓を持ったロング髪の青景夏子を中心として、剣を携えた緑川明良、槍を持った黄瀬桃花、それと赤井涼夜という者だ!校内にいる生徒はそいつらを見つけしだい拘束または安全地帯から追い出してください。くれぐれもそいつらの言葉に耳を貸さないでください。洗脳されます。繰り返します─』
…………
どういうことだ?!
明良「どういうことだ!」
恵「あなたたち……本当に?!」
恵は一歩後退りながら言った。
「違う。俺達はそんなスキルなんてもってない!」
黄瀬「誰かが私達をはめた……?」
そんな風に俺達は混乱していると「いたぞー!」「あいつらだ!」という北高生の声が聞こえた。
夏子「まずいわね……ひとまず逃げるわよ!」
「ああ」
そうして俺達は追ってくる生徒達を振り切り安全地帯を出て適当な民家に逃げ込むことができた。
「どこだー!」
そんな声が窓の外から聞こえてくる
明良「はぁ……はぁ……まだ追って来てる……俺達が何したっていうんだよ!」
夏子「どうやら私達は何者かにはめられたようね……」
黄瀬「そんな……それならひとまずカキ工へ帰りましょう」
「そうだな、皆掴まれ。家に瞬間移動する!」
そして皆が俺に掴まり瞬間移動しようとしたが……
………………
明良「どうした?」
「瞬間移動できねぇ……」
「「「ええっ!」」」
俺達は家にも学校にも瞬間移動できなくなっていたのだった




